テスト当日。
教室の空気は、どこかぴりっと張り詰めていた。
配られた答案用紙の文字を追いながらも、私はずっと、斜め前の席に座る緑の背中を見ていた。
"好き"を自覚してからというもの、気づけば目で追ってしまう。
彼の何気ない言葉や動きすべてに、過敏に反応してしまう。
こんなにも揺れる自分が、少し悔しくもあった。
試験が終わった放課後。
教室にはほとんど人が残っていなかった。
私はゆっくりと席を立ち、まだ鞄も開けずにぼんやりしていた緑に声をかける。
橙 。
緑 。
緑 。
橙 。
橙 。
ふたりだけになった教室。
机と椅子の並ぶ静かな空間で、心音だけが近くなる。
緑 。
橙 。
緑 。
また聞かれた。
今度は、目を逸らさずに聞いてくる。
橙 。
橙 。
小さな声で、それだけを伝えた。
緑は少しの間黙っていたけれど、やがてゆっくりと頷いた。
緑 。
緑 。
緑 。
橙 。
緑 。
まっすぐな声だった。
心が震えた。
私は、伝えたい気持ちを喉の奥に丸め込む。
言えない。でも、言いたい。
橙 。
それが、精一杯だった。
そのとき、教室の窓から差し込んだ夕陽が、彼の横顔を黄金色に染めていた。
きっとこの瞬間のことは、一生忘れない。
ふたりだけの教室。
まだ"好き"を交わせないまま、でも確実に、心の距離が近づいている_
そんな気がした。
コメント
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そうだよッッ!!そうだよッッ!! 圧倒的に距離近づいてるよ!! 頑張れ橙彡!! …緑彡視点もみてみたくはある…