メイ
あの…お嬢様に会いたいと言っている平民の方がいらっしゃるのですが…
アリス
……平民?
アリス
その方の名は?
メイ
リリア・ドルクラさんだそうです。
アリス
…いいわ、入れなさい。
メイ
承知致しました。
……まさか、 本当にあの子が来たのかしら?
でも、何故私の家が?
リリア
………し、失礼します…
アリス
…リリア、何故此処へ?
アリス
何か言いたいことがあるのならば、いつもの場所へ行けばいいじゃないの。
リリア
ち、違くて……!
リリア
…私、もう友達がアリスしかいなくって…
リリア
だから…その?普通に友達だから遊びに来たみたいな…
アリス
……それは友人を殺した私に対する嫌味かしら?
リリア
ち、違うの!本当に違うの!
アリス
じゃぁなあに?
リリア
……遊びたいのもあるんだけど…
リリア
………話したいことがあって
アリス
…わかったわ。
アリス
トランプでもする?
リリア
…!す、する!
アリス
はい、私の勝ち。
リリア
ねぇ強い!!強すぎるんだけど!!
アリス
知らないわよそんなの。
アリス
これで10勝ね。……ねぇ、もう終わりにしない?
リリア
まだ!!まだなの!!もうちょっとで勝てる気がするの!!
アリス
じゃぁあと1回だけね。
アリス
……こっちかしら、それともこっち?
リリア
こ、こっち!!……じゃなくて…こっち…かもしれない…
アリス
…なーんてね。
リリア
また負けたぁぁあああああああ!!!
リリア
強い!!絶対なんか仕込んでる!!
アリス
あなたが弱すぎなんじゃないかしら…いつもババのあるところに視線を向けてるし…
リリア
そ、そういう…!?理由がわかったならいける!!勝てる!…気がする…
アリス
…これでも私は心理系のゲームが得意なの。これを続けてもあなたの大声で負け宣言をする姿が目に見えるわよ?
リリア
う、うぐぅ…
アリス
それより、話したいことって言うのが気になるのだけれど。
リリア
……あれかぁ…
リリア
あのさ────
メイ
お嬢様。
アリス
あら、メイ、どうしたの?
メイ
旦那様がお呼びです。
アリス
……今行くわ。
リリア
えっと…お父さん?
アリス
…ええ
アリス
ごめんなさい、少し席を外すわ。
アリス
帰ってていいわよ。
リリア
……じゃぁ、また今度
アリス
………嫌だなあ…
アリス
────お呼びでしょうか、お父様
父
ああ、呼んだとも!
父
あのさぁ、アリス
父
アリアを殺した犯人を探す、なんてバカなことやめろやめろ
アリス
……は?
アリス
………何故、それを知っているのか教えてくださいませんか
父
お前の友人?知り合い?なんだか知らねぇが、リリアって奴が教えてくれたんだよ
アリス
……………え…?
アリス
…リリア……?
父
わざわざ俺の元に来て、お前のやった事全てを教えてくれたんだ。
父
お前がこわーい殺人鬼だと言うことも勿論。
父
何をすれば喜ぶのか、何が好きなのか、趣味、ぜーんぶ教えてくれたのさ。
アリス
……お父様は私を、どうするつもりなのでしょうか。
父
どうするつもりもねえよ。
父
ただ……
父
これを世間に広めることも出来るんだからな?
アリス
………お母様を殺めた犯人を見つけ、そいつに苦痛を与えたら、私は腹を切って償いましょう。
アリス
それまで、私はお父様の仰ること、全てに従います。
アリス
ですのでどうか、それまで見逃していただけないでしようか。
父
お前の態度によるな。
父
はっ、リリアって奴に裏切られたのか?アリアを殺した犯人もあいつじゃねえのか?
アリス
……そんなはず…
アリス
…いえ、有り得ます。
アリス
有益な情報をありがとうございます、お父様。
メイ
あの…お嬢様…!
アリス
メイ、協力して。
アリス
あの子を排除するの。
メイ
ですが…
アリス
もし違ったとしても、練習台として最高な人材でしょう?
メイ
……承知致しました。お嬢様の仰ることに従います。
お嬢様はあの日から、目に光がなくなった。
部屋に篭って、何かを書いている。
貴族のご友人と優雅に紅茶を飲み、 前までの謙虚で冷酷なお嬢様になった。
あの平民の方も尋ねて来ない。
お嬢様はきっと、 〈裏切られた悲しさ〉 ではなく、 〈信じてしまった自分の哀れさ〉 についてを悔やんでいるのだろう。
最近では白薔薇も見かけない。
アリス
………がう…ぁ様は…
ドアの外から少しだけ声が聞こえる
アリス
………あの子は………で…
アリス
────あ
アリス
そう、だ
「そうだ」 という言葉だけはっきりと聞こえた。
そんなに大きな声でも無いはずなのに。
そして、私は入るタイミングを見つけ、お嬢様に声をかける。
「入りなさい」 というお嬢様の声。 何とも冷たく、シンプルな言葉。
メイ
お茶をお淹れ致しました。
アリス
ありがとう。
アリス
………ねぇメイ
メイ
はい、どうされました?
アリス
白薔薇1本、あーげる。
幼く、可愛らしい笑顔を見せながら言うお嬢様を見て──
私は、終わりを悟った。