ホソク
パシッとジンヒョンの手を払う。
そんな目で見られても仕方ない。
そんな目で見ないで。
全て自分が招いたことだ。 全部自分が悪い。
こうするしかなかった、僕は悪くない。
相反する感情が 僕の頭の中を交互に支配する。
ジン
ジンヒョンの顔を見れなくて 僕の今の顔を見られたくなくて その言葉を肯定するかのように、俯いた。
ホソク
ジン
ホソク
ジン
ジンヒョンの落ち着いた… それでも確かな怒りの滲んでいる声に、 心が押しつぶされそうなほど 苦しくなる。
視界に映るジンヒョンの靴は 僕の靴の先に当たるほど 距離を詰めてきている。
ジンヒョンの匂い。 あったかくて、安心する、大好きな匂い …だったはずなのに。
今はそれが 僕の汚い心を更に抉られる苦痛に感じた。
ホソク
ジン
ホソク
声を振り絞って出した言葉は 自分の行動を正当化して、保身に走った 最低な言葉。
こんな事、言いたくない。
謝らなきゃ、 ジンヒョンに…謝らないといけないのに…。
でも、僕の口は止まってはくれない。
ジン
ホソク
ジン
ホソク
言葉ではジンヒョンを突き放そうとしているのに 僕の心は、ジンヒョンを求めてる。
ジンヒョンの為には、このまま別れを切り出すべきなのに 僕の心は、そうしたくないと、彼にしがみつこうとしている。
髪をぐしゃぐしゃと掻きむしる。
わかんない。 自分は、彼をどうしたいのか。 自分は、自分をどうしたいのか…。
ジン
ホソク
ジン
髪を掻きむしって、泣いて、耳を塞ごうとする僕の頬を ジンヒョンは両手で包み込むようにして 無理やり顔を上に向かせようする。
ホソク
僕はそれから逃れようとして 彼を突き飛ばした。
その拍子に、前のめりにバランスを崩して ズボンのポケットに詰め込んでいた、 小袋に入った大麻が滑り落ちて スマホと共に地面に散乱した。
ジン
ホソク
慌ててしゃがみ込んで 拾い上げようと大麻に手を伸ばす。
でも、ジンヒョンが僕の目の前で 落ちた大麻の袋を靴で踏みつけてきて、 伸ばした手が空中で止まる。
ホソク
ジン
力を込めて踏みつけられた大麻が くしゃりと小さな音を立てた。
ホソク
大麻を踏みつけるジンヒョンの足を掴んで 泣きながら、必死に訴える。
僕を見下ろす 無表情のジンヒョン。
きっと、あまりにも必死な僕を見て 哀れんで、蔑んでいる。
ホソク
ジン
泣き叫ぶように言うと 彼の顔が一瞬、辛そうに歪んだ。
そして、僅かに踏みつける足の力が緩む。 それを見逃さなかった僕は ジンヒョンの足を強く押し退けた。
電話の着信を知らせていたスマホと、袋の汚れた潰れた大麻を 奪うように拾うと ジンヒョンを置いて その場から逃げるように走り出した。
ジン
僕の名前を呟いたその声は 今の僕にはもう、届くことはなかった。
涙は止まってはくれない。
走ってる時も 走り疲れて立ち止まった時も 見慣れた帰り道を歩いてる時も
少し冷静になった頭の中では ジンヒョンの事を考えてた。
なんで、彼を裏切るような事…しちゃったんだろう。 なんで、大麻に手を出してしまったんだろう。
今更後悔したって もう、全部遅いのに。
いっそのこと、 ジンヒョンに罵られて 殴られたりなんかして こっぴどく振って欲しかった。 そうしたら諦めがつくのに。
なんで、ヒョン…あんな、優しい言い方…っ。
ホソク
ボロボロと溢れ出る涙。
ジンヒョンに捨てられたくない。 嫌われたくない。 一緒にいたい。
いまだに僕は、身の程もしらずに そんな事を思っているなんて。
でも、もう終わった。 ジンヒョンよりも大麻を選んだ僕が 最低な形で、終わらせた。
こんな最低な人間 彼は関わりたくないだろう。
ホソク
今、謝ったところで 何も変わりはしないのに 僕はずっと そこには居ないジンヒョンに 謝ることしかできなかった。
既に陽は沈んでいるのに 家の中は真っ暗で、灯ひとつ点いていなかった。
玄関も鍵がかかっていたし 今、この家には僕以外 誰もいないみたいだ。
さっきからポケットの中で何度もかかってくる電話。 それが鬱陶しくて煩わしくて スマホの電源を落とすと リビングのソファに放り投げた。
白い、ソファ。
それを見てると、 今日、病室で言われた言葉が頭をよぎった。
"ホソギヒョン…オンマみたいだね"
瞬間的に、腑が煮えくりかえりそうなほどの怒りが 頭の中を、体中を埋め尽くす。
どうしようもならない、激しい憎悪が 僕の体を動かした。
キッチンにあった包丁を手に取ると その汚らしいソファに一気に突き刺した。
そのまま包丁を引き下ろすと ざくりと音を立てて 革張りの表面に大きな傷がぱっくりと出来あがった。
今、このタイミングで もしあいつらが家に帰ってきたら このままの勢いで殺してやれるほど 僕は我を忘れていた。
このソファを 大嫌いなあいつらだと思って
舞い上がる羽毛は あいつらの血飛沫だと思って
気が触れたかのように 何度も何度も 抜いては刺して、切りつけてを繰り返していた。
気がついた時には ソファは原型を失っていて 床が見えなくなるほどたくさんの羽毛や綿や布切れが あちこちに散乱していた。
怒りを物に当たって発散したと思ったら 今度は悲しみが僕を襲ってくる。
緩んだ指から、血のついた包丁が滑り落ちた。
今になって もう、ジンヒョンとの関係は終わったという事実を 痛切に実感する。
もう、終わったんだ。
もう、ジンヒョンと過ごした あの幸せな時間は 二度と、戻ってこない。
僕が僕らしくいられるのは 唯一、ジンヒョンの前だけだったのに。
僕…何、やってんだろう。
ポケットの中の大麻を手に取ると 強く握りしめた。
そのまま崩れ落ちるように 散らかっている床にへたり込んで 小さな子供みたいに みっともなく、泣き喚いた。
涙が枯れるまで ずっと、泣いていた。
全ての思考をシャットダウンされたみたいだ。
力が入らなくて横たわる体。 床の冷たい感覚が、ひんやりとしていて気持ちいい。
僕の視界は歪みまくってて もう、何も写すことは出来ない。
もういいや。 疲れた。 寝よう。
起きた時には 今日のことは全て、夢だったら良いのにな。
そう思って、目を閉じようとした。 けど。
ナム
首元に感じる温かさと 耳をくすぐる声が聞こえて 僕はゆっくりと、顔を上げた。
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