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桃赤 〜苦痛〜

あるところに、6人の兄弟がいた

その兄弟には様々な苦しみを抱えている

今回はその中の『苦痛』を紹介しよう

いつから、こうなったんだろうか

…兄ちゃん

振り向く兄ちゃんは微笑んだ

なぁに?

いつもの兄ちゃんなのに

兄ちゃんじゃなくて

最初は疑問だけだった

だが、ある日夜中に目が覚めた時、一気にいろんな感情が自分の中で駆け巡った

目の前の微かに開かれたトイレの扉

その奥には声を殺して泣きながら口に手を突っ込んで吐き続ける彼の姿

髪の隙間から見えた瞳は疲れ果てていて、今にも死んでしまいそうだった

カタン…

思わず、音を立ててしまった

ギロっと音を立てる様に向けられた瞳は、俺の頭を真っ白にさせた

気づけば俺はなーくんの部屋に居て、手を握るなーくんはずっと下を向いていた

握る手は微かに震えている

…………少し、昔の話をしようか

追いついていけない頭に、ただ俺は静かになーくんの言葉を聞いた

昔っから、なんだったら生まれた時から、俺は比べられてきた

『この子はきっと、お兄ちゃんみたいに賢く、強い子になるわ』

『お兄ちゃんに出来て、なんで貴方に出来ないの』

『どうして何も出来ないの』

『お兄ちゃんが出来るんだから、貴方だって出来るはずよ』

『お兄ちゃんなんだから、弟に立派な背中を見せなさい』

『お兄ちゃんでしょ?どうして出来ないの』

そういう言葉が、俺の心をどんどん歪ませた

ただ褒めて欲しくて、テストの度徹夜を何度も何度も繰り返して、親には嘘をついて、100点が取れたモノだけを見せて

でも結局嘘はバレるモノで、バレる度にご飯を抜かれ、家を追い出され、暴言暴力を振るわれた

でもその度にお兄ちゃんが助けてくれて

『大丈夫だよ、莉犬くん。出来なかったところ俺が教えてあげるから。次頑張ろう』

俺の頭を撫でる手は暖かくて俺はソレに縋り付いていた

テストで99点をとって、親は褒めてくれなくてもお兄ちゃんが褒めてくれる

俺が出来ない子で、親に怒られてもお兄ちゃんが慰めてくれる

そして俺はテストを親ではなく、お兄ちゃんに見せる様になった

その度頭を撫でてくれて、褒めてくれて、俺の欲しいかった愛をくれた

お兄ちゃんの前だけでは本当の自分で居られた

そんな日々が続いたある日、バリン、と勢いよく何かが砕け落ちる音がしたんだ

いつも通りお兄ちゃんにテストを見せに行った時、お兄ちゃんの瞳はとても冷たくて

『どうして、こんなのも出来ないの?』

その言葉が頭に響いて、頭が真っ白になった

『ここ、前も教えたよね。どうして出来ないの』

何かが砕け落ちる音がした

あぁ、、結局、こうなるんだ

……結局、俺はアンタと比べられるんだね

結局……っ、何もカワラナイんだね

『______…聞いてるの?莉犬くん』

名前を呼ばれ、顔を上げる

『…………ごめんなさい。なーくん』

俺は、いつも通り''笑顔を創った''

——…『なーくん』って言われた瞬間、俺は頭をハンマーで殴られた気分になったんだ

俺は何て事を言ってしまったんだ、って。莉犬くんの心情を分かっていたはずなのに

次の日、莉犬くんは帰って来なかったんだ

あれ程後悔した事はないよ

なーくんの言葉に息を呑む

——…今日は、もう休みな

優しく微笑まれ、その顔を最後に俺は気づけば自分のベッドに居て、意味のない涙を1つ流した

あれから数日、何処か上の空で過ごしていた俺は今日もボーッとただ一点を見つめてただ1つの事を考えた

……………………

コンコン、とノックが鳴る

反射的に返事をすると静かに扉が開かれた

入ってきたのは今考えていた兄ちゃんで

兄ちゃんは扉を閉めるとそのまま寄りかかり、俺と目を合わせる事なく少し下を向いたままゆっくりと口を開いた

……俺にとって、''次男''っていう立場は苦痛でしかないんだ

見たんでしょ?聞いたんでしょ?とやっと目を合わせた兄ちゃんの瞳はただただ冷たくて、初めて見せたその表情は背筋が凍る程怖かった

生まれた時から比べられて、愛されなくて、怒られて、愛されたくて、呆れられて、認められなくて、殴られて、認められたくて、嫌われて、絶望して、愛されて、浮かれて、裏切られて、涙を流して、勘違いして、また絶望して、また比べられて、弟が増えて、負担が増えて、嘲笑われて、相手にされなくて、それでも愛されたくて、血を流して、努力して、意味なくて

瞬きもせず、息をしているのかも分からない

兄ちゃんの瞳の奥がグルグルと廻る

何もしなくても愛されるなーくんが羨ましくて、憎くて、嫌いで、弟達も愛されるのが羨ましくて、憎くて、嫌いで、そんな事を思っている自分が気持ち悪くて、どう頑張っても愛されない事は分かってるのに未だに愛されようとしている自分が情けなくて、嫌いで、大嫌いで、吐き気がして、毎日の様に浴びせられる親からの怒号にココロを歪まされて、毎日毎日生きてく度にココロが黒く染まっていって

頭を抱える兄ちゃんは、その場にしゃがみ込んで涙を流して口角を上げた

それがどうしようもなく痛くてイタくてイタクテ堪らないんだ!

ボロボロと今にも崩れ落ちてしまいそうな兄ちゃんは涙を流して俺を見つめた

知らないだろ!こんな苦しみ!

「知らないだろ!愛されてるお前らなんかには!!」と怒鳴りつける様に言い放つ兄ちゃんに俺はただ涙を流すしかなかった

その時見せた兄ちゃんの表情はとても苦しそうに見えた

そんな表情は一瞬で見えなくなって、下を向いた兄ちゃんは立ち上がった

顔を上げた兄ちゃんの涙を流しながら見せた瞳には何の光もなくて、ただ俺に色んな感情を突き刺した

……俺はさ、勝手に信じて、期待して

勝手に裏切られた気になって、勝手に傷付くのはもうごめんなんだよ

創り上げられた笑顔を見せて俺を見ているはずなのに何処か遠くを見つめる兄ちゃんは小さく呟いた

…………っじゃぁ、言ってくれれば…っ!

やっと絞り出した言葉

本当はもっといっぱい他にあるだろう

でも何を言っていいのか分からなかった

言ってくれれば、きっと

言った所で何になる

きっ、と

どうせ他人なんだ、分かり合えないよ

……んで、笑ってんだよ…

だってそっちの方が楽だから

自分を守って何が悪い

言い返したかった

でも、兄ちゃんの目が、顔が、そうさせてくれなかった

兄ちゃんはゆっくりと微笑んだ

——…もうご飯できるよ

いつもの笑顔で

いつもの声色で

兄ちゃんは''兄ちゃん''に戻って、部屋から出ていった

~ end ~

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コメント

13

ユーザー

ブクマ失礼します🙇‍♀️ (時間差失礼しました🙇‍♀️)

ユーザー

久しぶりに泣きました… 泣かせてくれてありがとうございます…()

ユーザー

感情表現が凄く素敵でで心にグッと来ました...!! 素敵な作品をありがとうございました...!!!!!

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