永玖.
颯斗.
永玖.
颯斗.
そんな、なんでもない日常が、 ずっと続くと思ってた。 颯斗の笑い声も、 あたたかい手のぬくもりも、ぜんぶ。 当たり前みたいに、明日もあるんだって信じてた。
でも——最近、なんだかおかしかった。 昨日食べたものが思い出せなかったり、 颯斗と行った場所の記憶が、 ふっと抜け落ちたり。
「まあ、疲れてるのかな」って笑ってたけど、 病院で言われた言葉が、全部を止めた。
病院の白い部屋。 医者の静かな声。
「進行していくと、最終的には一日の記憶がリセットされてしまう可能性があります。」
——何も、言葉が出なかった。 颯斗の顔が頭に浮かんだ。 あの優しい目。俺を包む声。 でも、その全部を…… 明日には忘れてしまうかもしれない。
そんなの、いやだ。 颯斗がどんなに優しくしてくれても、 「永玖、俺だよ」って言われても、 覚えてない自分を見て、颯斗がどれだけ悲しむか。 想像しただけで、胸がぎゅっと痛くなった。 だから、その日の夜、颯斗に話した。
永玖.
颯斗.
永玖.
颯斗.
少しの沈黙。
颯斗.
永玖.
颯斗.
永玖.
颯斗.
永玖.
永玖.
颯斗の指が、強く俺の手を握る。 その手が震えてた。
颯斗.
その言葉に、泣きそうになった。 でも、首を振った。 涙で視界がにじむ中、必死に笑顔を作って言った。
永玖.
気づいたら、涙が止まらなくて。 声も震えて、 もう何を言ってるのかわからなかった。
颯斗も、泣いていた。
沈黙のあと、颯斗が小さく
颯斗.
って言った。
次の瞬間、ぎゅっと抱きしめられた。
颯斗.
永玖.
その声を聞いた瞬間、もう我慢できなかった。 泣きながら、颯斗の胸に顔をうずめた。
——この温もりを、忘れたくない。 颯斗の声も、涙も、笑顔も、全部。
どうか、全部消えないで。 せめてこの気持ちだけは、 心の奥に刻まれていてほしい。
コメント
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もうこれだけで涙出そうでした🥲🥲