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気のせいだろうか。
一瞬、クラクションの音に混じって あの人の声が、聞こえた気がする。
刹那、浮遊したような感覚に陥った後 僕は地面に倒れ込んだ。
耳を塞ぎたくなるような タイヤと地面の擦れるブレーキ音が響く。
近くの人
近くの人
ゴツゴツとしたアスファルトの上に投げ出されたというのに 僕の体は痛くない。
まるで、何かに包まれているような そんな感覚がある。
待ち望んでいた衝撃は いつまで経ってもやって来ない。
運転手
トラックのドライバーの怒鳴り声が聞こえたあと アクセルを踏み込んで走り出す音が聞こえる。
何が起きたのか、わからない。
ゆっくりと、目を開けた。
ジン
もうひとつの、側で感じる息遣い。
僕の頭を守るように回された腕。 誰かの体が、僕の体を包み込んでいる。
誰…?
誰かが、僕を 助けたの?
ジン
頭上から聞こえた声に 目頭がじわりと熱くなったのがわかった。
顔、見ないでもわかる。
なんで…。
僕なんかを 助けたの…。
だって、僕 貴方に最低な事したのに。
それなのに…。
ホソク
地面に倒れた体制のまま、呟いた。
もう少しで、死ねたのに。
なんで、 邪魔したの。
ジン
ホソク
ジンヒョンの腕の中から這い出ようと 思い切りもがく。
でも、ヒョンの腕を退かすことができない。
ホソク
右の肘を擦りむいていたのか ずきりと痛む。
でも、そんなのどうでもいい。
死ぬのだ。 今から僕は。
ホソク
ジン
ホソク
頭に血が昇ってた僕は 思いっきり力を込めて、 羽交締めのように抱きしめてくる ジンヒョンの体を突き飛ばした。
だけど。
ジン
再び車道に出ようとした僕を 後ろからジンヒョンが抱き締めてきて 僕の足は止まる。
ジンヒョンの腕には 擦り傷がついてて 血が滲んでいる。
ジン
ホソク
ジンヒョンのその一言だけの言葉が 苦しいほどに優しくて
ジョングギが死んでから 泣けなかった僕の目からは 涙がボロボロと溢れて、止まらなくなった。
せっかく、せっかく 死ぬ勇気が、出せたのに。
ジンヒョンの温かさに触れ、 僕の死に対する恐怖心は もう誤魔化すことが出来なくなってしまった。
脚がすくみ もう、そこから動けない。
ホソク
ジン
ホソク
ジン
ゆっくりと、後ろを振り向く。
ジンヒョンの右頬には、擦り傷。
そして、ヒョンの目に涙が滲んでいることに 初めて気がついた。
ホソク
ヒョンの背中に腕を回すと 再び泣いた。
こんなに真っ直ぐで綺麗なジンヒョンは なぜこんなに汚れた僕をそこまで想ってくれるのか。
この涙は 死ねなかった悔しさなのか 死ななかった安堵なのか
自分でも、わからない。
近くの寂れた公園のベンチに二人並んで座って 僕は全てを話した。
小6の時に義父からレイプされ 今でも関係が続いてること。
僕の母親と義兄が関係を持ってること。
弟が重い病気だったこと。
ジミンとセックスして 大麻を貰ってること。
つい先日、弟が死んだこと。
でも、ジンヒョンは僕を拒絶しなかった。
話してくれてありがとうと言って 泣きながら僕を優しく抱きしめた。
ホソク
ジン
ホソク
ジン
ホソク
言葉を詰まらせながら言うと ジンヒョンは僕の手を握る。
ジン
ホソク
ジン
ホソク
ジン
ホソク
すぐにはその言葉を理解できなくて 僕はヒョンの顔を見つめる。
ホソク
僕の言葉ににっこりと笑ったジンヒョンは 重い空気に合わない 明るい声で言った。
ジン
ホソク
ジン
言われて気づいた。
僕はもう あの家にいる必要はないんだ。
ナムジュンside
ジミンから送られてきたURLを開くと あるSNSの投稿に飛んだ。
"旧把撥駅の近く通ったら面白いこと起きてたw 何これ修羅場かな?"
その文面とともにある短い動画が投稿されている。
その下にはもうひとつ 投稿が続いていた。
"なんか仲直りしたっぽい‼︎ 2人とも、イケメンすぎるw"
その投稿に載せられた動画には 黒髪の男の胸で泣きじゃくる ホソガが映っている。
スマホを閉じると 席を立った。
一斉に向けられる視線。
教壇に立つ教師が 怪訝そうに俺を見る。
先生
ナムジュン
先生
教師の言葉を背中に浴びながら 俺は教室を出て行く。
今の自分の心の中に渦巻いているものは 明確な憎悪だった。
お前だけが幸せになろうなんて そんなの、 俺は絶対、許さない。
ナムジュンside
学校を出た俺は ある人に電話をかける。
テヒョン
通話
00:00
短いコールの後に聞こえる声。
ナムジュン
周りに人がいない事を確認して 声を顰めながら言った。
ナムジュン
テヒョンから指定された金額は 普通の高校生では到底払える額ではない。
でも俺は、金を持ってる。 客から、それにあの女から 数年間かけて巻き上げた金。
俺は我慢してきた。
この日のために。
俺とホソガが、 幸せになるために。
ナムジュン
ジョングギも死んだ。
邪魔なものはもう あのふたりだけ。
ホソクside
ホソク
僕の手を握るジンヒョンの手を そっと離した。
ホソク
ジン
ホソク
ヒョンと一緒に あいつらのいないどこか遠くへ行けたら 僕はきっと幸せだろう。
お金がなくたって、住むところがなくたって 僕はヒョンと一緒にいられるだけで じゅうぶん幸せ。
でも、僕だけが幸せでも ジンヒョンは…。
ホソク
そう言って俯くと ジンヒョンは僕に何かを差し出した。