わたしは殺ってません！

2人が手を振り、別れたのを見届けてから、明菜は近づいた

ゆっくりとバックから取り出された包丁の刃がぎらりと光る

明菜は包丁の切っ先を杏に向け、心臓めがけて飛び込んだ

ザクッザクッ

倒れた杏に向かって、何度も何度も包丁を振り下ろす

動かなくなった杏をちらりと見てから、明菜は駅前の映画館へ急いだ

劇場の扉が開き、上映後の観客がぞろぞろと現れる

明菜は目を凝らし、出てくる客の中から1人の女を探していた

明菜は映画のチケットを発券し、劇場の中に入った

映画が始まったが、心臓がバクバクと脈打ち、集中できない

が、大丈夫だと何度も自分に言い聞かせた

翌朝、学校へ向かうと、教室の中がざわついていた

泣いている生徒もいる

そう言うと、明菜は膝から崩れ落ちた

同級生たちが駆け寄って来て、明菜を保健室に運ぼうと話し合う

（みんなは、明菜がマスクの下で笑っていることを知らない）

保健室に運ばれ、明菜はベットで横になった

今頃、ホームルームが開かれて、担任が説明をしている頃だろう

溢れ出る笑みを噛み殺している時、カーテンの向こうから声が聞こえた

自分の彼氏と浮気した友達

そんな奴と仲が良いと思われたくない。だから反射的に答えてしまった

が、そのことに気づいてすぐに弁解をする

杏を、話題の通り魔に殺されたことにする

これが明菜の計画だった

否定されたことにむっとし、つい反論をしてしまった

その時、カーテンがそっと開かれた

てっきり、同じ学校の女子と話をしていると思っていたのだが、 そうじゃなかった

そこにいたのは、スーツ姿の大人の女性だった

色白でどこか生気のない顔をしている

一見冴えない女性だけど、 明菜の頭の中で「彼女は危険だ」と知らせる警報が鳴った