心からの愛を

少し小走りでトイレに向かうひかり

お酒を飲んでいたせいか かなりギリギリになってしまった

ードンッー

急いでいたため

前にいる男性にぶつかってしまった

優しく譲ってくれる男性に軽く会釈をし

先にトイレへと向かった

化粧ポーチからファンデーションと リップを取り出す

軽くよれた所をファンデーションで カバーし直し

真っ赤なリップを 薄く塗る

鏡で確認をし

ひかりはトイレを後にした

トイレから出ると 目の前にさっきの男が居た

男は少しづつひかりに近づいてくる

一切ひかりが話す隙も与えないたくみ

話をする度にどんどん距離が近くなる

誰かが来てもいいはずなのに

タイミングがいいのか 誰もトイレに来ない

ひかりの後ろには壁がありもう逃げる場所はない

廊下を出たくても出る方向にはたくみがいるので、動けなかった

何しろ、酔っ払ってる状態で 変に断って怒らせる事も怖く

ひかりは固まってしまった

たくみの手がひかりの頬に触れる

ひかりは何故かその言葉が心に刺さる

遊んでいるわけではない 仕事として

色んな男性と関わっている

仕事として…… だが、そう言われたひかりは

否定をする事もできなかった

お酒臭いたくみの顔が近づいてくる

何も動くことができない

なんで、あんな事があった後なのに……

あー、今日は本当についてない

あと、もう少しで唇が触れてしまう

あと残り5cmだった

運良く誰かが来たみたいだ

淡々とした声で話す男性

それに気付いたたくみは ひかりから離れた

ひかりを抱き寄せながら 男を睨む

男は動じる事もなく たくみに言い返した

さっきまで無理やりキスされそうで怖くなっていた矢先

今度は見知らぬ男が目の前で喧嘩しそうになっている

ましてや、心までボロボロだったのに

この状況で泣きそうになるのを我慢しろと言われる方が難しいだろう

たくみは抱き寄せるのをやめ ひかりの顔を見た

その顔は今にも泣き出しそうな顔をしている事にやっと気づいた

たくみは言い返す事も無く 罰が悪そうにその場を去っていった

……………

男性は何事もなかったかの様にトイレに入ろうとした

男はそう言い トイレに入って行った

ひかりはその場に居ない男性に向かって 軽くお辞儀をし

トイレを後にした

席に戻ると ももこが笑いながら迎えてくれた

ひかりはさっきの出来事をももこに話した

ひかりは周りを見渡すが どの席にもたくみの姿はなかった

男の顔を思い出してみる

割と堀が深い顔をしていたが 清潔感がありさっぱりとした顔

鼻は高く眼鏡の奥の目は 二重でぱっちりしていた

なんとなーくそんな雰囲気で 仕事ができそう

そんな顔だった

ももこはがっかりした様に お茶割りを飲み始めた

ー午前0時30分ー

スマホを手に取るひかり

そこには何件かひかるから連絡が来ていた

0時03分

０時15分

０時2２分

元気な店員さんがやってきた

2人は店員から渡された20%OFFのチラシと 伝票を持って席を後にした

レジに向かうと タイミングが良かったのか

トイレで助けてくれた人が 会社の同僚と見られる人と3人で居た

小声でももこが聞く

同僚からからかわれる心無し

だるそうに話するこうた

そんなのはお構いなしに 友人達は盛り上がっていた

ふと、こうたと目が合う

そう言って3人は店を出て行った

…………

遮るように会話に入るももこ

ホールから元気がいい店員の声が響いた

2人は店長に会釈をし 店を後にした

ももこは通りかかったタクシーに乗って

帰って行った

…………

午前０時35分

ネオンライトの掲示板がより一層 輝いて見える

歌舞伎町の街はまだ眠らない

散々な事があった１日だが

今日の出会いによって

ひかりの止まっていた歯車が

少しずつ動き始めようとしていた