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○○
○○
そういったのは
紛れもなく前にいた蝶野さんだった
その一言を聞いた瞬間
「えっ」と口の中で言いかけて
それきり何も言えなくなった
聞き間違え?
まさかあの蝶野さんが
OKするなんてな
黒尾
ちょっとした沈黙だった
予想外すぎて
頭が真っ白になったまま
ただぼーっと立ち尽くしていた
○○
○○
不意に目の前で
手がブンブン振られる
蝶野さんが怪訝そうな顔で見上げてきていた
黒尾
黒尾
黒尾
○○
○○
○○
黒尾
黒尾
黒尾
○○
○○
黒尾
黒尾
○○
それだけ言って
蝶野さんはスっと背を向ける
揺れるポニーテールを見送りながら
黒尾はしばらくその場に立ち尽くした
なんか…
黒尾
武田
吉田
教室に戻った黒尾を
男子3人組がニヤニヤで迎えた
いつもの昼休み
いつものバカ騒ぎ
でも俺の心はいつものものでは無かった
武田
武田
武田
武田
益若
益若
黒尾
吉田
吉田
吉田
吉田
吉田
好き勝手に背中を叩かれながら
黒尾は椅子に座った
黒尾
吉田
武田
一瞬空気が止まる
益若
黒尾
黒尾
益若
武田
吉田
武田
武田
武田
武田
益若
吉田
吉田
黒尾
吉田
吉田
武田
武田
バンバンと机を叩かれ
椅子を揺すられ
ノートに落書きをされながら
黒尾は曖昧に「うるさいな」と笑った
だけど内心は
まだ少しふわふわしていた
ただの買い出しだ
でもなんか
胸がざわついていた
ゆら
通りすがりにゆらにそう言われた
黒尾
こいつら勝手に盛り上がりすぎてるな
そう俯瞰してみることしか
今の俺には出来なかった
下駄箱の前は
思ったよりも人が多く
ザワザワと騒がしい
○○
それでも私は
靴を履かずに
片方の手にカバンを持ったまま
壁によりかかっていた
約束の時間より五分くらいはやい
そんなに気合いを入れたつもりは無いけど
心のどこかが少しソワソワしていた
まぁ…早く行けば
その分早く終わるし
そんなふうに言い訳をしながら
スマホを確認しては時間を見る
「探してた」
さっきの昼休み
そう言われた声が不意に甦ってくる
何気ない一言に一喜一憂するとか…
自分どうなってるの
人に飢えすぎでしょ…
呆れながらそんなことを思った
○○
なんて呟いた直後
黒尾
黒尾
黒尾くんが来た
制服のまま片手にスクバ
ネクタイは少し緩まってて
髪も寝癖なのかクセなのか分からないけど
なんかラフで…自然だった
黒尾
黒尾
○○
○○
そう答えながら
ちょっと視線を逸らす
“待ってた”なんて
言いたくなかった
黒尾
黒尾
○○
靴を履いて並んで外に出る
ほんのり暖かい風が吹いた
夕暮れの
ちょっと大人びた空気だった
○○
黒尾
黒尾
○○
○○
黒尾
黒尾
黒尾くんはそう言いながら
スクバから紙を出した
黒尾
黒尾
黒尾
黒尾
○○
黒尾
○○
○○
黒尾
○○
○○
黒尾
何気ない会話なのに
何処か居心地が悪くない
こうやって誰かと並んで歩くの
久しぶりな気がする
少なくとも“普通”に
緊張とか
変なうら読みとか無しで
ただ真っ直ぐ
黒尾
○○
〇〇は辺りを見渡した
…え
前方
モールへ向かう交差点
歩道を渡った先で
3人の女の子がこちらに向かって歩いてきた
声が大きくて
笑いながら
ハイブランドのバッグと
アイロンで巻いた髪と
キラキラしたネイル
そしてその真ん中にいるのは
嘘……
中学の頃の
私の親友の子だった
記憶が一瞬で過去に引き戻される
私は立ち止まり
呼吸が浅くなる
心臓の音が
どくんどくんと
耳の奥で響く
黒尾
黒尾
黒尾くんの声が
耳に優しく入ってきた
○○は必死に言葉を探しながら
黒尾くんのブレザーを軽く引いた
○○
○○
○○
目線を逸らしたまま
やっとそういった時
黒尾
黒尾
と声を漏らして
私の前に出た
黒尾
○○
スマートに
さりげなく
まるで最初から
そうするつもりだったかのように
私の姿をその子たちの視線から
隠すように黒尾くんは立った
○○
○○はそのまま自分の靴を見ていた
顔を上げることが出来ずに
でも…なんだか
不思議な安心感に包まれていた
買い物が終わり駅に向かう途中
○○
黒尾
○○
○○
小さな声でそう言ってから
私は少し歩幅を早めた
少し前を歩く黒尾くんは振り返り
黒尾
黒尾
歩道に落ちる影が
少しずつ伸びていく
○○
○○
○○
黒尾
○○
○○
黒尾くんは数歩進み
ぐるっと振り返った
ほんの一瞬だけ
目が笑っていなかった
黒尾
黒尾
その言葉に○○は答えられ無かった
ふいに足元の影が揺れて
風が頬を掠めていく
○○
ただそう呟いた
黒尾
その声も
優しかった
○○はギュッと目をつぶり
心を落ち着かせてから足を進めた
その週の土曜日
私はふうさんのバーへ行った
ふう
ふう
○○
カウンターに座り
少しの間ぼーっとしていた
ふう
○○
○○
私は大体の経緯を説明した
ふう
ふうさんはケラケラ笑いながらそう言った
○○
○○
ふう
○○
○○
ふう
ふう
○○
○○
○○
ふう
ふう
○○
○○
ふう
○○
○○
グラスの縁をなぞりながら
ポツポツと話した
ふうさんはカウンターの中で
氷を回しながら私の話を聞いていた
○○
○○
○○
○○
○○
ふう
ふうさんは感心したように
でも少しやっぱ笑っていた
ふう
○○
○○
ムキになる自分に
少し恥ずかしさを感じた
ふう
ふう
ふうさんはそれ以上何も言わなかった
それが逆に
○○の胸にふわりと残った
○○
そう言いながらグラスを持ち
近くのソファ席に座っている男の人に
視線を移した
男は既に気がついていて
グラスを傾けながら
少し笑った
○○
男の人の隣に腰を下ろし
ゆっくりと指を絡める
柔らかい指
でもそこに、感情は乗っていなかった
私には…こっちがお似合い
心の中でそう呟いた
ふうさんがカウンター越しに私を見て
少しのため息を漏らした
でも私は視線を返さず
指の熱と
氷の音を感じた
その光景を目の当たりにすると
さっきの夕暮れが
まるで嘘のように感じた