この作品はいかがでしたか?
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窓の外に見える空は淡い紫と藍色のグラデーションを描いていて、 そこに昇る黄金色月は小さく小さく光を放っている。
校庭では、yaくんが仲間達と笑い合いながら、 スクイズボトルの飲料を片手に休憩しているところだった。
最近の私の脳内は正体のわからない佐藤くんで支配されていたが、 yaくんの姿を捉えてしまうと一瞬で恋心が敷き戻されていく。
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おそらく、佐藤くんの正体があやふやだからこそ 私はそれに気を取られてyaくんへの苦しい想いを忘れられていたのだ。
もし佐藤くんが誰だか分かってしまえば、 その後はyaくんへの叶わぬ片思いに悩む以前の日々だ。
yaくん以外の男子のことを考えている今が特殊なだけである。
そう、この手紙が届くまでは______。
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たった一行、“橙さんに会いたい”
ボールペンで書かれた文字であるものの、今までよりも筆圧が 強くはっきりしているように感じる。
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結局、あくまで通常通りに返事を書こうとペンを握った。
______________________________ 誰だか分からないのに、会えるわけないでしょ(笑) ______________________________
______________________________ あと、いつもこの手紙っていつ入れているの? 実は何度かすれ違ったりしてるんじゃない? ______________________________
生まれてこの方、男子にはおろか女友達にすら “会いたい”と言われた記憶がない私はこういう時の返し方を知り得ていない。
私のレパートリーの中では「(笑)」をつけて冗談めかす ことくらいしか思いつかなかった。
どんな返事が来るかドキドキしながら手紙を挟み 席に立って本棚へ向かう。
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中間テスト1週間前。普段なら満足するまでyaくんの サッカーを観て帰るのが日課だが本格的に勉強しなくてはならない。
努力次第でどうにかなる勉強だけはせめて頑張ろうと 私は定期テストはしっかり準備している方だった。
それでもトップ10に常にランクインすることはできず、 20位以内、運と調子さえ良ければ10位に食い込めるくらいだ。
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肩からずり落ちたバックの持ち手をもう一度掛けたとき、 テーブルの上にある小さな長方形のカードが目に入る。
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そこには明朝体で
『佐藤jp』
の文字が印刷されていた。
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カードの置かれたテーブルの前に座っていたのは 黒いブレザーの後ろ姿ではなかった。学校指定ではない緑のカーディガンを着ている。
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しまった。うっかり先生をあだ名で読んでしまった…。
カードの持ち主は国語教師のじゃっぴこと佐藤jp先生だった。 身近な先生の名字が「佐藤」だったことに驚く。
静かに振り返ったじゃっぴを見て私は息を呑む。
嬉しさと悲しさがごちゃ混ぜになったような、 そんな複雑な表情をしていたのだ。
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咄嗟に言って気付いたがそう言えばこの前も声をかけられた。
それにしても、私が「じゃっぴ」とよんだときの表情と、 「naさん」という女性の名前らしい言葉が気になる。
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唐突に質問を投げかけられる。
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こういうとき、「元気ありません」「嫌なことばかりです」 などと答える人は居ない。
社交辞令のようなものには、嘘でも無難に答えるのが一番だ。
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その言葉に心が揺れ、スカートをきゅっと掴んだ。
じゃっぴの言う通り、最近は人間関係で行き詰まりを覚えることが多く 気持ちの晴れない時期が度々あった。
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現代文の授業でしか私を見ていない先生に見抜かれているなんて。
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じゃっぴのその言葉が頭から離れない。
なぜだ…
数秒考え込んでようやく気づく。
これは佐藤くんがくれた言葉だ。
rnと比べて否定して、苦しさをどこにもぶつけられなかった時、 半ば自暴自棄になった私は佐藤くんに頼った。
その返事として届いたのが「君にしかない良さがある」 だった。
私はその一言に救われて前を向くことができたのだが、あのとき 確かじゃっぴに話しかけられたような気がする。
届いた手紙に記されていたことと、同日に話した人が今、 全く同じセリフを言う。そんな偶然があるだろうか。
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佐藤くんって、
じゃっぴこと、佐藤先生、なの…?
コメント
2件
えぇ!まさかの正体が先生説·····、続きめっちゃ気になります!!投稿ありがとうございます!