怪異探求倶楽部

File7 悲愛のアポロン

夏休みも中盤に差し掛かった頃

茜と焔垂はカラオケに来ていた

茜はスマホの LIME MUSICを開き

焔垂にTAMAYAの新曲 「定義の無い言葉の刃物」を聞かせる

定義のない 言葉の刃物

大人が都合よく創り上げた 常識《ふつう》当然《ただしい》と される世界で

どうやら私の個性《ふつう》は 受け入れられないらしい

普通《おとな》が正義で 個性《わたし》は悪

そんな世界で私は 個性《きもち》を押し殺し

まるで仮面をつけたように 作為的《ふつう》 に生きた

親に紹介された理想《ふつう》な 相手を好きになったし

親に迷惑をかけない平凡《ふつう》な 服装で出かけたりもした

自分の個性《ふつう》を封じ 私は親の期待に応えるように 無気力《ふつう》に生きた

残されたのは普通《エゴ》によって 創り出された 無個性《ふつう》な人間

自分が持って生まれた本来の色も 忘れてしまった虚無《ふつう》な人間

このままでいいのか？死ぬまで 従属《ふつう》に生きるのか？

私の個性《ふつう》が 受け入れられるその時まで

普通《しがらみ》を解き放ち 私は叫び続ける

定義の無い言葉の 普通《はもの》を振りかざし 常識《おまえ》は 価値観《わたし》を痛めつける

普通じゃないとか言っちゃって 変わってるねとか言っちゃって 妙ちきりんだとか言っちゃって

お前の時代錯誤《かんがえ》を 趣味《わたし》に押し付けるな

定義の無い言葉の 普通《はもの》を振りかざし 常識《おまえ》は 価値観《わたし》を痛めつける

常識《おまえ》は 価値観《わたし》を痛めつける

お前のためだとか言っちゃって 将来苦労するとか言っちゃって おこごとばっかり言っちゃって

お前の人生論《ものさし》で 個性《わたし》を推し量るな

茜は焔垂が歌を 絶賛してくれた事が嬉しいのか 満悦といった表情で相槌をうつ

焔垂はスマホの画面を 見たままフリーズする

茜はメニュー表を開く

二人はカラオケを後にし ファミレスへ向かう

ファミレスに来た茜は 首を傾げならが奥の席を見つめる

茜が指差し席には 美月の姿があった

茜は焔垂の忠告を無視し 美月にバレないように ゆっくりと近づいていく

美月は恐怖に 引き攣った顔で背後に振り向く

そこへ一人の女性がやってくる

美月の突然の言葉に 焔垂は戸惑ったように首を傾げる

茜と焔垂は二人と同じ席に座り 慎重な面持ちで口を開く美沙の話を聞く

数日前、レコーディングスタジオ

スタジオではTAMAYAこと 種松摩耶（たねまつやま）が 新曲「定義の無い言葉の刃物」の レコーディングを行っていた

プロデューサーの 小諸哲哉（こもろてつや）が 摩耶に労いの言葉をかける

美沙が摩耶に ペットボトルの水を手渡す

小諸は摩耶の歌を再生する

すると──

摩耶は血相を変えて 停止ボタンを押す

小諸は再び再生ボタンを押す

ブースには摩耶の歌が鳴り響く

摩耶は疲れた様子で ブースから出ていく

茜はスマホを取り出し LIME MUSICで こころクリーニングを再生する

こころクリーニング

こころの中には 部屋がある それはこころを 具現化した部屋

楽しい思い出や 辛い日々 いじめの影も 全て仕舞い込み 荒れ果てた部屋

命を絶ち 別れを告げた 少女の前に 現れる魔法の扉 それは少女を 救う救済の扉

天使が現れ こころを洗う 拭いきれない闇 全て洗い流す

こころクリーニング 綺麗に輝く 過去のトラウマ すべて飛び立つ

新しい命と 喜びの歌 心の傷は もう消えてるかな

こころの掃除道具は光 負の感情を全て拭い去る優しい手

天使は少女の涙を晴らしに来る 命の輝きを取り戻すため

天使の羽根が 光る奇跡 闇と苦しみ 全て取り去る

希望の灯火 胸に灯して 新しい未来 さあ歩き出そう

こころクリーニング 綺麗に輝く 過去のトラウマ すべて飛び立つ

新しい命と 喜びの歌 心の傷は もう消えてるから

こころクリーニング 綺麗に輝く 過去のトラウマ すべて飛び立つ

新しい命と 喜びの歌 心の傷は もう消えてるから

こころクリーニング 綺麗に輝く 希望に満ちた未来へ さぁ飛び立とう

新しい命と 旅立ちの歌 心の傷は もう消えたんだ もう大丈夫 笑顔で行こう

茜はスマホを取り出し 信愛に電話をかける