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揺れ続けて、どれくらい経つのだろうか
何も考えずに家を飛び出し
何も考えずに、来た電車に乗って
ただ、揺られている。
「そろそろ降りなければ」
そう思った僕は
徐に席を立った。
ふと後ろに目を向けると
地下の暗闇を映し出す筈の窓は
車内の光に反射され
虚ろげな僕の顔を映し出していた。
運転手
運転手
僕の心と裏腹に、電車の到着を告げる アナウンスは軽やかだった。
シュー
扉が横に開いた。
かなりの人数が乗っていたはずなのだが
結局降りたのは僕だけだった。
サァァァァァア
冷たい秋風が僕の体温を奪っていく。
羽織っていた上着の袖を掴み 首の近くに持っていった。
おかあしゃーん!
みみ おいてくよー!
ちょっと待って!
目の前を親子が通り過ぎた。
一瞬、母親らしき人に睨まれた気も するが
気のせいだと思い込んだ。
少し歩いていくと 錆びたシャッターが並んでいる。
1軒…2軒…
丁度10軒目の店に僕は入った。
中には誰も居なかった。
まぁ元々廃墟だったし 居たら居たで問題になる。
所々腐敗したテーブルの上にある 小さなランタンを灯して
埃の被った座椅子に座った。
来なさい!
やめて!
馬鹿じゃねぇの
いい加減にしてよ!
本当使えねぇ奴だなぁ
目を瞑るとあの忌々しい声が 耳の中から聴こえてくる。
「逃げた。」
そう言われても仕方がない。
でも僕は耐えられなかったんだ。
兄弟が叩かれ、泣かされるのを
両親が夜な夜な喧嘩するのも
講義で嫌がらせを受けるのも
周りから罵声を浴びせられるのも
全部耐えられなかったんだ。
後ろから低い声が聴こえてきた。
警察だろうか。
慌てて後ろを見て、絶望した。
父さんだった。
父さん
父さん
父さん
父さん
何をしに来たのだろう。
不安よりも警戒が前に出た。
父さん
父さんは僕の向かいの座椅子に 腰を下ろした。
父さん
父さん
父さんは大きいため息を1つ ついた。
父さん
父さん
父さん
父さん
父さん
父さん
そう言いながら缶ビールを2本開けて 僕の前に1本置いた。
「この席は僕の特等席」
覚えていてくれたのだろうか。
父さん
父さんは1人高らかに声を上げて ビールを飲み干した。
父さん
ガサガサ
有名なコンビニの袋から 塩辛とざる蕎麦を出した。
父さん
僕の時間は10年止まったままだ。
だからギリギリ未成年だというのに 父さんは29歳の僕だと思っているのだろうか。
突然泣き出した父さんにかける言葉が 見つからず
とっさに言ってしまった。
琢磨
さようなら。 安心して成仏出来るよ。