大丈夫とは言っても歩いてもう1時間になる 6年生の僕と違って、１年生のキララにはかなりキツいはずだ だが、僕らは進まなきゃならない でなければ待つのは…死だ 全ては僕らが誕生した時から始まっていたんだろう 子供にはどうすることもできない 「産まれた家庭」で

２日前

乾いた一撃が空気を震わす 太ももに赤いあとが残った 顔は叩かれない 1度担任が来て面談されたから

千円？ 額に驚いた いつもは300円だから もしかして相当長く家を空けるのか？ だとしたら… 僕の考えが読まれないように、不安の表情を張り付けておく 間違っても希望の閃きを見られてはいけない

母親…いや、真里奈が出ていったあと僕は時計を見た ８時 学校に休むと連絡を入れる それをキララは恐怖の面持ちで見つめていた

不安げなキララをよそに僕は真里奈の化粧品で溢れたドレッサーを引き空けた キララが悲鳴をあげたが今は構えない …見つけた!

安アパートの部屋は異様なくらい綺麗だ 僕と幼いキララが毎日片付けているから あいつは使ったらその場へ放る だがこのハガキは閉まっていた 住所がわかったと喜んでいた…金の無心でもたくらんでいたんだろう

リュックなど無い僕らはランドセルに荷物をつめた といっても下着や替えの服1着ずつくらい 真里奈のボストンバックを持ち出すなどは考えられなかった

同じ年の子達と較べて僕らは体重が軽いしスタミナもない 当然だ、朝も夜も食べられないことが多いのだから 今日は真里奈の買い置きのカロリーメイトを4箱盗ってきた これに手をつけたら退路は断たれる 食べたあとで掴まったら冗談抜きに殺されるだろう

ゴミ箱に捨ててあったペットボトルを洗って水道水をつめたものを口にするキララを見て、僕は泣きそうになる なんでだ？ なんで僕らは周りの奴等と違うんだ… 僕らはなにも悪いことをしてないじゃないか!

褒められて嬉しそうなキララ 影の刻まれた笑顔に胸が痛くなる パッと見で読めない漢字を充てられている僕らの名前はそれだけで周りとは違う刻印を捺されたように感じていた だから僕はキララをキラと呼ぶ できたら真里奈の痕跡を拭い取りたいから そしてあいつを忘れられたその時こそ、キララの笑顔から影が消えるだろう

カロリーメイトを初めて食べたキララは嬉しそうだ 遠足代を払わない真里奈のせいで僕らは遠足に行ったことがない だからバスに乗る時はワクワクした ただ、用心のため僕は食べずにいた キララが食べたいときに食べられるように

あんな鬼に見張られて叩かれて、友達もいないのに キララは優しい 僕はキララが誇らしい 誇れるものが1個でもあるなら、その1個の為に僕は頑張れる …頑張ってみせる

1話終了