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日々は刻々と進んでいく
戻ってこない時間が通り過ぎていく
五月雨がパラつく5月になった
もう最後の大会まで1ヶ月を切った
焦りが募っていく
澄
春紀
澄
春紀
春紀
春紀
澄
春紀
春紀
春紀
春紀
いつになっても変わらない僅かに棘のある優しさが心に残る
澄
今までの約2年間の高校生活
誰かの拠り所になれただろうか
自分らしく生きられただろうか
誰かの特別になれただろうか
澄
春紀
澄
春紀
春紀
澄
考えていたことを口に出してしまったのかと思って焦燥に駆られた
春紀
春紀
春紀
春紀
澄
溜息を噛んで追憶に浸ってみる事にした
去年の夏は少し涼しかった
そしてその日は太陽が隠れて涼しく風が通り抜けていた
誰かの特別になりたかった
そのために本当の自分を隠してもいいと思っていた
澄
憧埜
心配した顔で俺の目を見つめる
澄
こんな弱音を吐いたって憧埜を困らせるだけだってわかってる
でも少しずつ不安と苦しさを消していかないと潰れてしまいそうになる
自分で作った粗末な複数の仮面が前へ進むのを妨げるように散らかっていた
困惑した憧埜の顔は見なくても想像 できる
そう思いながら顔を上げた
憧埜
戸惑いながら優しい言葉でそう言う
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
俺を安心させるような笑顔だった
澄
憧埜
夕日は次第に暗くなる
心を落ち着かせることに必死で空が眠っていくのに気がつかないでいる
澄
澄
そう問いかけて数秒後に後悔した
憧埜
どうしてこんなこと聞いてしまったのだろうか
困らせるって分かっているのに
どうして
考え込んでいる間に憧埜は答えを出していた
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
その言葉に危うく涙が溢れそうになった
言葉にしきれない想いが湧き出して止まらなくなっていた
澄
憧埜
憧埜は静かに呟く
澄
憧埜
澄
憧埜
憧埜は愁いを隠せなくなっている
憧埜
憧埜
澄
澄
憧埜
2人の会話が終わる頃には
空は眠りについていた
特別=自分らしさ
憧埜はあの時そう言った
でも澄は憧埜に
普通=自分らしさ
そう言った
特別と普通は相反するもので
その2つが同じなはずがない
2人の考えに真偽を記すなら
答えは明らかに偽だった
でもそれぞれが出した答えは
無意味なんかじゃない
たとえ不正解だとしても
憧埜
驚いた顔を隠そうとしたけど間に合わなかった
澄
澄
憧埜
澄
澄
憧埜
寂しげな背中を向けて足音を遠ざけた
この世界で誰も本当の俺を知らない
きっと知られたら
本当に孤独になってしまいそうで
ひたすらに怖かった
第7話 白昼夢
3年生が最後の大会まであと7日
もう既に寂しさを感じてしまう
今僕が持て余している言葉や気持ちも本当にどうしようもなくなってしまう
後味の悪い後悔を残してしまう
何もちゃんと言えないまま
高柴くんは僕に言ってくれた
普通=自分らしさ
僕とは全く正反対の考え
でもその言葉でここに少しでも救われた心があるのなら
僕の言葉も高柴くんを少しは救えているのかもしれない
そうやって補い合えたなら
扉が開く音で思考がとまった
零
少しうっとうしく思って何も言葉を返さなかった
零
憧埜
零は軽くうなづいて続ける
零
憧埜
憧埜
零
零
憧埜
憧埜
零
零が呟いた言葉が妙に心を反芻する
ざわついた心が落ち着かない
零
零
零
零
零
自分の不甲斐なさが肩を重くする
他人の優しさにすがりついて出来れば愛してくださいなんて
何も行動せずに他責していた
かけがえのない理性が手探りでは見つからない程に自己否定に埋もれていた
零
零
零
煌めく笑顔に顔を逸らしながら
憧埜
その言葉は掠れて宙に消えた
おとといの雨で涼しい風が通る競技場
煮え立つ情熱が充満している
県IH予選1日目
大抵の競技は上位6名の選手が関東大会への切符を手にする
3年生にとって高校最後の大舞台
メンバー全員で戦うのもこれで本当に 最後だ
響
憧埜
響
響はどこか不安そうな顔で上手く笑えてないみたいだ
憧埜
憧埜
強く首を縦に振る
憧埜
憧埜
憧埜
響
強ばった顔を綻ばせて僕に背を向けて進んで行った
たくさんの思いが舞い上がるこの大会で
僕の思いだけは隅にぽつんと沈んでいる
暗い顔なんてしていられない
そう思ってとりあえず笑ってみる
憧埜
秋人
嬉しそうな顔で振り返る
憧埜
秋人
秋人
憧埜
秋人の肩を軽く叩いて送り出した
敦志
憧埜
敦志
憧埜
敦志
敦志
後輩に気を遣わせてばっかりで頼りなさが募っていく
憧埜
憧埜
敦志の笑みで心のざらつきが押しなべられるのがわかった
一日目も徐々に終わりに近づいていく
終わって欲しくない瞬間ほど倍速で目の前を過ぎ去っていく
一日目最終種目
男子100m
応援席の最前列に座って固唾を飲む
響の自己ベストは11.66
そして藤晴に残る条件は11.50以下
緊張感が体を蝕む
そして思い浮かべてしまう
考えたくないifを
響は自分のレーンに凛と立つ
響の優しさを
涙を
強さを
誰にも踏み躙られないように
ただ強く祈る
さよならだけは聞きたくもないし言わせたくもない
空気を押し出す発砲音が耳を突き刺す
喉が潰れるほどに叫ぶ
憧埜
手に汗を握りながら祈る
ここにいて欲しいから
1人になりたくないから
僕の本当を抱きしめてくれたから
響の本当を抱きしめたかったから
そんなエゴが入り浸った心に
微かな光を注いでくれたから
響への思いで占められた約10秒間
響は2着で100mを通過した
目を閉じで手を強く重ねる
憧埜の手は震えていた
そしてその手を包むもう1つの手
澄
憧埜
この温もりもあと少しで期限が切れる
そう思うと虚しくて仕方がない
胸に迫る感情で息が詰まる
恐る恐る電光掲示板に目を移す
11.45
目にした数字に涙が込み上げる
憧埜
高柴くんは背中をさすってくれた
澄
僕の目を見て朗らかな笑みを向けて くれた
憧埜
涙を必死に堪えて自然と走り出していた
今すぐ響と話がしたい
階段を疾走して姿は見えなくなった
そこに取り残された悲しい背中を
置き去りにして
嬉しさと感動が混ざりあって
もうよく分からなくなっていた
憧埜
僕の声に気がついた響は走り出した
そして両手を広げて憧埜を抱きしめる
響の涙の冷たさが肩に触れる
憧埜
憧埜
堪えていた涙が止められなくなる
響
涙はあと少し取っておくはずだったのに
息が出来ないほど涙が流れる
響
響
柔らかな光が2人の肌に染みる
涙を互いに拭った2人は
何だか恥ずかしくなって笑いあった
県IH4日目
早くも最終日となった
時間はあまり僕らを味方してくれない
止まってくれない
どんなに足掻いても
そして僕は高柴くんと春紀先輩にとって最後の舞台に
並んで立っている
競技は最終種目
男子4×400mR決勝
1日目から3日目の激戦で他校の選手も疲れが目に見えるほどだった
すると背中に暖かさが宿る
澄
春紀
憧埜
恵
こんなにも愛しい時間が
大切な時間が
削り取られていく
今日で最後にしたくない
絶対に
関東大会へ勝ち進む
少しでも長く
あなたと一緒にいるために
一走目の恵が髪をかきあげて位置に着く
目を瞑って思いを巡らせる
胸にまで響く音が鳴る
凍った空気が1つの音で暖められた
歓声が沸き立っている
一走の恵へのエールがスタンドから聞こえてくる
少しフォームは崩れているが安定した走りができてる
恵は2位で300mを通過した
憧埜
嗄れた声を遠く響かせる
周りの声にかき消されないように
澄
恵は順位をそのままにして春紀先輩へと繋いだ
スタンドから呼ぶ声も一層大きくなった
春紀先輩は1位の藤晴の後ろについてペースを維持しながら走っている
そして200m地点で一気にペースが上がり藤晴を追い抜いた
近づくバトンに緊張が抑えられない
憧埜
そしてほぼ同着でバトンが渡った
風を切って藤晴との距離を保つ
スタンドから叫び声が聞こえる
結空
淕
秋人
10m程差をつけられてしまう
強く地面を蹴って
前の選手へ食らいつく
敦志
紘時
大きく手を広げて高柴先輩が僕を待ってくれている
汗が滴り息が上がりきっていた
それでも残りの力を振り絞って加速した
僕の思いを全部
バトンに乗せて
全身全霊であなたに渡したいから
全部受け取って欲しいから
そして強くそのバトンを高柴先輩の手に託した
藤晴との差は5m未満
タータンに倒れ込んで空を見た
その光景に目が潤む
春紀
親指を立てて満足そうに笑ってる
恵
咄嗟に目を手で覆った
憧埜
憧埜
憧埜
恵が手を差し伸べて言う
恵
そして3人で高柴先輩の帰りを待つ
残り100m
藤晴とほとんど並列していた
恵
憧埜
春紀
高柴先輩が笑う姿が見える
残り50mで高柴先輩が前へ出た
藤晴との距離を着実に離していく
盛大な歓声が会場へ注がれた
高柴先輩は1位でゴールラインに強く踏みこんだ
高柴先輩は僕らの方へ駆け寄ってくる
4人で強く抱きあって笑いあった
澄
恵
憧埜
春紀
嬉し泣きをする恵と笑っている僕の頭を先輩たちは撫でてくれた
そして4人は広大なフィールドに一斉に礼をしてから歩き出した
春紀
澄
憧埜
恵
夕暮れが迫る
時間が次第に僕の首を絞める
少しでいいから
時間が足を止めてくれたなら
なんて