出雲 治
月見 晴翔
退院した出雲の話を聞くと、病院でもまた災難にあったようだった。
心配していたのだが、病院という場所はそういうモノが渦巻く場所でもあるのだから、そういうこともあるだろうと彼は納得している様子だった。
そんなことで気を病む程彼は弱くなかったらしい。
出雲 治
月見 晴翔
出雲 治
出雲 治
月見 晴翔
煮え切らない僕の返事に、彼は顔を顰める。
前科があるとこうも信用ならないのか__なんて、他人事のように考える。
出雲 治
出雲 治
月見 晴翔
取り留めもない話をしながら、机に積まれた資料やらの整理をする。
今日は特に依頼も入ってないから、事務にあたるばかりで少し詰まらない。
それくらいの方が平和でいいのかもしれないが。
出雲 治
出雲が何か口にしようとしたその時、不意に事務所の扉が大きな音を立てて開かれた。
何なんだ__と思ってちらりと視線を扉の方に移すと、そこには見知った顔が。
宮田 眞琴
月見 晴翔
宮田 眞琴
出雲 治
宮田 眞琴
ごめんごめん、と思ってもいなさそうな彼__宮田眞琴に呆れてため息をつく。
するとふと、眞琴の後ろに誰か立っていることに気が付いた。
無駄に高い眞琴の背に隠れるようにしていたから、上手く死角で見えなかったのかもしれない。
出雲 治
宮田 眞琴
出雲 治
宮田 眞琴
宮田 眞琴
八橋と呼ばれた青年は前に出てきて、おずおずと口を開いた。
八橋 渉
八橋 渉
出雲 治
宮田 眞琴
出雲 治
宮田 眞琴
宮田 眞琴
八橋 渉
先まであんなにも静かだった事務所が一気に騒がしくなる。
別に悪い心地はしないのだが、どうも騒がしい事務所はまだ慣れない。
会話を弾ませている三人を横目にぼんやりと考えていると、いつの間にか眞琴の顔が眼前にあった。
驚いて少したじろぐと、彼は笑って資料の束をこちらに突き付けてきた。
読んだら分かる、そういうことだ。
宮田 眞琴
月見 晴翔
月見 晴翔
突き付けられた資料の中身は、とある村の話だった。
どうやらそこの観光をしてきて欲しいらしく、しかもその村は少し不思議なことがあるらしい。
そこで、読者からも人気な探偵である僕らに声が掛かったということだった。
観光、もとい調査というわけだ。
宮田 眞琴
宮田 眞琴
宮田 眞琴
月見 晴翔
宮田 眞琴
八橋 渉
宮田 眞琴
出雲 治
八橋 渉
出雲 治
さっきっから話が進まないが、要は僕が頷けばこの話は丸く収まるというわけだ。
それを理解して尚も気は進まないが、取り敢えずこの場のためにも頷いておく。
月見 晴翔
宮田 眞琴
出雲 治
月見 晴翔
宮田 眞琴
宮田 眞琴
出雲 治
宮田 眞琴
11日、というと確かに何か予定が入っていたような気がする。
はてなんだったかと首を捻っていると、手帳を見ていた出雲が口を開く。
出雲 治
出雲 治
月見 晴翔
月見 晴翔
宮田 眞琴
宮田 眞琴
その"何か"が何なのかはここでは口にされなかったが、なかなかその村もいわく付きらしいことは読み取れた。
すると、今まで黙々と資料を読んでいた八橋がさあっと顔を青くして口を開いた。
八橋 渉
八橋 渉
そういうのをよく知ってるだとか、何ともならないだとか、そんな話をする八橋は神社か寺かの息子なのだろうか。
それともただ単に"何とかする術"に詳しいだけの一般人か。
どちらかは分からないが、本気で訴える彼からはある種の恐怖が感ぜられる。
それでも尚、眞琴は僕らをそこへ向かわせる気らしい。
じいっとこちらを、まるで"大丈夫"だと言っているかのように見詰める。
その雰囲気に気圧されたか、八橋はひとつため息をついてからこちらを一瞥した。
八橋 渉
出雲 治
月見 晴翔
月見 晴翔
月見 晴翔
宮田 眞琴
へらりと笑う彼の目には、やるせなさというか後悔というか、そんな感情が渦巻いていた。
そういえば、警察側からの依頼らしいがどうして直接連絡が来なかったのだろうか、なんて考える。
何時もなら朝霧刑事かそこらから電話が来るのだが、態々眞琴を使ったのはそれが普通では無い依頼だからか。
警察も手を出せないような存在、所謂出雲が体験したような怪異の類か、はたまた村単位の犯罪か。
後者であれば勿論警察が直で乗り込めばのらりくらりと躱されることは間違いない。
警察もなかなか賢い判断をするものだ__と上から目線にそう思った。
宮田 眞琴
宮田 眞琴
月見 晴翔
月見 晴翔
宮田 眞琴
宮田 眞琴
八橋 渉
不安が拭いきれないのか、こちらを見る瞳はゆらゆら揺れている。
そんな彼を安心させるため、声にはしなかったができるだけ優しい目線を送った。
__尤も、それをどう受けとったのかは分かりやしないが。
宮田 眞琴
月見 晴翔
宮田 眞琴
宮田 眞琴
出雲 治
宮田 眞琴
ぞろぞろと三人が扉から出ていく。
閉じられた扉を見てから、またひとつ大きくため息をついた。
カツカツと革靴で床を叩く音が響く。
見送りとして外まで出てみたが、どうも頭の中は先の資料の中身でいっぱいいっぱいだった。
そんな俺の様子を察してか、声を発したのは宮田さんだった。
宮田 眞琴
いつものようにおどけてもなく、かといって真剣にでもなく、ただ単に"疑問"だといった調子でこちらに問うてきた。
出雲 治
宮田 眞琴
八橋 渉
出雲 治
出雲 治
先程酷く焦っていた様子から、"そういうこと"に精通しているのかと思っていたのだが__とぼんやり考えていると、どうやらそれはハズレでもないようで。
八橋 渉
八橋 渉
八橋 渉
おどおどした様子で喋るものだから、余程自信が無いのだろうと考える。
__でも、まあ。
出雲 治
宮田 眞琴
八橋 渉
くつくつと喉を鳴らして笑う俺と宮田さんを見て頭にはてなを浮かべる八橋。
でもきっと、今は意味が分からなくても後から分かるようになるだろう。
宮田 眞琴
八橋 渉
礼儀正しく頭を下げてから、「それじゃあ」と言って帰って行った__と思ったのだが。
宮田さんだけは踵を返してこちらへ寄ってきた。
何か伝え忘れたことでも__と考えていると、不意に手に何かを握らされた。
不思議に思って手元に目線を移すと、吃驚してそれを落としそうになる。
出雲 治
宮田 眞琴
宮田 眞琴
出雲 治
宮田 眞琴
そう言って駆けて行った彼の明るい笑顔とは裏腹に、俺の気分は暗かった。
__[4.隠された犯罪 ㊥]に続く