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翌日──。
早く目覚めた悟は、屋上に出ていた。二度寝しようと思っていたのだが、なかなか寝つけず外に出てきたのである。まだ世は明けておらず、薄暗い──かたわれ時である。
神無月の空にペガススの四辺形を描く。枯れ葉を巻き上げるような野分の風が一瞬、悟を襲った。
悟
念のため持ってきていたカーデガンを羽織る。悟は屋上へ続く錆びた金属ドアから遠く離れたネットフェンスまで近づいた。
外へ出る手段が屋上だけではなかったが、屋上であれば朝日が昇る瞬間を見れるのではないかと悟は思い至ったのだ。
下衣のポケットに入れた携帯電話を見れば、午前五時五四分だった。 静寂の中、複数の烏の鳴き声が響き渡る。
携帯電話の画面が午前五時五十五分を示した時、画面の文字が朱鷺色《薄い橙色》の光で塗り潰された。光の発生源を辿りながら、悟は顔を上げる。
悟
悟
悟はその光景に感極まる。空を占めていた闇は後退し、 萱草色《明るい橙色》に染め上げる。早朝を知らせる主役の強い光に当てられ、悟は目を細めると顔を背けた。
毎朝六時に検温の記録をとりにくる看護師が病室を訪ねてくる。
悟
悟はネットフェンスに背を向けた。金属ドアを捉えた視線が自然と下がる。それは、先程まで利休鼠《ねずみ色》のコンクリートには存在しなかった色がそこにあったからだ。
?
金属ドアと悟の丁度間に立つそれは、開いた口をそのままにして喋った。本来であれば、意思疎通ができないはずである。だが、それは確かに喋った。
悟
声の質は、三十歳くらいのお兄さんかおじさんか微妙な感じの声。つまり、若くもなければ年老いてもいないような、というところ。その声は悟が交通事故にあって意識を失う寸前に聞いた声と一致する。
それの正体とは、体長八十センチメートル、全身憲法色《真っ黒》のごく普通にどこにでも存在する烏《カラス》。
これが、少年──悟と烏《カラス》の出会いである。