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紫煙
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いるま
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紫煙
紫煙
ふぅ、と。 水を飲んで一息ついた。
いるま
今はシクフォニ全員でのダンスレッスン中で、一旦水分補給のために小休憩をしているところだ。 だが、今習っている曲は大きな振りと速いテンポが特徴で、俺らのダンスの中でも格段に難しかった。
見渡すと、一緒に同じ振りを習っていたシクフォニメンバーたちも、各々疲れ果ててぐったりとしている。
かくいう俺も、かなり疲れているところだ。 すると、少し焦ったように、なつがこちらに駆け寄ってきた。
彼は、メンバーにも内緒で交際を始めた、俺の恋人である。 いつもは明るく輝いているその瞳だが、なんだか今は揺れている。 不安そうな顔もかわいい、……じゃなくて。
体力もキツいだろうに慌ててどうした、と訝しげな顔をすると、なつは前髪を耳にかけて、綺麗な耳を晒してみせた。 中々に男心をくすぐる挙動である。
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ふむ。 言われてみれば確かに、晒されたその耳にイヤリングはついていない。
ダンスレッスンを始める前には、紫色のものがついていたように思う。 恐らく、このダンスの激しい動きに振り回されて落ちたのだろう。
いるま
ダンスの教室の床はただのだだっ広いスペースだ。 踊るための空間なのだから、落ちたイヤリングが何かの下に入り込んでしまったりする心配はない。すぐに見つかるだろう。
そう思ってあたりを眺めてみるが、床に落ちている様子はなかった。 ダンスのフォーメーションでのなつの位置を追ってみても、特段なにも落ちていない。
となれば、なつの服の中に落ちたか。 なつの今日の服は、襟元が大きめに開いた、ゆったりとしたTシャツだ。 ダンス中にイヤリングが落ちたなら、そこに入り込んでしまっている可能性は十分にあるだろう。
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と、なつは自ら、服の首元をぐいと引っ張って広げてみせた。 しゃら、と服の上にしていたネックレスが彼の鎖骨に落ちて、肌に銀色が映えている。非常に目に毒である。
思わずガン見しつつ頷いた。 服の中に落ちたのを探すということは、……え、そこから手ぇ突っ込めばいいのか? エr……や、そんな場合じゃないか。 だが、エロい以外にも、上から手を突っ込むのでは見えづらいという問題もある。流石に他の方法を取りたい。
すると、なつはTシャツの裾を少しまくってみせた。 なるほど、上からよりは下から探したほうがやりやすいだろう。
じゃあ遠慮なく、と、なつの前にしゃがんで服の中に目をやった。 目に飛び込んでくるのは、綺麗な腹筋である。しかも、ダンスレッスンで汗ばんでいるというオプション付き。 まじまじと眺めたくなるが、今はイヤリングを探さなければならない。
いるま
ざっと眺めるも前には無いと判断し、後ろ側も見せてもらう。 やはり綺麗な背中である。
こちらも眺めていると、紫色のイヤリングが、腰とズボンの隙間に入りかかっているのを見つけた。
いるま
そっと手を伸ばし、隙間に指を突っ込む。 と、なつの体がびくりと震えた。
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いるま
隙間からイヤリングをつまみ上げ、取れたぞとなつの方を見上げると、同時になつもばっとこちらを振り返った。
ほんのりと顔が赤い。 ……え。
いるま
不覚にも動揺してしまった。 すると、カカカカ、となつが素早くスマホに何かを打ち込む。 こちらに見せてきた、その画面には。 『えっち!!!』
いるま
えっち!?!? いわれもない罵倒である。特段エロいことをしたつもりはない。 腹筋へのおさわりもしていない訳だし。
が、文字は続けて打ち込まれる。 『急に腰さわんなばか!!』 それを見て、あぁ確かにと納得した。
なるほど、今のは俺が悪かったか。冷静に考えれば、急にズボンに指を突っ込まれたら誰だってビビる。 ……が、なつのリアクションの方がえっちだろうと思ったのは内緒だ。
ちなみに、画面による会話なのは、俺達が付き合っていることが内緒だからだろう。万一にも、意図せぬ形でメンバーにバレるのは避けようとしてくれている。
キレていても、こいつの優しいところは変わりない。 その優しさにほっこりしつつ、どうしようかと迷った。
とりあえず、ごめんて、と手を合わせてちょっと頭を下げるジェスチャーで許しを請うてみた。 すると、また文字で帰ってくる。 『今は許すけどぜってぇやり返す』
いるま
申し訳なかったという思いに代わりはないので、やり返されるときが来たら、甘んじて受け入れようと思った。
が、今はイヤリングが先決である。 拾い上げたそれを見せると、なつは丁寧に手に取った。
そして、手早く耳元につけ直される。 甘いブラウンの髪に、イヤリングで紫__俺の色が添えられる。 流石に、この色の意味がわからないほど野暮じゃない。
いるま
なつなりに、俺の恋人だと主張してくれているのだろう。 今はまだ、付き合っていることすら内緒にしているのに。 思わず、笑みがこぼれる。
そして、俺の笑みを見たなつも、微笑んでくれる。 俺の色をまとえることが、嬉しいのだと言わんばかりに。 その瞳は、いつもの、俺の大好きな輝きをはらんでいた。
いるま
ダンスレッスンでくたくただろうと、恋人と付き合っていることすら大っぴらにできずとも。 俺の色をまとったなつの瞳が、またいつものように輝くこと。 それだけで満たされる俺は、思いのほか単純らしい。
紫煙
紫煙
紫煙
紫煙