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ジョン

…8月1日だ

ジョン

ようやく、この日が来た

今日は、村の夏祭りが行われる。

昔は1年の間で夏と冬の2回行っていた祭りだが、

今は村人が少ないこと、村のお金が少ないことを理由に

夏の祭りだけを継続することにしているようだ。

ジョン

待ちわびたぞ…

ジョン

この日を!!

ジョン

懐中電灯、ハンマー、ロープ、

ジョン

ナイフもある

ジョン

よし、あとは時間になったら…

ドン

ジョン

は…?

ジョン

な、何の音…

確かに外から、物音がした。

ジョン

花火の音じゃないな

ジョン

…イノシシが、外壁にぶつかったかな?

ジョン

ジョン

暗くて、よく見えない

窓から覗いても、

暗くて何も見えない。

ジョン

懐中電灯…つけても

ジョン

…………暗いなぁ

ジョン

ジョン

気のせい、かな

ジョン

そろそろ、花火が打ち上がる時間だ

夏祭りの一番のイベント、

打ち上げ花火。

僕は半年前から、この日に決行すると決めていたんだ。

ジョン

水、方位磁針、地図…

ジョン

できる、今日

ジョン

確実に!

???

あっはっはっは

ジョン

?!

ジョン

ジョン

だ…誰か外にいるのか?

ここは二階だ。

誰かいるなら下の筈だが、

この家の裏は崖だ。

普通、誰もこんな危険な場所には近寄らない。

ジョン

祭りで、酔っ払って誰か迷い込んだのかな…?

???

やった、うれしい、嬉しいわ!

ジョン

………………………

ジョン

窓、開けてみよう

僕は油断していた。

聞こえてきたのが、女性の声だったからだ。

ガラッ

???

あら、誰か住んでいたのね

ジョン

う、うわああああ!

開けた窓から侵入してきたのは、

とても目が大きくて、

口の両端が裂けた

僕より年上と思われる少女だった。

ジョン

だ、誰…?!

???

この村の人間よ

???

つい最近までは、ちゃんと学校にも通っていたわ

ジョン

…君

???

怖い?

ジョン

ジョン

…うん

???

あなたみたいに、素直な子は好きよ

ジョン

何で、入ってきたの?!

???

ここが、ちょうど良かったの

ジョン

は…?

???

この建物から、真下に飛び降りるとね、

???

あの尖った岩が

???

私を貫くの

ジョン

?!

???

そうなれば、私はようやく自由になれる…!

ジョン

ジョン

意味が、わからない!!

???

私はね、

???

生きている価値が無いんだ。

???

どんなに勉強ができても、

???

この見た目だから、居場所がどこにも無いの

ジョン

ジョン

…その、こんなこと聞くのは失礼かもしれないけど

ジョン

口が裂けているのは…生まれつきなの?

???

そうらしいわよ

???

私は捨て子だったから、

???

育ててくれた人が、私を見つけたときには…この状態だったそうよ

ジョン

そっか

ジョン

でもすごいね

???

何が?

ジョン

発音。口が裂けているのに、綺麗だ

ジョン

声も、聞き取りやすい

???

???

そんなこと言われたの

???

はじめてよ

ジョン

君は、学校に行ってるって言ったね?

???

今は通ってないけどね

ジョン

どんな所なの?

???

???

…は?

ジョン

学校

ジョン

僕、生まれてから学校に行ったことないから

???

そんな…

???

私でも、学校に通えていたのに?

???

あなたは、身体的に問題がある訳じゃないでしょう

ジョン

体には異常はないよ

???

何故?

???

…暗くて、よく見えないの

???

もっと、近寄ってもいい?

ジョン

…うん

???

まぁ

???

なんて、綺麗な瞳なの…

ジョン

…恥ずかしいよ

近づくと、彼女の顔は傷だらけだった。

暴力を、受けているのだろうか

???

あら、ごめんなさい

???

???

…それにしても、この部屋

???

何て物騒なの

ジョン

あ、違うんだ

ジョン

これは、その………

???

誰か殺すつもり?

ジョン

そんなんじゃないよ

???

ジョン

ジョン

………………………

???

決死の思いで、何かやり遂げる感じがするけれど?

ジョン

人殺しは、しないよ

???

そうなの?

ジョン

本当は、殺したいけどさ

???

やっぱり

ジョン

でも、ダメだ

ジョン

殺しても、何も変わらないから

???

???

…え?

ジョン

僕自身が変わることにしたんだよ

???

変わる?あなたが?

ジョン

そう

???

どうして?

ジョン

今の状況から、逃げ出すためだよ

???

…ねぇ、あなた

???

本当に、この部屋で

???

生活しているの………?

ジョン

ジョン

そうだよ

???

だって

???

ここはまるで

???

独房じゃないの

ジョン

…そうさ

ジョン

生まれてくる場所、間違えたんだ

物心ついた時には

家から出ることを禁じられ、

また、ある時から

この部屋と、隣のトイレのある部屋だけで生活をしている。

???

もしかして

???

生まれてから、一度も

???

外の世界を知らないの…?

ジョン

知らないよ

ジョン

僕が知っているのは、

ジョン

読み書き、母国語での会話、

ジョン

この窓から見える景色、

ジョン

本の知識だけさ

???

???

そんなこと、ある?

ジョン

残念だけどね

ジョン

きっと、世の中には僕みたいな人が

ジョン

他にもいると思う

???

そんな………

ジョン

…だから、ね?

ジョン

今日は8月1日だろう

ジョン

だから、今日飛び出すことにしたんだ

???

花火の、物音に紛れて?

ジョン

………そういうこと

???

…はぁ

ジョン

???

私、この日に飛ぶって決めてたの

ジョン

飛ぶって何?

???

このお屋敷から、花火の日に飛んで、

???

ここで私は体を花火のように散らせて、命をオシマイにしたかった

ジョン

そんなの、ダメだよ!

???

何故?

ジョン

生きていれば、いいこともあるはずだよ

???

もう疲れたわ

???

努力なら、昔からしてきた

???

見た目をからかわれるなら、せめてと思って、

???

10歳の時に、料理、洗濯、掃除、裁縫も…誰にも負けないくらい、出来るようになったわ

ジョン

すごい

???

勉強や、運動も頑張ったわ

???

…でも、友達なんてできないし、

???

学校でも、毎日いじめられたわ

ジョン

口が、裂けてるだけなのに?

???

そうよ

???

だって、あなたも最初に

???

私に尋ねられて、素直に「こわい」って言ったじゃない

しまった これが言葉の暴力だ。

僕は、虐待されてきて、

暴力の理不尽さを十分理解したつもりだったのに

全然、配慮が足りてなかった…

ジョン

…ごめんなさい

???

あなたは素直ね

???

いいの、別に

???

もう、この世界に疲れちゃったの

???

だから、私という人生は…

???

一旦、おしまいよ

ジョン

ダメだ!

???

…え?

ジョン

君は、生きなきゃいけない

???

どうして?

???

もう嫌

???

辛いの

ジョン

ダメだ

ジョン

君が死ぬことを、僕が許さない

???

そんな、やめて

???

私、この日のために準備してきた!!

???

花火の日に、ここに来ることを唯一の楽しみにしていたのに……

ジョン

僕もだよ

ジョン

僕も、逃げ出すために

ジョン

何年もかけて、こっそり道具をかき集めた

ジョン

バレないように、少しずつ、少しずつ…

ジョン

そして半年前に、ようやく逃げ出すためのアイテムが揃ったんだ

ジョン

…今日しかないと、ずっと思ってた

???

………そうだったのね

ジョン

逃げ出してバレたら、もっと苦しい生活になるって分かってたから

ジョン

今日、今しかないんだ…!

ジョン

花火で、皆の気が逸れているうちに

???

今日なら、監視が緩いってこと?

ジョン

そう、そうだよ!

ジョン

ジョン

…君も、来るかい?

???

???

え?

ジョン

君は死ななくていい

ジョン

変わりに、僕と契約しないか?

???

…契約?

ジョン

そう

ジョン

僕が、君に新しい場所を提供する

ジョン

誰も、君のことを非難しない場所をつくる

???

………………………………

ジョン

変わりに、君が僕に

ジョン

生きていくための術を教えるんだ

???

どういうこと?

ジョン

僕は学校に行っていないから、

ジョン

団体生活を知らない

ジョン

料理、裁縫、洗濯も…何もできない

???

うん

ジョン

僕が、生きていくために必要な知識を

ジョン

君から僕に教えてほしいんだ

???

…どうしよう

ジョン

え?

???

まさか、自殺する直前で

???

こんなことになるなんて

ジョン

僕も、びっくりしてるけどね

ドン

???

花火始まったわね

ジョン

うん

ジョン

…どうする?

???

…どうしよう

ジョン

今、君がここで死んだら

ジョン

僕も間接的に死ぬ

ジョン

本で読んだ知識しかないから

ジョン

働き方もしらないし、

ジョン

不衛生で、感染症になって死ぬかもしれないよ

???

それは、そうかもしれない…

???

…あなた、逃げた後のことは考えなかったの?

ジョン

考えたけど、無理だった

ジョン

親戚もいないみたいだし、

ジョン

外に出られないから、友達なんかいない。

ジョン

ここで一生生きていくなら、

ジョン

死んでもいい

ジョン

違う世界を見たかったんだ

あれ?僕

泣いている。

体、どこも痛くないのに

???

私と一緒

???

…私も、差別のない世界を見てみたかった

???

結果的に、差別はなくならないし

???

私の居場所もなかったけど

???

差別のない世界を…見てみたかったな…

ジョン

…じゃあ、やっぱり

ジョン

僕と契約しようよ

ジョン

互いが、互いのためにサポートする

ジョン

一緒に違う世界を見て、

ジョン

一緒に生きよう

???

…いいのかな?

ジョン

え?

???

私、今まで幸せって分からなかった

???

でも、今はわかる

???

こんなに幸せで、いいのかな

ジョン

まだまだ、だよ

ジョン

本当の幸せはこれからだよ

???

そうかな

ジョン

僕は、ジョンだよ

ジョン

名前教えて

???

エミリーよ

ジョン

エミリー

ジョン

一緒に、来てくれるね?

エミリー

…うん

不思議だ

ひとりじゃない、ただそれだけで

不安が、かき消されていく。

エミリー

あなた、お金はないわよね

ジョン

無いよ

エミリー

私も、あまり無いの

エミリー

働ける場所を探さないといけないわね

ジョン

力仕事なら出来るかな?

ジョン

僕、今まで鍛えていたから

エミリー

あら、頼もしいわね

ジョン

この体になるまでは

ジョン

怖くて、逃げ出せなかった

エミリー

そっか

エミリー

でも、どこに行ったら働けるかを知らない…ってことよね

ジョン

そういうこと

エミリー

…大丈夫よ

エミリー

これからは、私が教えてあげるから

ジョン

…うん

エミリー

エミリー

…外は、どう?

ジョン

…うん、気分がすごくいい

風が僅かに吹いていて、

打ち上げ花火の火薬の匂いがする。

ジョン

これが、外か…

ジョン

足がチクチクする

エミリー

あなた靴無いものね…

エミリー

働いて、真っ先に買いましょう

そして、

彼女から、甘い匂いがする…

ジョン

…ねぇ、エミリー

エミリー

何?

ジョン

エミリーから香る匂いは何かな?

エミリー

ピオニー、かしらね

ジョン

ピオニー?

エミリー

育ての親が、生きていた頃に愛した花よ

エミリー

毎日、飾っているから匂いが服についたのかもね

ジョン

そっか

ジョン

いつか、その花も見てみたいな

エミリー

いずれ、見られるわよ

???

一緒に生きていられれば

ジョン

…そうだね

つい先程、あの独房のような部屋から

脱走したばかりとは思えない状態。

ジョン

人生、何があるか

ジョン

わからないものだね

エミリー

…そうね、本当に

ジョン

これからは、僕がエミリーを守るよ

エミリー

ありがとう

エミリー

私も、あなたに沢山の知識を与えられるよう

エミリー

頑張るわ

そこから、僕たちは旅をはじめた。

時に働き、時に遊び、

止まっていた互いの青春を掴んだのだ。

あの祭りの日に、

花火の日に、

僕たちは出会えて 本当に良かった。

エミリー

ジョン、私達は

エミリー

ずっと一緒よ

ジョン

そうだね

エミリー

どちらかが寿命で死ぬまで

エミリー

ずっと…ね

スターマインがくれた 人生(いのち)

fin

あとがき

作者のwatです。

お読み頂きありがとうございました。

実は、このお話のもとになった楽曲があります

LUNKHEAD

閃光

「死んだように生きていくなら」

「花火のようにここで燃え尽きてもいい」

暗い歌詞と裏腹に

歌は激しく、それでいて切なくて

聞くたびに、インスピレーションを貰えました。

彼らのライブで涙を流す人も多く、

この時代 いかに生きにくい時代なのかということを考えさせられます。

気になった方は

ぜひ、調べてみてください。

最後までお読み頂き

ありがとうございました!

2020.5

wat

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