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そこは山小屋だった。

キャンプ場にあるバンガローもかなり古びているけど、それに輪をかけて古かった。

山小屋の前には、木製のテーブルとイスが置いてあるけど、これもキャンプギア系の機能性のあるデザインではなく、木の板を釘でくっつけて取りあえず使えるようにしただけのシンプルな物だった。

パースク

そこに座って

ユウゴ

どうも

闊歩

どうも、とは?

振り返ると、いつの間にかアルクのおばあさんが、ぼくの背後に立っていた。

ユウゴ

おばあさん、いつからそこに?

闊歩

私のことなどどうでも良いでしょう。

闊歩

それよりも、相変わらず言葉使いがなっていない子ですね

パースク

言葉なんて気持ちが通じればそれでいいでしょう。

パースク

マダム・イレも座ってください

闊歩

私は立ったままで結構。
あなたの作ったイスは足の長さがあっていないので、かえって腰を悪くします

相手にすすめられたイスを断るのも、それはそれで失礼な気もするけど。

闊歩

ユウゴさん、言いたいことがあるなら言ったほうがいいですよ

ユウゴ

いえ、何もないです

また顔に出ていたみたいだ。

このおばあさんは特に鋭いから、気をつけないとな。

アルクのおばあさんはテーブルの前に立つと、右手を軽く下に向けた。

足元の土が盛り上がってイスの形になる。

さらに綿のような植物が次々と芽吹いて表面を埋め尽くし、あっという間にひとりがけのソファがあらわれた。

パースク

その魔法便利ですね。
今度、教えていただけますか?

闊歩

水《アクア》の方に、地《テラ》の魔法は使えませんよ

パースク

それじゃあ、ウォーターベッドを作る研究でも始めようかな

闊歩

その方が、今やっている研究よりも有意義かもしれませんね

ぼくの頭を飛びこえて、男の人とおばあさんで会話が始まってしまった。

何か魔法がらみの高度な話をしているのだろうとは思うけど。

パースク

ああ、ごめん。

パースク

遠慮しないで座ってよ

男の人が先にイスに座り、ぼくにも座るようにうながした。

おばあさんも自分で作った土のソファにもう座っている。

ユウゴ

ど、どうも……

ユウゴ

ありがとうございます

で、いいのかな。

男の人とおばあさんの顔を交互に見ながら、ゆっくりとイスに腰かけた。

おばあさんが言っていたように、足の長さが違って少しグラグラしている。

パースク

ほーら、マダム・イレが厳しいこと言うから、緊張させちゃったじゃないですか

闊歩

口数が少ないのは、イスが気になるからですよ

おばあさんが手を地面に向けると、イスのグラつきが無くなった。

短い足の下の土をわずかに盛り上げて、座面が平らになるように調整してくれたんだ。

ユウゴ

あ、どうも

闊歩

ん?

ユウゴ

……ありがとうございます

一言話すだけでも怖い。

さっきはインターホン越しで声だけだったから、まだ平気だったけど。

パースク

さて、何から話そうか

ぼく達3人が席についたのを確認し、男の人が話を切り出した。

闊歩

まずは自分がやらかしたことを、お謝りなさい

パースク

そうだったね

おばあさんにピシャリと言われて、男の人はぼくに向き直った。

パースク

ユウゴくん。すまない。

パースク

今の君の置かれた状況は、すべて私の責任だ

男の人が深々と頭を下げる。

ユウゴ

ぼくの置かれた状況って、アミキティア魔法学校を退学になったことがですか?

パースク

それよりもずっと前。

パースク

アミキティア魔法学校に入学することになったところからだ

顔を上げて話を続ける。

パースク

順を追って説明する。
かなり長い話になるけどいいかな?

ユウゴ

それは、もちろん

むしろ、この話を聞くためにここまで来たんだ。

断る理由は一切ない。

パースク

私の名前はパークス

本名ではなく魔法使いとしての名前だと付け加える。

さっきパークスさんが、おばあさんをマダム・イレと呼んだのも、同じく魔法使いとしての名前だ。

パースク

君もアミキティア魔法学校でウェヌスやプルムスに指導を受けただろう?

ユウゴ

はい。

ユウゴ

あ、ウェヌス先生には魔法訓練授業の付き添いもしてもらいました

パースク

彼女は魔法研究が主な仕事だからね。魔法研究会に入れば、学ぶ機会もあるだろう

魔法研究会か。

シシロウ達と1度だけ見学に行ったことがあったな。

パースク

私はウェヌスやプルムス、他にも世界に点在する魔法使い達と、使い魔の研究をすすめているんだ

ユウゴ

使い魔って、魔法使いが動物や悪魔を操ったりするあれですか?

パースク

そう。

パースク

おとぎ話であれば、魔女が黒猫やカラスやネズミなどを使い魔にしている話は無数にある。

パースク

昨今の漫画やゲームなら、ドラゴンを召喚して戦わせたり、ペガサスに乗って空を飛んで旅をするような表現もあるだろう。

パースク

それを可能にするための研究だよ

ユウゴ

研究しているってことは、今はできないんですか?

闊歩

できるはずがありません

おばあさんが厳しい口調で割り込んできた。

闊歩

魔法というのは、火《イグニス》、水《アクア》、風《アエル》、地《テラ》、例外的に闇《ケイオス》などもありますが、すべて外部に働きかける力です。

闊歩

対して使い魔が目指すところは、使う対象の思考や精神を操ろうというもので、魔法の性質に真っ向から反しております

パースク

別に操るつもりはありませんよ。

パースク

警察犬や救助犬などと同じく、人と心を通わせて、同じ目的のために働いてもらえればいいんです

闊歩

その理想の犠牲になった子供の前で、よくもそんな事が言えますね

ユウゴ

犠牲になった子供って、ぼくのことですか?

闊歩

心あたりがあるから、ここまで来たのでしょう?

無意識に右手で左肩の傷を撫でていた。

魔力痕は傷をつけた魔物が近くにいると、共鳴痛という独特の痛みを感じる。

今も痛みを感じるけどかなり弱い。

パークスさんがつれている黒い犬がさっき体を大きくした時、この傷の痛みが大きくなった。

パースク

ユウゴくんが思っているように、君に魔力痕を付けたのは、この犬だよ。

パースク

正確には魔物の本性を解放した時にね

ユウゴ

魔物の本性を?

パースク

話は戻るけど、使い魔とする研究対象として、私は魔物を選んだんだ

ユウゴ

魔物を使い魔にするってことですね?

パースク

この研究がうまくいけば、魔法使いは魔物と戦う必要はなくなるかもしれない。

パースク

そこまでは出来なくても、魔物は人や動物よりも強い力を持っているから、災害救助などで心強いパートナーになってくれるかもしれない

ユウゴ

あの、アミキティア魔法学校で人工魔物《イミテーション》を何種類か見ましたけど、あれは使い魔とは違うんですか?

パースク

似て非なるものかな。

パースク

人工魔物《イミテーション》は読んで字のごとく人工物で、プログラム通りの動きしかできない。

パースク

ロボット掃除機は生き物のように動くけど、生き物だと思う人はいないだろう?

その例えは、わかるようなわからないような。

パースク

今ちょっと言ったけど、人工魔物《イミテーション》だと最初に決められた動きしかできないから、不測の事態に対応できない。

パースク

その弱点を克服するために、魔物を使い魔にする研究をしているんだ

闊歩

その不測の事態を起こしたのが、その魔物なのですけどね

パースク

マダム・イレはさっきから手厳しいですね

闊歩

本当のことでしょう。
自分の姿を、一度姿見鏡で見てみなさい

さっきからパークスさんとおばあさんはバチバチで、どちらもゆずらずに相容れない。

パークスさんの服は、ロングコートもデニムパンツも帽子もボロボロ。

それはただ古いからではなく、引っかき傷や咬み傷が無数にあるからだ。

黒い犬(魔物)がつけたものなのだろう。

でも、ここまで話を聞いて大体の中身は理解できた。

パークスさんはこの山小屋で魔物である黒い犬と生活を共にして、使い魔にできるか研究をしていた。

研究を始めたばかりの頃の黒い犬は、まだパークスさんになついてはおらず、人にもなれていなかった。

魔法使いのパークスさんだけなら、黒い犬に襲われても自力で対処することが出来たから、服がぼろぼろになるだけですんでいた。

それが5年前、道に迷ったぼくが山小屋の近くまでやって来た。

いくら襲っても平気でいるパークスさんを相手にするのに不満をいだいていた黒い犬は、近くに他の人間の気配を感じて襲いかかった。

すぐに気づいたパークスさんが黒い犬を止めたことで、ぼくは一命をとりとめた。

つまり、ぼくが魔法使いになったのは、パークスさんのおかげであり、パークスさんのせいでもある。

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