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蘭side
らん
誰もいない放課後の教室で 私は頬杖をつきぼーっと 窓の外を眺めていた。
そういえば現国の授業で先生が 「中秋の名月が素晴らしかった」とか 「秋分の日を過ぎ、昼と夜の長さが入れ替わった」などと 言っていたのを思い出す。
制服も夏服と冬服の移行期間に入り 半袖から長袖へと変わっている。
らん
窓に背を向け、 机に置きっぱなしだった スマホを開く。
新着通知はなく 代わりにスマホの隅にある ミニカレンダーと目があった。
夏休み明けに出品した コンクールの結果は もう間もなく発表される ことになっている。
らん
自分の呟きに眉を顰め 私は机に突っ伏した。
らん
夏休みの一件以来、威榴真とは 気まずい空気が漂うように なってしまっていた。
奈唯心くんと何かあったから 泣いたわけじゃない、 威榴真の迫力に驚いたからだ。
きちんとそう説明して 誤解は解けたと思っていたのに また新たな問いが飛んできた。
紫龍いるま
聞かれて改めて記憶を辿ったけれど 私にも理由らしい理由は 分からなかった。
もう1人の当事者である 奈唯心くんに聞かなければ 本当の理由は分からないだろう。
らん
それでは威榴真を納得させることは 出来ず、それ以来、なんとなく 態度がよそよそしかった。
らん
ちらっと視線を上げると 目の前には威榴真の机がある。
教室には自分以外いないのを 確認し、私は徐に席を立った。
らん
見慣れた文字を指でなぞり 苦笑を零した。
みんなと同じ机 同じ椅子のはずなのに そこかしこに威榴真の気配が 残っているようだった。
らん
鼓動が速くなるのに 気づかないふりをしてゆっくりと 威榴真の椅子をひく。
少しだけだから、と言い訳しながら そのまま座り込んでしまった。
らん
出し抜けに声をかけられ私は 「わぁ!?」と悲鳴をあげて 席を立つ。
開けっ放しのドアの前に いたのは不幸中の幸いにも 机の持ち主ではなかった。
らん
すち
澄絺はふっと笑い 小さく敬礼してみせる。
こちらの動揺ぶりに 気付いているのかいないのか 普段通りの様子だ。
らん
すち
あっさりと指摘され私は カーッと顔を赤く染めた。
あわあわと手を振り回しながら 「いや、あの、これは ... 」 と捲し立てる。
澄絺は「ふーん」と 興味なさそうに呟き どんどん近づいてくる。
すち
すち
威榴真の机の中から取り出したのは 分厚い辞書だった。
付箋だらけで表紙もくたびれており 一目見てかなり使い込んで あるのが分かる。
らん
すち
すち
らん
すち
すち
らん
すち
いつもの軽口の応酬に 私はほっと息をつく。
だが直後再び澄絺の口から 攻撃が飛んでくる。
すち
すち
らん
最初に告白のセッティングして くれたのは他でもない澄絺だ。
本番ではなく予行練習に 終わってしまってからも 「俺は話聞くだけだからね?」と 言いながら何かと相談に 乗ってくれている。
男子目線からアドバイスをくれる 貴重な相手でもあった。
らん
澄絺には 「コンクールの追い込みがあるから 告白予行練習が中断している」 としか伝えていなかった。
私が答えられずにいると澄絺は やれやれというように肩を竦めた。
らん
すち
すち
らん
真面目に言っているのに 澄絺は遠慮なく笑ってみせる。
すち
威榴真の席に腰を下ろし澄絺が じっとこちらを見上げてくる。
珍しく自嘲気味な笑みを浮かべる 幼馴染に私は目を見開く。
らん
すち
照れ隠しのようにぶっきらぼうに言う 澄絺に私は力の限り首を振る。
らん
すち
そう言って笑う澄絺の顔は たった一瞬でもう吹っ切れた ものになっていた。
らん
美琴だったらいいのにとは思うけど それを自分が聞くのは躊躇われた。
だから相手が誰かを聞く代わりに もうひとつ気になってることを 問いかける。
らん
すち
幼馴染の直感で澄絺が 嘘をついているのは分かった。
嘘というより本当のことを 全て言っていないという感じだ。
らん
私は先程の澄絺のように 「ふーん」とだけ相槌を打つ。
らん
すち
信じられないことを聞いたとでも 言いたげに澄絺の目が見開かれた。
その反応に言葉が足りなかったなと 思い、私は慌てて付け加える。
らん
すち
相変わらず察しの良い 澄絺に助けられ、私は勢い良く頷く。
らん
らん
あの時のことを思い出したのか 鼓動が騒がしくなった。
私はカーディガンの上から心臓に そっと触れじっとこちらを見ている 澄絺に笑いかける。
らん
すち
澄絺が蕩けるような笑顔を見せる。
誰かのことを想っての 優しい表情だった。
らん
たとえ相手が誰でも私は 応援しようと心に誓う。
もちろん美琴のことも応援しているが それとは別に純粋に澄絺の 想いが叶ってほしい。
恋愛感情はままならないものなのだと 改めて思い知る瞬間だった。
コメント
3件
はやくこくちゃえばいいのにって思うけど、そう言えないもんね いつまでもおうえんしです
桃桃…それまたちゃんと説明しないと勘違いされない…?((特にピンクと茈と黄色の人達