零桜

大人しくベッドに入る。

それはそうだと思うけどさぁー…

少し不服そうな顔をしているが、 嫌がってはいない。

急に真剣な顔つきになるこさめをみて、 院長さんは何かを察したらしい。

こさめは、何をするつもりなのだろう。

戸の閉まる音が響く。 これから始まる、大切な話の合図。

なるべく優しい声色を心がける。 こさめは今きっと、とても怖いだろうから。

不安で、仕方ないだろうから。

今にも泣きそうなのに、そんなに辛そうなのに。 強い覚悟で俺に話してくれるんだね。

小さく息を吸う。

身体が弱いんだろうとは思ってたけど、 心臓病…って、それって、だいぶやばいんじゃ…

…捨て子なんだよ。

小さい頃に病気が見つかって、 様子見って事になって

お父さんとお母さんに構って欲しかったこさめは、 先生の言う事を無視してはしゃいじゃったの。

症状は軽かったけど、沢山発症しちゃって

嫌気が差したのかなぁ…。元々冷たかったけど、 2人はこさめを捨ててったんだ。

沢山叫んだけど、両親は振り向いてくれなかった。

泣きじゃくってたこさめを、院長さんが 拾ってくれて、今こさめはここにいるんだ。

俺は、こさめを抱き締めずにはいられなかった。 ずっと、彼は抱えていたのだ。

ずっと、一人きりで。

段々と聞こえてくる、絞り出したようなうめき声。 …泣いているのだろうか。

こさめは泣きながら、ずっと辛かったって、 これ以上ない程泣いていた。

誰にだって、一人は怖い。

俺は、聞いてあげる事しか出来なかったけど。

少しでも君の力になれてるのかな。