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ガイド🦈×センチネル🙂④
目を瞬く
何もかもが見えた
耳を澄ます
何もかもが聞こえた
肌に触れる
何もかもが鋭く突き刺さった
口に含む
何もかもが強烈に感じた
鼻を鳴らす
何もかもが匂った
それが普通のことだと 思っていた
初めて検査を受けて――
そうではなかったのだと
スマイルは初めて知った
自分には特別な能力がある
それは周囲とは少し違うな、と
漠然と感じていた
望遠鏡なんかなくても 遠くが見えたし
内緒話も全部聞こえたし
痛みを感じないように できたし
ご飯を食べれば 何が入っているのか全部理解できたし
誰も感じない匂いだって 全部わかった
それを隠して 生きてきたわけではないけれど
伝える必要もなく
暴走する事もなく
スマイルは穏やかに生きてきた
弟を初めて 抱っこしたとき――
弟は泣き止まなかった
それからも何度か 弟と接触はしたけれど
接触する度に 弟は泣き叫ぶため
スマイルは 弟に触れる事を止めた
その正体を 知る事になったのは
残酷な話だが――
彼らが死んだ後だった
この国では一定の年齢に達すると 検査が行われる
スマイルも六歳の時に その検査を受けた
その結果に両親は初めてスマイルに センチネルバースをいうものを教えた
そこでスマイルは
自分が全ての五感に長けている 能力者だという事を知った
スマイル
スマイル
思春期に 覚醒する人たちばかりで
その多くが 人智を超えた感覚に耐え切れず
精神を崩壊させてしまうらしい
スマイルは生まれつき この能力を宿していた為
これが日常であった
感情が昂ると 自然と能力も感度が高まって
昏倒することはよくあったが
皆スマイルは感情豊かで 興奮しすぎなだけだと気にしなかった
検査を受けて その結果を受け取った数日後――
押し入ってきた 黒装束の人間に
家族が惨殺された
あっと言う間だった
父がドアを開けたと同時に
鳴り響く銃声――
異常を察知した母が
スマイルと弟を 部屋へと押し込めたが
スマイルはその能力故 すべてを視ていた
倒れ伏す父
母も同様に 銃声と共に倒れ――
スマイルは弟の手を引いて クローゼットに隠れたが
相手にも パーシャル能力者がいた
スマイルが触れたことにより 弟も泣き叫び
隠れる間もなく 弟は――
スマイルと共に 黒装束に捕まった
スマイル
スマイル
スマイル
薄れゆく景色の中で
小さな弟が 捕まる光景を見た
目を覚ましたスマイルは
無機質な部屋に 閉じ込められていた
ベッドと小さな椅子と テーブルがあったが
他には何もなかった
ドアは二つあって
一つは鍵が かかっていて開かず
もう一つはトイレと洗面台と バスルームに続いていた
小さな窓がついていたが
スマイルの背丈ではその窓を 覗くことはできなかった
こわかった
両親を目の前で殺されて
自分も、弟も連れ去られて
ひとりぼっちで無機質な部屋に 閉じ込められて
スマイルはひとりで泣いた
感情を出すのは嫌いだった
すべての感覚が敏感になって 何もかもが痛くなるから
スマイルは泣いて 気絶して
起きては泣いて 気絶を繰り返した
スマイルの部屋に やってきた人間は
スマイルに 碌な説明をしなかった
理解できたのは――
スマイルにガイドを 宛がう事くらいだ
その日から―― 幾人ものガイドが
スマイルを訪ねてきた
そのほとんどと 相性が合わず
多くのガイドがスマイルのガイドは 困難の意を示した
その過程で出会ったのが シャークんだった
一日の大半を施錠された この部屋だけで過ごすスマイルの前に
哀れな贄が また一人やってきた
スマイルよりも 小さな背丈の少年は
背後に立つ大人に急かされて スマイルの部屋に入ってきた
部屋の隅で 縮こまっていたスマイルは
昏い視線で その少年を睨んだ
大人はさっさと いなくなったが
少年はドアの前で じっとしていて
スマイルの事をちらちらと 見ながら非常に怯えていた
目で見なくても何もかも わかってしまうスマイルは
少年からその目を隠すように 三角座りになって顔を隠した
顔を隠したことにより 少年は活動を始めた
スマイル
スマイル
スマイルは俯いたまま 手を差し出した
スマイル
スマイル
スマイル
スマイルは顔を上げた
少年は困った顔をしていた
この少年だって 組織の回し者かもしれない
スマイルはじっと 少年を見つめて観察した
全てを見通す目で 彼の体を確認する
少し傷はあるものの 比較的綺麗な肌をしていた
酷い暴行などは 受けていないらしい
彼はここに来る間に 抵抗などしなかったのだろうか
すう、と鼻で 匂いを感じ取る
彼から吐き出される 吐息から感じる食事の匂い
豪華なものではないが
三食食べている様子で 普通の食事といったところだろう
それはこれまでの ガイドと同じものだ
スマイル
初めてだという言葉に 嘘はないだろう
だがスマイルよりも 小さなこの少年も
組織から派遣された スマイルを懐柔するためのガイドだ
スマイル
スマイル
スマイル
今までのガイドのように 拒絶されればそれまでだ
これまでと何も変わらない
スマイルは興味も無さそうに 顔を背けた
弟は 殺されてしまったのだろうか――
連れ去られたと同時に 眠らされてしまって
目を覚ませば すでにこの部屋にいた
弟の動向はその後 何もわかっていない
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
少年はスマイルの手に触れた
すぐに手を振り払われても スマイルは動じなかった
こんなガイドは何人もいた
多くは取り繕って もう一度試したが
一度で諦めて 出ていく者もいた
少年は前者のようだった
スマイル
少年は今度はしっかりと スマイルの手を握った
ガイドはセンチネルと 感覚を共有する
センチネルが感じているものを ガイドも感じ取り
その感覚を制御できる
スマイル
スマイルには 透視能力があった
多くの視覚能力者は障害物を 超えてまで物を見ることができない
しかしスマイルは 見たいと思った場所を
ある程度の範囲なら 見ることができた
スマイル
連れ去られた弟が この組織にいるかもしれない――
そう思って
スマイルは毎日 弟の行方を捜していた
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
少年が指さした方向に 視線を向けた
スマイル
スマイルは少年を見た
スマイル
スマイル
少年は鼻血を流すと その場に倒れてしまった
スマイルは驚いて 倒れた少年を見つめる
少年は気絶していた
スマイル
スマイル
スマイル
スマイルの感覚を 共有された事で
脳の処理が追い付かず 昏倒してしまったのだろう
スマイル
スマイル
スマイル
スマイルは倒れた少年を 引きずって自分のベッドに寝かせた
スマイル
スマイル
少し疲れたスマイルは
少年が目覚めるまで 目を閉じてじっとしていた
少年は起き上がって スマイルを見た
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
シャークん
少年はベッドの上で胡坐をかくと にこっと笑った
スマイル
シャークん
シャークんははしゃぎながら ドアの向こうへと消えていった
スマイルはそれを見送って
視線を周囲に戻した
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
目頭が熱くなって スマイルは縮こまった
その時――
突き刺すような痛みが スマイルを襲った
スマイル
それは瞬く間に 全身に広がり
スマイルは目を見開いた
総てが視えた
スマイル
キィンと耳鳴りが響いて
ありとあらゆる音が 脳内に響いてくる
誰かの話し声、足音、鳥の囀り 食事の音、銃声、銃声、銃声
スマイル
硝煙の匂い、鉄の匂い 生ものの匂い、鉄の匂い、血の匂い
スマイル
空気の味、涙の味 喉の味、鉄の味
全ての感覚が スマイルを襲った
死んだと思った
シャークん
ぎゅっと抱き締められて
その感覚さえスマイルにとっては 痛みでしかなくて
スマイルは暴れた
スマイル
スマイル
シャークん
そこから先のことは よく覚えていない
ガイディングしようと スマイルの手を握ると
強烈な痛みが走って シャークんは思わずスマイルを離した
シャークん
シャークん
その痛みは尋常ではない
触れた手の感覚が びりびりとする
先程とは まったく違った感覚に
シャークんは困惑した
やってきた大人の 指示を受けて
シャークんは服を脱いだ
何故脱がなければいけないのかは わからなかった
スマイル
スマイル
叫び声だったスマイルの声は
いつの間にか うわ言のように呻く声になり
どんどん声が 小さくなっていく
シャークん
大人たちが スマイルの服を脱がせ
二人は上半身だけ 裸になった
シャークんはスマイルを 抱きしめるように指示を受けて
素直にそのまま スマイルに抱き着いた
シャークん
強烈な感覚にシャークんは思わず スマイルを突き飛ばした
スマイル
スマイルに抵抗する力はなく
そのまま壁に叩きつけられて ずるずるとその場に座り込んだ
シャークん
シャークんはスマイルを見る
スマイルの両目は あらぬ方向を向いており
ぼたぼたと涎を垂らしていた
途端にシャークんは スマイルが恐ろしくなった
シャークん
シャークん
助けてやると 意気込んだのも束の間――
シャークんはスマイルが 感じている感覚を
自分も感じることが怖かった
何もかもが肌を突き刺して
何もかもが脳を突き刺して
どこもかしこも 痛くて痛くてたまらない
共有した感覚が まだ自分の中に渦巻いていて
ズキンズキンと脈を打つ血液が 痛覚を刺激している感覚に陥る
しかし大人は シャークんの手を掴むと
その手をスマイルへと近付ける
シャークん
シャークん
シャークん
シャークん
暴れながら 泣きじゃくるシャークんは
大人の力に為す術もなく
スマイルに触れさせられた
シャークん
シャークん
チカチカと目の前が点滅する
強烈な感覚に シャークんは気絶し――
その度にスマイルの感覚を 共有され
痛みで目を覚まし――
時にはその感覚に 嘔吐しながら――
ガイディングを強制された
シャークんは何度も何度も スマイルのガイディングを拒絶した
シールドすらないシャークんにとって それは拷問と同じだった
その内このままでは埒が明かないと スマイルには麻酔が打たれ――
意識を失ったスマイルの感覚は 緩和されたが
それでも強すぎる感覚の中――
シャークんは歯を食い縛りながら
スマイルのガイディングを終えた
片や発狂寸前の子供――
片や廃人寸前の子供――
そんなガイドとセンチネルに
組織の人間は拍手を送った
シャークん
シャークん
シャークん
センチネルにとって大勢で 部屋に押し掛けることはご法度だ
物の量が多いほど情報量が増えて 脳への負担が増える
シャークん
シャークん
シャークん
シャークん
それでも――
やり遂げられた事が嬉しくて シャークんは微笑んだ
シャークん
シャークん
シャークんはこの組織で 可愛がられて育った最年少のガイドだ
両親も組織の人間らしいが
その誰もがシャークんにとっては 親のような存在だ
体を動かして勝負に勝つ事が 好きなシャークんに
戦い方を教えてくれた 組織のみんなが大好きだった
そんなみんなの役に立てるなら これ以上うれしいことはない
スマイルの話は よく他のガイドから聞いていた
組織のみんなのために――
このじゃじゃ馬センチネルを
シャークんは 乗りこなさなければならない
シャークんはこれからの スマイルとの付き合いが楽しみだった
目を覚ましたスマイルは まだ夢の中にいる心地だった
スマイル
声を出したはずなのに 何も聞こえない
何も見えないし 何を触っても何の感覚もない
匂いも何も感じないし
自分が立っているのか 横たわっているのかさえわからない
スマイル
シャークん
シャークんの声が 鮮明に聞こえて
急に視界が開けて すべての感覚が戻った
目の前でシャークんが スマイルの手を握り締めていた
シャークん
スマイル
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
スマイル
シャークんの聞き方に
スマイルはシャークんが 組織の人間から
何か聞き出すように 指示されたのだろうと思った
スマイル
スマイル
シャークん
シャークん
スマイル
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
スマイル
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
スマイル
スマイル
シャークん
目の前で家族を失った スマイルにとって
シャークんはあまりにも 純粋で眩しくて
羨望の存在だった
スマイル
スマイル
スマイル
何がいいとか そんな理由は考えなかった
ただ眩しいその笑顔が
そんな風に笑える事が
羨ましかった