褪せ色

街中で流れる曲に足を止めたのは 無意識だった。

感情がついてきたのはその少しあと。

これが止まっていた時間を動き出せた瞬間だった。

いつも通りの深夜。 いつも通りの首都高速を走る。 車内に響く重低音。

携帯を取りスムーズにひとつの曲へ指を動かす。 いつも通りのやりとりに いつも通りの曲。

お前のことは好きだ。

でもこの曲は嫌いだ。

この曲を聴いたお前は いつも決まって同じ顔をする。

別れを想像した 悲しくて切ない顔。

俺はお前の好きなこの曲が嫌いだ。

バタンッ

閉まったドアに切なさが滲む。

結衣がいた場所に悲しみが残る。

いつか来る瞬間だったんだ。

ずっと続くわけが無い。

今日から自由か。

嬉しくねえな。

築き上げるのは大変で。 崩し去るのは一瞬で。

ただ少し鈍くなってただけ。 ただ少し慣れてしまっていただけ。

昔は感じれていた感覚が 今はもうただの当たり前になってしまっただけ。

変わったのは俺。

いつも通りが幸せだった。

俺この曲嫌いなんだよなあ

別れた女のことを考えるなんて

女々しい

約束を破った日の夜 俺が寝た後に泣いてたお前

部屋で2人 俺はめんどくさいの一言なのに対して 1人で一生懸命俺に話すお前

笑顔で俺の名前を呼ぶお前

歌詞通りだよ。

新しい人と並ぶ君はちゃんと上手くやれているのかな。

切なさ、懐かしさとがゆっくりと頬をつたう。

咲いてた花が枯れてなくなるように

好きの気持ちも消えてなくなってしまえば楽なのに

時間が経てば色褪せてなくなると信じたものは

ドライフラワーのように

色褪せてもなお胸に留まる

そこら中に落ちてる思い出の欠片は

その色褪せたドライフラワーに色を付ける

君が好き。 そんな淡い色を。