主
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第91話『真夏の予感』
――遠くで、火が灯る音がした。
パチ……パチ……。
目を閉じているのに、まぶたの裏が赤く染まる。
らんは、ふっと息を呑んで目を開けた。
そこは、見覚えのない夜道だった。
風が重く、湿っている。
土の匂い、少し焦げたような香り――それが、幼い頃の夏を思い出させた。
らん
呟く声が夜気に溶ける。
街灯はなく、遠くの方でぼんやりと光が瞬いていた。
まるで誰かが松明を持って歩いているように。
足元には、線香花火の燃えかすのような火がひとつ落ちていた。
けれど、それは風に消えることなく、かすかに揺らめいている。
その火が、らんの歩を誘うように道の先へ進んでいった。
夢だ、と気づいたのは少し経ってからだった。
肌にまとわりつく湿気も、風の重さも、やけに“現実的”だったから。
火の後を追う。
歩くたびに、ざり、と砂利が鳴った。
どこかで蝉の声が、遠くから響いている。
――夏の音。
耳に馴染みすぎて、懐かしいのに、なぜか胸の奥がざわめいた。
しばらく歩くと、視界の先に古い鳥居が見えた。
その奥には、赤い灯がいくつも浮かんでいる。
焚かれた火が、ゆっくりと夜空を染めていた。
らん
ぽつりと呟いたその瞬間、風が強く吹いた。
火の粉が舞い上がり、夜空に散る。
その中に、一瞬だけ“人の形”のような影が見えた。
すぐに消えた。
目の錯覚だと、自分に言い聞かせる。
けれど心臓の鼓動が速くなるのを止められなかった。
?
呼ばれた。
振り返る。
誰もいない。
声は確かに聞こえた。
でも、誰の声なのかが思い出せない。
胸の奥が痛む。
何か大切なものを呼び戻そうとしているような感覚。
けれど、手を伸ばしても、その記憶は霧の向こうにある。
らん
もう一度呼びかけるが、返事はなかった。
風が通り抜ける音だけが、返ってくる。
火の灯りが、ゆらゆらと揺れながららんを照らした。
その影が、少し遅れて動いた。
ほんの一瞬――影が、“笑った”ように見えた。
目が覚めたのは、午前四時過ぎだった。
汗が滲んでいる。
喉が渇く。
夢の中の火の匂いが、まだ部屋の中に残っているような気がした。
ベランダの窓を開けると、夜明け前の空気が流れ込んだ。
遠くの空が、うっすらと橙色に染まり始めている。
朝ではなく、まだ夜の続きのような時間。
らん
そう言いながらも、胸の鼓動はなかなか落ち着かなかった。
夢の中で感じた“声”の余韻が、耳の奥に残っていたから。
らんは深く息を吸い、空を見上げた。
細い雲が、ゆっくりと形を変えていく。
ふと、ベランダの笹飾りが目に入った。
七夕から数日経ったそれは、もう色褪せ始めていたが、短冊のひとつが微かに揺れていた。
風は吹いていないのに。
らん
らんが近づくと、短冊の端が切れかけていた。
結び目の糸がほどけかけて、紙が少し傾いている。
手を伸ばそうとしたとき――指先が、かすかに“冷たい空気”に触れた。
それは、誰かがすぐそばで息をしたような温度だった。
みこと
みこと
すち
すち
なつ
なつ
なつ
なつ
すち
すち
こさめ
みこと
らんはスマホを机に置いて、深く息を吐いた。
夢のことを話しても、きっと誰も信じないだろう。
“迎え火の中に人影が見えた”なんて言ったら、なおさら。
だけど――。
胸の奥に残るあの声が、どうしても離れない。
あれは、確かに“知っている人”の声だった。
名前を思い出せないだけで。
らんは額に手を当てた。
頭の奥が少しだけ痛む。
記憶のどこかで、何かが微かに軋む音がした。
夜。
窓の外では、近所の人たちが迎え火の準備をしていた。
パチパチと焚かれる音が、遠くで響く。
その音を聞きながら、らんはまたベランダに出た。
空には星が少ない。
雲の切れ間から、ぼんやりと月が滲んでいる。
笹飾りの短冊が、風もないのに揺れていた。
昼間よりもはっきりと。
その紙の端が光を反射して、まるで何かを“示す”ように見えた。
らん
思わず呟いた。
もちろん返事はない。
でも、不思議と怖くはなかった。
それどころか、どこか“懐かしい”とさえ思ってしまう。
らんは手を伸ばした。
けれど、その瞬間、指先を通り抜けるように風が吹いた。
短冊がひらりと舞い上がり、夜空に消えていく。
まるで“誰か”が、触れられることを恐れたように。
らんは小さく息を呑んだ。
そして、静かに呟いた。
らん
夜風が笹を鳴らした。
それはまるで、遠くから誰かが返事をしたような音だった。
その夜、再び夢を見た。
火の道。
鳥居の向こうに、今度は“誰か”が立っていた。
光に包まれたその背中は、やけに懐かしい。
呼びかけようとした瞬間、風が吹き荒れた。
火の粉が舞い、夜が白く弾ける。
――その向こうで、“何か”が形になろうとしていた。
第91話・了
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𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡190
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コメント
1件
次の影が形になろうとしてるってことなのかな...??? 表現の仕方がうますぎて惚れちゃうッッッ💕✨️ 投稿ありがとうございます!!続き楽しみにしてます!!!