杏
カス!クズ!

杏
この裏切り者おおお!!!

桜吹雪の代わりにビーズクッションの中身が居間で舞っていた。
ヒステリーを起こした彼女が投げたハサミから身を守るため、盾にしたクッションが裂けたせいだ。
陽太
ちょ、ちょっと落ち着いて…

杏
どの口が言うんだこのバカ!

杏
穀潰し!ヒモ!

杏
股間と脳直結野郎があぁぁ!!!

ティーン憧れのトップモデルとはとても思えない罵詈雑言を鬼の形相で吐き続け、ポカポカと俺を殴る彼女。
…いや、前科何犯と知れない、
俺の浮気癖がこの喧嘩の原因なんだけど。
杏

杏
あー、もう愛想が尽きた

杏
私も節操無しのゴミ人間をずっと養うほどお人好しじゃないから

杏
荷物まとめて出て行け!

居間をビーズまみれにしただけでは怒りが治らなかったのか
今度は俺のゲームソフトやDVDを手裏剣の様に投げ付けてくる。
それらは壁に当たり、無残にもバリバリと割れて行く。
家と食い扶持と、杏のでかいおっぱいを失うのが惜しいのもある。
陽太
あ、あのね、聞いて!

杏
…あ゛?

空になった棚を蹴倒した足をそのままに、苛立ちを隠さない面立ちで応える。
杏
何?出て行く気になった?

陽太
…あのね、杏は俺にとって味噌汁…

それは壁に激突し、割と大きめな穴を開けて床に落ち、破片が散乱する。
杏
…あーあ、出ちゃったよ

杏
「ステーキと味噌汁」構文!!!

杏
あれでしょ?たまにステーキっていう浮気相手に会いたくなるけれど

杏
本命は落ち着ける味噌汁って奴!!!

杏
最後はお前のもとに帰ってくるからって…

杏
私を相当馬鹿にしてるって分かってる!!?

陽太
いや、違くて…

杏
じゃあ味噌汁がなんなの?

…こうなったらあの王道のプロポーズで誤魔化すか…?
杏

杏
ああ、アレか

杏
まさか私に毎朝味噌汁を作れっていうプロポーズでもするつもり?

杏
本当この状況をなんだと思ってんの!?

杏
しかもその発言、女を飯炊き要員って決めつけてるよね?

杏
私その言葉大っ嫌いなんだよ!

…でも万が一そう言っていたらまた怒らせてたみたいだしギリセーフか…?
陽太

陽太
…俺が

陽太
俺が毎朝味噌汁を作る!!

陽太
俺のために稼いでくれてるお前を労るためでもあるし

陽太
これからは朝帰りもしない、それを誓う為にも…

杏
…

化粧品の瓶を握り締め、頭の後ろまで振りかぶっていた杏が固まった。
杏
本気ね?

杏
やっぱ無し、とか許さないわよ?

瓶を握っていた右手を下ろし、真剣な目で俺を見つめる。
陽太
…ああ…

陽太
男に二言はない!

杏
…分かった

杏
ごめんね、私も怒りすぎたね

杏
じゃあ2人で片付けようか

陽太
お、おお!

陽太
ちりとりとホウキ持ってくる!
