暦は10月。

芸術の秋めく時期。 とある高校では、文化祭の準備が佳境を迎えていた_____

舞台の寝室の天蓋を鷲掴みし、大道具係を睨みつける。

言い訳をする使えない生徒にムカつき、ベッドに蹴りを入れる。

無能たちが冷たい目で私を見つめてくる。

…それぞれ好き勝手言いたいことを言って、私以外の全員が体育館から去って行った。

私以外誰もいないはずの体育館に声が響く。

舞台裏の暗がりから現れたカボチャの被り物をしたタキシードの男が、大道具を眺めながら独り言を呟く。

…言葉の端々に毒のある、嫌味な男だ。

…でも、彼はきっと…

どこから取り出したか、大きなカバンを漁る。

不気味に感じたが背に腹は変えられない。

恐る恐る手渡された針で、自分の人差し指を刺し…

ぽた、と流れる血を一つの人形に垂らしてみた。

こんな人形が幾つも手に入るのならば…

ブランド物の化粧品を買うお金を崩しても、普段疎ましく思っているパパに媚を売ってお小遣いを前借りしたっていい。

カボチャ頭は仰々しく一礼すると、霧の様に消えてしまった。

演劇部部室

ジャック・ランタンの人形を使い出して以来

これまでの膠着が嘘の様に作業が捗り出した。

準備は人形たちが全てやってくれているため、書類関連は私の仕事となる。

そもそも、たかが高校の文化祭で下りる予算など高が知れている。

その常識を遥か超える金額を平気で使うなど、正気の沙汰では無い。

しかし、完成しているため材料の返品もできない…

全く、こいつには相談するという知能すらも無いと言うのか。

予算のことを考えるだけでも頭が痛くなるというのに…

さらに問題を持ってくる人形に殺意が湧く。

…気の強いところまでコピーしなくてもいいのに。

たまにこうやって歯向かってくるんだから気分が悪い。

…そういえばジャック・ランタンが…

…と言っていたっけ…

今からでも返品してみんなに謝って手伝ってもらう…？

学園祭前夜

ずっと黙っていた小道具担当と、その他の人形の行動にとうとう堪忍袋の尾が切れた。

こいつらは有ろう事か私の家の台所で今からアップルパイを焼こうというのだ。

私の言うことには耳を貸さず、駒どもはお菓子作りを開始した。

言い合いながらも、何だかんだ馴染んで人の家の台所を好き放題いじくり回す駒どもを見ていると腹が立って

それに割って入り、下処理していたりんご、計量の終わった材料を取り上げて

全部まとめてゴミ箱にぶちまけてやった。

まな板に置いてあった包丁を掴み

一番近くにいた駒に突き刺した。

包丁を引き抜くと血の代わりにおが屑が飛び、キッチンを汚す。

それにも構わず、何度も人形に突き刺した。

包丁は無理な使い方をしたため刃こぼれしてしまった。

助けに入った二番目の駒の頭に、コンロにかかっていたフライパンを叩きつける。

2体は折り重なるように床に倒れこむ。

2つのガラクタを目の当たりにした人形の1人が逃げ出した。

呆然と座り込む残りの二体の頭を潰した後、最後の一体を追いかけることにした。

悠々と準備を終え私の部屋に行くと

案の定クローゼットに詰め込んでいた服がベッドの下に押し込まれていた。

手に持ったパパのゴルフクラブで殴りかかる。

息を飲む動作を誤魔化す余裕も無いようだ。

クローゼットの中の最後の駒は、震えるばかりで答えようとしない。

クローゼットの取っ手にゴルフクラブを嵌め込み、中から開けられないようにする。

そしてその上から…

ストーブのタンクに残っていた灯油をかけて行った。

2人の対応をしていたらゴミを処分する機会を奪われてしまう。

家が燃えることやパパやママが火傷する事よりも

今はこの駒を…

水たまりのように床にまで広がった灯油に火をつけた。

火は床を伝い、クローゼットを包み、少しずつ燃やしていく。

部屋に断末魔が響いた時…

勉強机にあった小さい頃貯めていた貯金箱をカボチャ頭に投げつける。

カボチャ頭が右手を挙げると…

部屋の火がまるで生きているかのように私に纏わり付いてきた。