真美
み、お、り、ちゃーん!
美織
真美、おはよ……
真美
なーなー、今日やんね? 東京から赴任してくる、わっかい課長さん! まだ? まだ来てないん?
美織
朝一番にその話? まだ来てないよ。課長さんどころか、私ら以外誰も来てへんやん。真美だって今日に限ってはよ来るなんてズルいわ
真美
そんなん言わんといてやー。えーやん、うちの会社の中で歴代最高の超高速出世のエリートで、若いイケメンやろ? 朝イチで見ときたいやん
美織
ウチは嫌やわ……年下上司なんてどう接したらいいのか、わからへん
真美
うそー、うらやましすぎやけどなぁ
美織
(真美はそう言うけど、東京育ちの若い男なんて、なに喋っていいかわからんわ…)
美織
真美、せっかくはよ来たんやから、今日ぐらい自分のデスクの掃除、しといたら? あんなにごちゃごちゃしてるデスク見られたら恥ずかしいやろ
真美
うわっ、美織ちゃん完璧なお局やな。こわっ
美織
うるさいな! 早よ行き!
美織
(もう、みんなアラサーの私に向かって怖いだの厳しいだの言いたい放題。私だって好きで独身やってるんちゃうわ)
美織
(いつか、たくましくて素敵……って思える人が現れたら、私だって結婚したいよ……)
美織
まぁ、東京に住んでいるような軟弱者は絶対に恋愛対象にはならんけどな
ガタッ!!
美織
んっ? 誰や?
美織
(扉の前に立っているのは、身長が高くて顔は女みたいに優しい顔をしているスーツ姿の男の子……)
美織
あの、誰ですか?
美織
(うわっ、声かけただけでビクッてした! なんでそんなにおびえてるん?!)
麻上
あの……もう怒ってませんか?
美織
はっ?!
麻上
あぁ! ごめんなさい! 大きな声を出さないで……!
美織
(なに、この軟弱な人……! 見てるだけでイライラしてくる!
美織
ここ、関係者以外立ち入り禁止ですよ?
麻上
あっ、あぁ、すみません。僕、今日からこの会社でお世話になります、麻上と申します。あの……課長として……
美織
えっ?! あんたが課長さん!!
麻上
はっ、はは、は、はい!!!!
美織
マジか……あかん、ハズレや。真美
麻上
えっ?
美織
いや、なんでもないです。私は営業事務の森高美織と申します。今日からよろしくお願いします
麻上
も、森高さんですね。あの、もう怒ってないですよね?
美織
どうして私が怒っているなんて言うんですか? 私、怒ってませんけど……
麻上
でも、さっき「早よ行き!」って怒鳴ってましたよね?
美織
あんなん怒鳴ったりうちに入りませんよ。そんなんでビビってたら、大阪で仕事できませんよ? 課長さん
麻上
そ、そうなんですね……
美織
(マジでヘタレやん、この人。大丈夫かな? 私が見張ってあげないと、すぐに辞めたいしまいそうやな)
美織
何かあれば、すぐに相談してくださいね。最初は怖いかもしれんけど、みんないい人やから
麻上
あ、ありがとうございます……美織さん、優しいんですね……!
美織
あ、あんたが頼りないからです!!
麻上
わぁ! すみません!!
美織
(はぁ……ホンマに大丈夫かな? この人)
一ヶ月後(給湯室)
麻上
森高さん、おはようございます
美織
あっ、おはようございます。課長さんもコーヒー飲みます?
麻上
わぁ、嬉しいな。いただきます!
美織
(最初は軟弱者と思っていた、この人のこの小動物っぽい仕草や笑顔も、可愛いって想いに最近変わってきたもんな……すごい変化やで)
麻上
今日もここから通天閣が綺麗に見えますね
美織
課長さん、好きですよね。通天閣。東京の人やから、スカイツリー派かと思ってました
麻上
僕はもう心は大阪の人間のつもりですよ〜
美織
あはは! じゃあ、関西弁喋って下さいよ
麻上
えっ? 関西弁? えーっと……な、なんでやねん?
美織
誰もボケてないし! 使い方、間違ってるし!
美織
エセ関西弁を使うと、大好きな通天閣におる幸運の神様のビリケンさんに怒られますよー?
麻上
それは困ります! 毎週休日にはビリケンさんにお願い事をしに行っているのに!
美織
はっ? 毎週行ってはるんですか?
麻上
えぇ
美織
毎週足の裏をスリスリしてはるんですか?
麻上
はい! 途中にあるコイン落としも楽しいですよ〜〜
美織
あんなん小学生でもしませんよ! なんの景品もないのにもったいない!!
麻上
はっ! そ、そうですね! す、すみません…!
美織
いえ、また怒鳴ってしまってすみません……でも、課長さんなんで毎週お願いをしに行ってるんですか? 何か悩み事でも?
麻上
僕も関西人になりたいのなら、関西弁に慣れなきゃいけないですよね。悩み事は……まぁ、はい
美織
私、よかったら聞きますよ? 一応人生の先輩ですし
麻上
いつもそうおっしゃいますけど、3歳しか変わらないですよ?
美織
充分先輩です! だから、なんでも行って下さいね! 相談にのりますので!
麻上
参ったな……今回ばかりはさすがに相談ができないというか……
美織
そうなんですか? 人には言えない恥ずかしい話とか?
麻上
ち、違います、違います! ちょっと美織さんには相談し辛いので……
美織
じゃあ、無理しなくていいですよー。私よりビリケンさんの方が頼りになりますもんね。足の裏をスリスリしてる課長さん、可愛いですねー
麻上
そうやっていつも年下扱いしますよね?
美織
あはは、だって課長さんやけど年下ですもん
麻上
……関西の女性は年下の男性は嫌いですか?
美織
そんなことないですよ、少なくとも私は嫌いじゃないです
麻上
森高さんがそう言ってくれるなら……毎週ビリケンさんにお願いしに行ったかいがありました
美織
えっ?
麻上
ふふっ、次からは僕はもっと頼りがいのある男に見てもらえるよう、頑張ってみます
美織
課長さん?
麻上
嫌われていないとわかったら、第一関門突破ですね
美織
なんですか? それ
麻上
美織さん、今度僕に大阪の街を案内して下さい。僕、もっと関西人になりたいんです。関西弁をマスターして、告白をしたい人がいるんです
美織
こ、告白?!
麻上
はい。そのためにはもっと美織さんに慣れなくては。こんな僕じゃいつまでたっても美織さんの隣を歩けませんから
美織
は、はぁ……? 好きな人がいるんやったら、私の隣なんか歩かない方がいいですよ。勘違いされます
麻上
いいんです。美織さんの隣を歩きたいんです。そしていつか告白をしたいんです
美織
はっ? はい?! えっ? 告白?!
麻上
えーっと、最初会った時は怖くて怯えてしまっていたんですけど、案外優しくて世話焼きなところに惚れちゃいました
麻上
付き合ってって関西弁でなんて言うんですかね? つきおって? ついあって?
美織
ぶはっ! なんでやねん!!
麻上
あっ、こういう時に使うんですね! 勉強になりました!
美織
(あかんわ、この人。ほっとかれへん!)
美織
もう、告白なんて全国共通です。普通でいいんですよ、普通で
麻上
そうなんですね! あー、よかった! じゃあ、僕が立派な関西人になったら、ちゃんと告白をさせて下さいね! それまで大阪の街の勉強をします!
美織
ふふっ、じゃあそれまでよろしくお願いします。告白、楽しみにしてますね!
麻上
はい! ご指導よろしくお願いします!