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☕️『ココアの味が違う』🌷
午後の売店の前。 ふらっと気分転換に来て、見かけた光景に、僕は思わず足を止めた。
えとさんが、誰かと並んで話している。 見た感じ、入院患者っぽい男の子。 同い年くらい、少し背が高くて、笑顔の柔らかい子だった。
その子が、えとさんにアイスココアを渡している。
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えとさんは、ふわっと笑って受け取った。
その笑顔。 僕があげた時より、ほんの少しうれしそうに見えた気がした。
胸の奥が、もやっとした。 この感覚、なんだろう。 知らないうちに、足が売店から遠ざかっていた。
夕方。えとさんの病室。
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それだけ言って、僕は隣の椅子に腰を下ろした。 なんてことない会話なのに、心の奥で、言葉が引っかかる
僕は知ってる。 えとさんが一番好きなアイスココアと銘柄。 カップに描かれているキャラ、ちょっとだけ違ってた。
それでも、あんなふうに笑うんだ。
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僕の声が少し低くなったのを、自分でもわかった。
えとさんがこちらをちらっと見た。 そして、ふと気づいたように笑った。
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そこまで言って、言葉が詰まった。
僕はーー えとさんが、誰かに笑ってるのを見るのがどうしようもなく、苦しくなるくらいに、
好きになってるんだってことに、 やっと、気づいた。
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えとさんはそう言って、さっきもらったココアの残りをそっと、僕の方へ差し出した。
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二人の笑い声が、静かな病室にふわっと溶けていった。 だけど、胸の奥の“独占したい気持ち”はたぶん、少しずつ、止まらなくなっていく。
🌙『僕の胸のうち』🌷
夜10時。 消灯の時間を過ぎた病棟は、いつものように静かだった。
モニターの電子音と、どこかの点滴が落ちる音だけが響いている。
僕はベッドに寝転びながら、 カーテンのすき間から見える月を眺めていた。
ひとつ深呼吸して、 スマホのメモ帳を開く。 そこには、 誰にも見せない“僕の一言日記”が書かれている。
「今日は、えとさんがちょっと不機嫌だった」 「僕があんなふうに思うなんて、予想外だった」 「ココアくらいで、心がぐらぐらするなんて」
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呟くように文字を打っては、そっとため息をつく。
僕は、からかいが得意だ。 誰かの表情を読むのも、場の空気を和ませるのも得意。
だから、誰にも心配なんてさせたくないし、 “なおきりさんはいつも通り”っておもわせたくて、 笑って、少しふざけて、軽い言葉ばかり選んできた。 けどーー
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声に出してみたら、思ったより震えていた。 あと一年しかないって、わかってるつもりだったのに。
“あの子”に出会ってから、時間が惜しくてたまらなくなった。 もっと話したい。もっと笑わせたい。もっと、そばにいたい。
でもーー その「もっと」を願うほどに、未来の終わりが近づいてくるのが、わかる。
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唇をかんで、枕に顔を埋めた。
えとさんが笑ってくれると嬉しくて、 えとさんが他の誰かと話していると胸が痛んで、 えとさんの目が少しでも曇ってたら、すぐに気づいてしまう。
これが「好き」なんだって、 こんなに苦しくなるまで気づかなかった。
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夜の病室は、何も答えてくれない。 それでも僕は、この気持ちを言葉にする日が来るまで、 ずっと、笑ったままでいようと思った。
えとさんが笑っていられるように。 最後まで、そばにいられるように。
僕は画面を閉じて、小さく声に出す。
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誰にも届かないその声が、夜の静けさにそっと溶けていった。
🌿『誰にも言えないこと』🌷
朝の体温のあと。 いつもの白衣じゃなく、カーディガンを羽織った 看護師の三宅さんが、ぼくの病室に入ってきた。
三宅
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三宅
三宅さんは20代前半くらいで、患者との距離感がちょうどいい人だ。 僕が入院してから、一番長く接している看護師さんでもある。
その安心感からか、僕はつい、ぽつりと漏らしていた。
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三宅
三宅さんがペンライトを止めて、僕の顔を真っ直ぐみた。
三宅
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言葉にするだけで、喉がぎゅっと詰まる気がした。
三宅
三宅さんの声が、いつもよりやわらかくなった。
三宅
僕は驚いて顔を上げた
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三宅
僕は、照れくさくて苦しくて、何ともいえない顔になった。
三宅
三宅
三宅さんは、僕の枕元に腰を下ろして続けた。
三宅
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僕は正直にそう言った。
三宅
三宅
三宅
僕は黙ってうつむいた
伝えたい。でも、傷つけたくない。 自分の心が、自分の中で喧嘩しているみたいだった。
三宅さんは最後に、そっと僕の頭を撫でてくれた。
三宅
三宅
三宅さんが部屋を出たあと、僕はゆっくりとベッドに背をあずけた。 えとさんの笑顔が、まぶたの裏に浮かぶ。
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その言葉を、今日は心の中だけでつぶやいてみた。 いつかちゃんと、伝えられる日がくるだろうか。
その時、僕はどんな顔で、どんな声で言えるだろうーー
☀️『青が似合う日』🌷
今日の外出は、月に一度の「快復患者レクリエーション」。 僕とえとさんを含めた、同い年くらいの患者数名と、引率の看護師さんたち。 本当に短い時間だけど、外の風と光を肌で感じられる、特別な日
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えとさんがくすっと笑う。 その笑顔にーーほんのちょっと前まで、ちゃんと声を出して笑える日がまた来るなんて思ってなかった。 だから、こんな瞬間がすごく嬉しくて。……それにしてもえとさん。
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思わず、心の中でつぶやいた。 ふだんは病衣やパジャマ姿がほとんどなのに、今日は淡いオレンジのワンピース水着。 上に軽いパーカーを羽織ってるけど、肩のラインとか、細い首筋とかーー
どきっとして、つい目が離せなくなってた。
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えとさんは、はにかんだように笑って、「えへへ、うれしい」と小さな声で言った。
風が少し吹いて、彼女の髪が揺れる。その姿が、まるで、 光に透ける水のようで、思わず僕は胸の奥がぎゅっとなるのを感じた。
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えとさんが、水に足をつけたまま僕の方をみて、にこっと笑う。
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指さす先には、病院が借りたプールの一番奥にある、小さめのウォータースライダー。 とはいえ、えとさんの体には負担かかるし……と思っていたら、
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って、えとさんが先回りして言ってくる。
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手をつないで、ふたりで階段をのぼる。 えとさんは息を切らしながらも、嬉しそうに笑っている。
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頂上に近づいたとき、えとさんが小さな声でつぶやいた。
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そう言って、手をぎゅっと握り直す。
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冗談めかして笑うと、えとさんも「ふふっ」って笑ってくれた。 いよいよ、ふたり並んで滑る番ーー
「せーのっ!」
シュルルルルッと、水しぶきと風と太陽のなかを、ふたりの声が混ざって落ちていく。 ーーどぼんっ!
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顔を見合わせて、大笑いする。 いつもとは違う鼓動、それがただ病気のせいじゃなくて、 心からの“楽しい”って気持ちのせいだって思えた。
えとさんは水の中で僕の手をぎゅっと握って、
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僕はそう言って、心の奥で祈った。 この時間が、どうかずっと続きますようにって
🍦『なおきりさんの舌、すこし冷たかった』🍫
午後の陽ざしがまぶしくて、プールで遊んだあとの 肌がちょっとだけ熱をもってる気がした。
着替えたあと、ふたりで買ったアイスを持って、日陰のベンチに腰を下ろす。
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そんなふうに、ちょっとした会話をするだけで、今日が特別な日みたいに思えた。 …でも、そのあと。
コーンのふちからアイスがとろっと溶けて、あわてて指でぬぐった瞬間ーー
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って、なおきりさんが、私の手をとって、 指先をーーぺろっと舐めた。
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何が起こったかわからなくて、心臓がドクンと跳ねた。 ぬるい風の中、舌の感触だけが妙にリアルで、 体が一瞬で熱くなって、手の先がじんわり痺れた
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やっと声が出たのに、なおきりさんはすごく真剣な顔で、
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ってーーまるで、大したことじゃないみたいに言うんだもん。 ……でも。ダメだよそんなの。だって、指、舐められたんだよ!?
しかも、ちゃんと冷たくて、優しい舌の感触で…… なにこれ、キスとかじゃないのに、キスみたいじゃん……。
頭の中でぐるぐるしすぎて、気づいたら、 「ちょっとドキッとした」って口に出してた。
言ったあと、すぐに後悔して、 顔がカーッと熱くなって、なおきりさんの顔なんてまともに見られなかったけどーー
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私はアイスをかじりながら、胸の奥の、ひんやりと甘いこの感情を そっと隠すように、そっと味わっていた。