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神代類
ぱくり、と口に含んだラムネ菓子を噛み砕き、僅かに添えた疑問符と共に僕は目を瞬かせた。
劇団・ワンダーランズ✕ショウタイム。 フェニックスワンダーランドに位置するワンダーステージを拠点として活動する僕達は、今日も今日とて練習に励んでいた。
いかにも初夏らしく澄みわたる空。花の香りがほのかに染み込んでいる爽やかな薫風。 それに揺さぶられるようにさざめく木々は、薄緑の葉が光を透かし、影を落としていた。
演出装置の点検表を捲る手を止め、先程まで後ろで華麗にアクロバットを披露していた彼女を振り返る。
鳳えむ
中身が半分以上残ったラムネ菓子を隣に置いて、僕は立ち上がった。 えむくんに差し出されたリーフレットを受け取り、上から目を通す。 フェニックスワンダーランドで毎年七月から八月に行われるコンテスト。 ランド内に散在する大小さまざまなショーステージと、 そこに所属する劇団員たちが、 この機会に実力を競い合うのだ。 もともとは単なる集客イベントだったようだが、 最近は提携先のライリー・エンターテインメントと共催するようになり、 規模も資金も年々かなりのものになってきている。 その年ごとに審査方法は異なるが、 今年は昨年と同じく、すべての審査を一日に集計する形式のようだ。 参加は各ユニットの座長に委ねられ、強制されているわけでもない。 それでも、約九割のユニットのエントリーが毎年確定している。 もちろん、 それは我が劇団も例外ではない。 座長に尋ねれば、 二つ返事で承諾が返ってくるだろう。 季節からして夏モチーフが多くなるのは必然だが、今年の題材は――。
神代類
鳳えむ
神代類
神代類
鳳えむ
神代類
用紙の文字を指でなぞっていると、 ある一文に動きが止まった。 ほんの一瞬だけ、目を見開く。
神代類
鳳えむ
僕の言葉に、 えむくんはこれでもかというほどキラキラと瞳を輝かせて、 期待の表情でこちらを見上げた。 まったく、 相変わらず表情が豊かなものだ。 僕は思わずくすりと笑みをこぼす。
神代類
神代類
審査日は晩夏から一週間後。 ワンダーランズ×ショウタイムとして三つの劇団を巡る修行は先月終わった。 次の予定している秋期公演は九月下旬であるため、しばらくはスケジュールに余裕もある。
鳳えむ
神代類
本来なら座長である司くんにまず打診するべきなのだろうが、 彼がこういう提案に首を縦に振らないとは思えない。
午前に別々の用事がある司くんと寧々は、不在。 僕達の独断で決めてはいけないとは分かっているが、彼らはショーに命を燃やしている人達だ。 そういう意味では、僕もえむくんも似たようなものだけれど。
鳳えむ
神代類
鳳えむ
えむくんは本当に嬉しそうだ。 少し紅潮した頬と、跳ねるような声。 きっと、彼女が喜んでいる理由は、 僕の幼馴染が関係しているのだろう。 それを見ているだけで、 こちらの気分も少し浮き立つ。
神代類
鳳えむ
鳳えむ
鳳えむ
鳳えむ
神代類
ふと、思い出す。 以前の夏、アメリカのショーで見た 子どもたちの笑顔を。 迷いも偏見もない、 あのまっすぐな輝きを。
あれを見た瞬間、 僕は心の底から感じたのだ。 ああ、僕達のしてきたことは なにも間違えていなかった、と。
神代類
鳳えむ
手を振って走り去っていく えむくんの後ろ姿を見送った後。 僕はそっと手を下ろし、 小さく息を吐いた。
神代類