楠紫織
僕は昔から、人の感情をあんまり理解できなくてね。

涼川薫
…。

楠紫織
だから、念話術を使って人の心の中盗み聞きしてた。

涼川薫
最低ですね。

楠紫織
我ながら本当に最低だと思うよ。それでね、アキちゃんの心の中にはもう何十回と入ったことがある。

涼川薫
なんでそんなことしたんですか?暁斗さんは幼馴染で親友なんじゃないんですか!!

楠紫織
だからこそだよ。

涼川薫
だからこそって…意味がわからないんですけど。

楠紫織
親友には嘘ついて欲しくないし、ずっと一緒に居たいから…軽い気持ちでアキちゃんの心の中に入った。

シオちゃんさんは入られたことがないからこんな軽々とそんなことが言えるのか?
涼川薫
念話術でシオちゃんさんに入られた時、僕最初ものすごく怖かったです。それを、暁斗さんに、そんな理由で…

楠紫織
…突然だけど、カオルンは好きな人いる?

涼川薫
本当に急ですね、定義はなんですか?

楠紫織
定義…恋愛面で好きない人っていうのは?

涼川薫
それならいませんね。

楠紫織
そっか…。
僕には、僕を恋愛面として好きでいてくれる子が1人いる。

涼川薫
それは、いいことですね!

楠紫織
勿論、僕もそう思う。
でもね、これは簡単な話じゃないんだ…

涼川薫
どういうことです?

楠紫織
僕を好きでいてくれてるのは、アキちゃんだから。

涼川薫
へ、…?

楠紫織
そうだよね、びっくりするよね。

涼川薫
はい、驚きです…でも確かにそれなら、暁斗さんの行動、発言に辻褄が合います。

楠紫織
そうでしょ?

涼川薫
あの、ハッピーになれますよね?だって、ただちょっと親しくて、同性なだけなんですから。それで断る意味がわからないです。

楠紫織
カオルンは簡単に言ってくれるね。でもその場合、アキちゃんに全てを話さないといけない…だって、じゃあどうしてアキちゃんが僕を好きな理由がわかったのって話になるから。

いくら優しい暁斗さんでもこんな話聞いたら怖くて恥ずかしくて、逃げ出しちゃうかもしれないですね。
涼川薫
シオちゃんさんは勿論暁斗さんのことを好き、ですよね?

楠紫織
…アキちゃんを恋愛面としてでは好きではないよ。

涼川薫
いや、です。そんなのって、あんまりじゃないですか!酷すぎますよ、人の心覗いておいて自分は好きじゃないって…!知りたくて、好きだから何十回も暁斗さんの心の中に入ったんじゃないんですか?

楠紫織
僕はアキちゃんに諦めて欲しかったんだ。

っ…嫌です。こんな結末になるなら聞かなきゃ良かったです。最後はハッピーエンドじゃないなんて、そんなの暁斗さんが救われないじゃないですか。
涼川薫
…

楠紫織
嫌いになるよね、こんなの。

涼川薫
…なりません。

楠紫織
?

涼川薫
すみません、感情的になりすぎました。誰にもこれからのことはわかりませんから、今悩んでいたって解決方法は見当たらないのは確かです。つまり、とりあえず暁斗さん本人に明日全部話さないと何も変わらないし分からないと思うんです。

僕は聞き役、案は出すけど僕が感情的になってしまったら、収集がつかなくなってしまいます。
楠紫織
カオルン、ありがとう
明日アキちゃんのところに行って話してくる、今までのこと全部。

涼川薫
不満があったなら言ってください!

楠紫織
っ!?ないよ、違うの。ただちょっと、…ごめん、言い方が分からない。

涼川薫
言ってください!上手くなくていいので、僕失敗するのはもう嫌なんです!

楠紫織
…失敗?
