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窓から陽の光が差し込む。 今日も君は僕の腕の中ですやすやと 幸せそうに眠っている。 昨日起きたことが嘘みたいだ。
君が目を覚ますまでの間と、 君が夜眠りについてから朝までの間は、 僕は依頼を受けた劇団の脚本を執筆する。
少しでも君といる時間を 大切にしたいからだ。 いつからかそんな日々が日常となっていた。
今日も仕事がひと段落ついた タイミングでマグカップに インスタントコーヒーを注ぎ 一服していると、 君は目を覚まして 僕の方へと近寄ってきた。
君
手を目に擦りつけながら、 君が口を開く。 まだ眠そうだ。
僕
君
僕
君
僕
そうやって言いながら、 僕は君になにもしてあげられない 非力さに憤りを感じた。
君
本当に優しいのは君の方だ。 今までも、そしてきっとこれからも、 君は僕に文句ひとつ言わずに 寄り添ってくれるんだろう。
僕
君
君
僕
僕
冷えきったやかんに 火をかけて温めなおして、 君専用のマグカップに インスタントコーヒーを注ぐ。
砂糖は大さじ3杯。 ミルクとコーヒーは1:1の割合で。 君だけのスペシャルブレンドの完成だ。
僕
君
そう言ってマグカップに口をつける。
君
熱々のコーヒーが入ったマグカップを 手で包み込みながら、 少しずつ飲んでいる姿を見て、 今日も君が生きていてくれていることを 実感する。
そこから暫く会話はなかった。
黙々と、 時折見つめ合いながら コーヒーを飲む。
テーブルの隅に飾っている マリーゴールドと並ぶ君の姿には、 何度見ても見惚れてしまう。
僕
君
君
僕
君
君は僕とデートをする日以外、 お昼から夕方まで外に出かける。
信頼しているから なんでも話せるなんてよく言うが、 僕はそうは思わない。
心から信頼し合っているからこそ、 何も話さなくていいのだ―――。
急遽、劇団から昨日話した内容の 修正がしたいと言われた僕は、 また打合せに出かけていた。
思いのほか修正箇所が多く、 打合せが終わった頃には すっかり夜も更けてしまっていた。
君は家に帰っているだろうか。 また症状が出ていないだろうか。 と君のことを気にかけながら、 急いで家に帰る。
僕
返事がない。
まさか、まだ帰っていないのか…? そう思った瞬間、 部屋の隅から君の啜り泣く声が聞こえる。
僕
大丈夫?と聞くことは嫌いだ。 大丈夫かと聞かれると、 人は決まって強がってしまう。
本当に大丈夫な人は 一人で泣いたりしない。 何か不安なことがあったり、 辛いことがあることは明らかだ。
そんな感情を少しでも 和らげてあげられるように、 優しく声をかけるようにしている。
僕
僕
君からの返事はない。 相変わらず部屋には 啜り泣く声が聞こえる。
よほど辛いんだろう。
僕には、 君の背中を優しくさすってあげる ことくらいしかできない。
それから暫くして、君が重たい口を開く。
君
君
彼女の口から溢れたのは、 衝撃的な言葉だった。
今の今まで、 そんな前兆は一ミリたりとも 見えたことがなかった。
むしろ、 毎日明るく笑顔を振りまいてくれる 天真爛漫な姿しか見えていなかった。
僕の側では 無理をさせていたのかもしれない。 きっと一人になると 不安になってしまうんだろう。
僕
あまりの衝撃にまた言葉が空回る。
僕
君
僕
僕
僕
僕
君
君
君
僕
僕
僕
君
僕
君
僕
僕
君
僕
君
僕
君
僕
僕
僕
君
君
君の顔に表情が戻る。 負の感情から抜け出せたようだ。
僕
そう言って、 僕らはつらつらと やりたいことを綴っていく。
今までやったことがないことや、 もう一度やりたいこと。 思いついたことは全部紙に書き殴る。
気づけば、 僕らのやりたいことは 千の数をゆうに超えるほどに 膨れ上がっていた。
まあ、カツ丼を食べたいだとか、 白子を食べてみたいだとか、 くだらないことも含めての数ではあるが。
君
ひと通り書き終えたあと、 君が僕の顔を見て話し出す。
僕
君
僕
君
君は一息ついて暫く間を空けたあと、 そのまま言葉を続ける。
君
僕
君
僕
僕
君
そう言って、 君と僕は小さな約束を交わした―――。
やりたいことがたくさん 書かれた紙をまとめて、 僕らはひとつのノートを作った。
その数は、数十ページでは 収まりきらないほどに分厚いものだった。
君
君が吐息混じりの声でそっと囁く。
僕
君
僕
僕
君
僕
君
僕
僕
そう言って、 僕は劇団の脚本を執筆する 仕事をしていることを君に打ち明けた。 今まで書いた脚本のストーリーなんかも 話している内に、楽しくなって 話しすぎてしまった僕は、 なんだか申し訳ない気持ちになった。
君は僕の書いた脚本を読みながら、 ずっと黙り込んでいる。 こんなに話してしまって 自慢臭くなってしまっていないだろうかと、 ふと不安になり君に問いかける。
僕
君
君は目を輝かせながら、 僕の瞳を見つめてそう言ってくれた。 僕は君に褒められたことが嬉しくて、 今にも叫び出したい気分になったが、 ぐっとその気持ちを堪えた。
僕
君
不思議そうな目をしながら 僕に問いかける。
僕
僕
君
君
それからまた君は 僕の書いた脚本の続きを読み出す。
スッと息を整えた後、 僕は君に打ち明けた。
僕
君
僕
僕
情けない自分に思わず拳を握る。 震えている僕の拳を見て、 君はそっと優しく包み込んでくれた。
君
いつまで経っても 売れない劇団の脚本を 書き続けていた僕は、 いつしか自分に自信を 失ってしまっていた。
そんな僕を認めてくれた君の言葉は、 僕が少なからず抱いていたモヤモヤを 一瞬にして吹き飛ばしてくれたんだーーー。