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星明

こうして、織姫と彦星は1年に1度だけ、会えるようになりました

星明(あかり)ちゃんは本当に、七夕物語が好きだな

星明

うん!だって、お星様綺麗だしロマンチックだもん!

星明

でも…2人が離れ離れになっちゃうのは寂しいかな

星明

1年に1度しか会えないなんて、やだ!

星明

私だったら、ずっと一緒がいいよ!

でも、天の川があるから2人はまた会えるんだよ

明日、七夕だろ?

また一緒に見ようよ!

星明

うん!今年も一緒に見よう!

星明

2人が会えるように、祈らなきゃ!

その日、家に帰った俺を待っていたのは、鬼の形相をした両親だった…

昴の母

昴、最近遊びすぎよ

昴の母

あなたはお受験を受けるのよ?

昴の父

最近、近所の子と遊んでいるようだな

昴の父

だが、それももうできなくなるぞ

昴の父

受験のためにも、東京の塾に通ってもらうことにしたからな

(そんな…!星明ちゃんとお別れ…!?)

翌日

…っ!星明ちゃん!

星明

昴くん、どうしたの?

星明

息切らせて…急いできたの?

星明

あはは、まだ夜じゃないのに変なの!

星明ちゃん、ごめんね

俺…お引越し、することになったんだ

星明

えっ…!?お引越し…!?

星明

どうして!?いつ!?

それが…今日なんだ

俺、受験勉強しないといけないのに

星明ちゃんと遊んでばっかりって、親に怒られちゃって

星明

織姫と彦星みたいに、引き離されちゃうの…?

星明

やだ!やだよ!

俺だって、やだよ…

ずっと、一緒に遊びたい!

(でも、星明ちゃんには笑って欲しい)

(笑わせる方法はなにか…)

(織姫と彦星…そうだ!)

織姫と彦星だって、また会えただろ?

だから、絶対にまた会える!

俺、戻ってくるから…

その時はさ、また一緒に天の川見よう

星明

そっか…そうだね、わかった

星明

ずっとずっと待ってるから…これ!

これは…?

星明が鞄の中から取り出したのは、天の川のようにキラキラと輝くキーホルダーだった

星明

あげる!約束のしるし!

ありがとう…!

親が厳しくて、なかなか連絡取れないだろうけど…

こっそり手紙とか出すよ!

だから、またこの丘で…約束!

星明

うん…!約束!また会おう!

ガタン、ゴトン…

電車が揺られながら、俺は欠伸とともに目を覚ました

ん…

懐かしい夢だったな…

星明、元気かな

(親に許しを貰うのは大変だったけど…)

(やっと、戻ってこれたんだ…)

鞄の中から、今まで届いた星明からの手紙を取り出す

星明

久しぶり!私は今、星について調べてるよ!
受験頑張って!早く戻ってきてね

星明

あけましておめでとう!もうすぐ受験だね!
応援してるから…終わったら早く帰ってきてね

星明

昴くんとまた会えるの、すごく楽しみ!早く会いたい!

去年から、返事は来ていない

星明も忙しいのだろうか

(ちょっと遅くなっちゃったからな…)

(ちゃんと待っててくれてるのかな)

車掌

次は、……駅〜、次は〜

もう次か…懐かしいな

車窓からは、懐かしい景色が見えていた

俺…ちゃんと約束、果たしに来たよ

ええと…こっちの道だったっけな

ここ…前は畑だったのに、家が建ってる

意外と、変わっちゃうものなんだな…

(俺達の思い出も、気持ちも…こうして変わってしまうものなのかな)

…星明の家は、この辺だったよな

そうだ、ここだ

しかし、表札には見知らぬ名前が刻まれていた

星明の苗字は、琴吹だったはずだ

ここで合ってる…よな?

ピンポーン

家の人

…はい、どちらさまでしょうか?

あの、俺、星明ちゃんの友達で…

鷲尾っていいます。星明ちゃんは…

家の人

あの、うちに娘はいませんけど…

…え?いないって、ここは…

家の人

ごめんなさいね。人違いだと思うわ

(もしかして、引っ越したのか…?)

そんな…ずっと待ってるって言ってたのに

でも、それも当然かもしれない

戻ってくるのが、遅すぎたんだ

(もしかしたら、星明はもう、この町には…)

…いや、まだだ

俺が信じなくてどうするんだ…!

待ってるって、ずっと待ってるって言ってたんだ

星明は、約束を破るような奴じゃない

手の中のキーホルダーを強く握りしめると、ある場所が脳裏を過った

そうか…あの場所だ。約束の場所は…

俺は、思い浮かんだ場所へと歩き出す

約束の、丘へと

この場所は…少しも変わってない

変わらないでいてくれたんだな

…ん?あれは…

腰まで伸びた栗色の髪

日差しを跳ね返すような、純白のワンピース

…美少女だった

こんな子、この町にいただろうか

美少女は、俺に気づいたのか、こちらを振り返る

……!

その少女の髪飾りには、見覚えがあった

お前…星明なのか?

星明

遅いよ…昴くん

少し控えめになった、懐かしい声

いた。星明は約束どおり、ここにいた

待っててくれたんだ

ずっと俺を、待ち続けてくれたんだ

星明…本当に、星明なんだな?

星明

うん…おかえり、昴くん

星明、ただいま…

待たせて、ごめん…

星明

本当に遅すぎだよ。昴くん

星明

でも、約束…守ってくれたんだね

ああ…俺、勉強も頑張ったし、説得も頑張ったよ…

なあ、俺がいなかった間のこの町のこと、教えてくれよ

たくさん、たくさん話してくれよ

星明

うん、いいよ

星明

色々変わっててびっくりしたでしょ

星明の家も違う人が住んでて、驚いたんだぞ

もうこの町にはいないんじゃないかと思って…

星明

そっか…そうだよね

星明

驚かせてごめんね

でも、待っててくれて良かった

手紙も返ってこなかったから、もう待ってないんじゃないかって…

星明

そんなわけないよ

星明

きっと帰ってくるって信じてたから

約束、だもんな

この丘も、あの時のままで安心したよ

星明

町の人は入れ替わってるけど、ここはずっとこのままなの

星明

ここで星を見る人が多いらしくて…

星明

私たちみたいだね

それから、俺がいなかった6年間のことを

変わってしまった故郷のことを、たくさん聞いた

それは、長いようで短い時間だった

一通り聞き終わったのは、日が落ちる頃だった

星明、本当に寂しい思いさせてごめん

星明

いいの。帰ってきてくれただけで…

星明

七夕の日に、また会えただけで嬉しいから

これからは、もっとたくさん会いに来るよ

頑張って勉強して、親に許しももらうから!

星明

うん…ありがとう

楽しみだな。これからはもっと会えるなんて

今度は待たせたりなんてしないからさ!

星明

うん…うん、ありがとう

星明

そうだね…嬉しい、な

星明、今夜久しぶりに、一緒に天の川──

星明

暗くなってきちゃったね

星明

帰らなくていいの?怒られちゃわない?

もうこんな時間か…

今日はばあちゃんちに泊めてもらうよ

じゃあ、また来るから!

星明

うん、また…

ばあちゃんも、ずっと会いに来れなくてごめんな

星明も待たせちゃったし…

祖母

いいんだよ、大変だったでしょう

祖母

祖母

星明ちゃん…?

祖母

ああ、あの子は昴と仲良かったねぇ

星明の家、違う人が住んでてびっくりしたよ

祖母

…昴、そのことも含めて話があるんだよ

祖母

星明ちゃんは…星明ちゃんはね

祖母

…1年前に、亡くなったんだよ

…は…?

祖母

これをね、星明ちゃんから預かっていたんだ

祖母

出せなかった手紙だって

ばあちゃんは、戸棚から大量の手紙を取り出してきた

それ…どういうことだよ、死んだって…

じゃあ、さっきのは…?

信じられない

だって、さっきまで話していたじゃないか

そんな話、受け入れられるわけがない

祖母

昴っ!

確かめなければ。あの場所に行かなければ

手紙を奪い取るようにして、俺の足は走り出していた

はぁ…っ、はぁ…!

(そんな…確かにあの場所に、星明はいたんだ)

(俺のことを、待っててくれたんだ)

(嘘でも、幻でもない)

(あれは確かに、星明だったんだ…!)

会って確かめればいい

きっと、あれはばあちゃんの悪い冗談だ

手に力を込めれば、握りしめた手紙がくしゃりと潰れた

はぁ、はぁ…星明…!

(…ほら、嘘じゃないか)

(星明はちゃんと、ここにいる)

星明っ!

星明

…昴くん?

星明

こんな時間にどうしたの?

星明

そんなに急いで…忘れ物?

星明、俺、ばあちゃんから変な冗談聞いてさ…

星明が死んだって、わかりやすい嘘だよな全く…

嘘つくんなら、もうちょっとマシな──

(…あれ、でもどうして星明はこんな時間にここにいるんだ…?)

星明

…嘘じゃないよ

星明まで変な冗談、やめてくれよ…

そんな真剣な顔で言っても、俺は騙されな─

星明

…………

…本当、なのか?

星明

それ…嘘じゃないよ

星明

おばあちゃんが言ったことは、本当

星明

私は…

(やめろ、やめてくれ)

(その先は、言わないでくれ…!)

星明

もうこの世にはいないの

星明

…ごめんね、昴くん

なあ、嘘だよな

嘘だって言ってくれよ…そんな嘘、信じないぞ…

星明

中学に入った頃かな。その頃から、身体がおかしくなって…入院してたの

星明

本当は、生まれた頃から病院を持ってたんだって

星明

それが今になって発症したみたいで…

星明

お医者さんには、余命は1年だって言われた

星明

でも、約束があったから…

星明

昴くんが帰ってくるまで、待たなきゃ

星明

約束は守らなきゃ…だから、頑張ったんだ

星明

そしたらね、1年が過ぎても平気だったの

星明

もしかしたら、約束を果たせるかもしれないって思った

だから…あんなに早く帰ってきてって書いてあったのか

星明

ごめんね、約束だし、ずっと待っていたかったんだけど…

星明

約束、守れなかったよ…

星明の声が、震えている

そんなことない!

星明は、ちゃんと約束を守ってくれたんだ

だからこうして、この日にまた会えたんじゃないか…!

天の川だって、見れたんじゃないか…!

星明

ちょっとは期待したんだよ…大丈夫なんじゃないかって

星明

でも、去年…容態が急に変わって…

もういい。いいよ、話さなくて

ごめん…俺がもっと早く、戻ってきていたら…

星明

私だって、待っていたかった…!

星明

待ってられたら…

ごめん、本当にごめん…

俺のせいだ…

星明

違うよ、君はちゃんと帰ってきてくれた

星明

私たち、織姫と彦星みたいに、また会えたんだよ

星明だって、頑張ってくれたじゃないか…

頑張って、待っててくれただろ?

俺がいない間に、星明はひとりで戦っていたんだ

ひとりで、俺を待とうと、約束を果たそうと必死に…

なあ…俺、ずっとここにいるよ

毎日、ここに来るから、だから…

星明は、ゆるゆると首を振った

星明

それはダメ

星明

私は、約束を果たすためにいるんだから

星明

夜が明けるまでしか、一緒にいられないの

星明

だから、君は帰らなきゃダメ

こんなの、残酷すぎる

せっかく、これからを楽しみにしていたのに

そんな…俺は、どうすれば…

星明

約束だから…ほら、一緒に天の川見よう?

星明

今日は、特別綺麗に見えるよ

天の川なんて、見たくなかった

見たら、星明が消えてしまう、もう、会えなくなってしまう

それでも、星明は空を見上げた

俺も、涙がこぼれ落ちないように、空を仰いだ

できることなら、星明を取り戻したい

でも、そんなことはできないのは分かっていた

(俺に何ができるんだろう…)

(全てを投げ出して、立ち止まってしまいたい)

(もう会えないくらいなら、星明についていきたい)

(でも、星明はそれを許してはくれないだろうな)

星明

…見て、朝日がのぼってきたよ

星明

今年も、織姫と彦星は会えたかな

きっと、会えたよ

だって、あんなに綺麗だったんだ

星明の身体は、透けて見えた。 もう、あまり時間がないのだろう

星明

…私、昴くんに、会えてよかった

星明

もう、思い残すことなんて…

これ以上、俺に出来ることなんて…

ふと、ある考えが浮かんだ

じゃあ、また来年会おう

約束…してくれるよな?

星明

無理だよ…私はもう…

約束があったから、星明はここにいられたんだろ?

なら、次の約束があれば…きっと!

星明

そうだね…もしも、君が1年間振り向かずに前向きに進めたら…

星明

きっと、来年もまた会えるよ

星明

私、君には前を向いて進んで欲しい

星明

悲しい顔は、して欲しくないから

星明の答えは、予想通りだった。 だから、俺も答えるんだ

滲む天の川を見ながら、考えた答えを

星明…俺、医者になるよ

考えたんだ。俺になにができるか

失った人は戻ってこない

だけど、失うのを防ぐことはできる

星明の命を奪った病院だって、治してみせる

こんな悲しい思いをする人を減らしたいんだ

星明

昴くん…

だから、医大受けるよ

絶対に合格して、戻ってくる

その時、また一緒にここで天の川を見よう

いい報告持ってくるからさ…約束

星明

わかった…また約束、しよっか

星明

…その手紙、開けてみてくれる?

言われた通りに手紙を開けると、星明がつけていた髪飾りが入っていた

星明

約束の、しるしだよ

ああ…約束だ

俺も星明に会えて良かったよ。
ずっと約束果たせなくてごめんな

また、絶対に会おう。
待ってて…くれるよな?

星明

うん…ずっと、待ってる

星明

また…この丘で…約束!

昇った太陽の光が辺りを包み、その眩しさに目を瞑る

目を開けた時には、もうそこに、星明の姿はなかった

っ…っく…う…

俺はその場に泣き崩れた。 星明からの手紙が、辺りに散乱する

うわあぁぁぁ…!!

背景、昴くん。 私…約束、守れたかな。 私たちは、七夕の日にちゃんと会えたかな

私はもう、君の前にはいないんだよね。 でも、昴くんと見た天の川は、絶対に忘れないよ

織姫の星は、こと座の中にあって、 彦星の星は、わし座の中にあるんだって

琴吹と鷲尾…私たちの名前みたいだね。 だからまた、私たちはきっと会えるよ

織姫と彦星だもん。 きっと…ううん、絶対にまた会えるよ

この天の川の下で

俺は、手紙と髪飾りを強く抱きしめた 強く、強く抱きしめた

そうして、しばらく大きな声でわんわん泣いた

…約束の証だ

立ち上がった俺は、そっと近くの木の枝にキーホルダーをかける

そして、前を見据えると歩き出す

朝日の中を、まっすぐに

この夏を、星明と過ごした夏を思い出に抱いて、歩いていく

絶対に、立ち止まったりしない。 投げ出したりしない

また、天の川の下で 約束を果たすまでは

昴&星明

……また、会えたね

この作品はいかがでしたか?

1,110

コメント

11

ユーザー

お話作るのうますぎます

ユーザー

夏さん、こちらも読んでくださりありがとうございます!! その通りです!重くて変換変になっちゃいました…教えていただきありがとうございます!!🙏

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