好きなだけ

私は昔、それなりにやんちゃしていた

ひねくれた奴が大嫌いだったから、見つけては毎日喧嘩して、フレンドに迷惑かけてた

特にキキョウには世話になったな

毎日怪我して帰ってきた私を手当してくれて、世話してくれて…

本当にお前は私の大切な友人だ

そう文句言いながらも手際よく手当してくれる

そんなはずはない

本当に優しければ、暴力以外の方法で奴らを止めれてるし、こうやってお前に迷惑かけてない

私が変われれば…

私とは一生関わることの無い単語だと思っていたから、それがキキョウの口から飛び出したことに過剰に反応してしまった

そうは言ったものの、恋なんてするつもりはさらさらなかった

私に恋なんていらない 寄りかかるものなんて必要ない

そう思ってたはずなのに

出会ってしまった

貴方という光に

その日は初心に帰って雀の姿で草原を歩いていた

身長もリサイズで縮めて、この姿で誰かを騙せやしないかと面白半分でもあった

本当に、出会いは突然だった

キャンドルに火を灯そうとした時に、野良のキャンドルとも灯しあってしまったのだ

その声と顔を見た瞬間、今までに感じたことの無い衝撃が全身を走った

みぞおちを思い切り殴られた時とも、固いもので頭を殴られた時とも違う、とても強い衝撃

でも不快じゃない、心臓の鼓動がみるみる速くなっていく感覚に動揺が止まらなくて、体温が上がり、汗が吹きでてくる

汗のせいか、仮面が取れてしまって自分のはしたない表情が晒されてしまった

失態を取り戻そうとすればするほど失態が重なり、ついに相手に話しかけられてしまった

自分を雀と勘違いしているのか、子を宥めるように優しく語り掛けてくる

その事が余計私の挙動をおかしくさせてしまいそうだ

自分でも情けないほどか細い声しか出なくて泣きたくなった

私の額に手の甲を当ててきて、思わず肩が跳ねてしまった

余計体温が上がっているような気がして、慌てて離れる

今すぐこの場所から去りたい

しかしそんな私の気持ちを分かってくれるはずもなく、相手は距離を詰めてくる

そう言って手を軽く握られどこかへ連れていかれる

その手は細くて柔らかくて、暖かかった

後に相手の名前は「カンナ」ということを知った

彼女は完全にこちらを雀だと勘違いしているようで、この世界について色々話してくれた

言葉を簡単にしながら一生懸命話している彼女を見て、じんわりと暖かい何かが心に染み渡った

その時ふいに

「あぁ、これが恋か」

と悟った

私は恋を甘く見ていた

恋をするとこんなにも世界が輝いて見えて、彼女以外何も見えなくなる

そんなふわふした感情にひたっていると、彼女がフレンド申請をしてくれた

「可愛い」という言葉に過剰に反応してしまってまた体温が上がる

そこから、私の偽りの日々が始まった

自分を雀と偽り、何も知らないふりをして彼女について行った

一緒にいればいるほど嘘が自分を覆い隠し、見えなくさせた

話を聞けば、彼女にはたくさんの友達がいて、毎日が楽しいのだという

しかし、それは私にとって喜ばしいことではない

一通り案内が終わってしまえば、この関係は終わってしまうかもしれない

そう考えた私は思いついたのだ

そう、弟子になってしまえば毎日一緒にいられる

毎日一緒にいても誰にも疑われない

彼女は悩んだ末、承諾してくれた

これで彼女との関係は保証された

これからどう変わろうか

そう言ってキキョウはお気に入りのヘアオイルや香水を教えてくれたり、仕草についてもアドバイスをくれた

キキョウの言うとうりに毎日髪を整え、仕草にも気をつけた

すると、ボサボサでまとまりのない髪が綺麗になり、いい匂いもするようになった

お前は本当に良い奴だよ

ごめんな

それから数ヶ月、私はすっかり垢抜けた

あの時自分がイメージした自分になれた

でも、本当にこれでよかったのか

キキョウの言うとうり、秘密を明かすべきだったのかもしれない

でも、そんな考えも彼女の顔を見れば吹き飛んでしまう

私は彼女のことが大好きだから

そう言えば、彼女の友人と最近会わないな

ようやく諦めてくれたか

恐らくあいつも彼女のことが好きだ

それに、雀狩りをしているという噂もたっている

あんなやつを彼女と会わせるものか

カンナ師匠は、私のものだ