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rara🎼
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nmmn注意⚠️ キャラ崩壊注意⚠️ 誤字脱字注意⚠️ 病院パロ
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1,白のヒヤシンス
透析室は、いつも同じ匂いがする。
消毒液の冷たい匂いと、機械が規則正しく吐き出す空気の音。
その匂いと音に囲まれながら、こさめは左腕の針を見つめていた。
血が透明なチューブを流れ、機械の中で濾過され、再び体に戻ってくる。
頭では理解している。
この作業がなければ、明日を生きられないことも。
それでも、こさめは心のどこかで思ってしまう。
──鎖みたいだ。
ベッドに縛りつけられたまま、外の世界とは隔絶されていく感覚。
すち
声がして顔を上げると、すちがカルテを片手に立っていた。
白衣のポケットには、ボールペンがきっちり揃えて差し込まれている。
いつもと変わらない穏やかな声。
それが逆に、こさめには少し息苦しい。
こさめ
すち
こさめ
曖昧に返すと、すちは機械の数値を確認し、点滴の速度を微調整した。
すち
すち
こさめ
口にしてから、自分の声が棘を含んでいることに気づく。
だが、すちは眉ひとつ動かさず、
すち
とだけ返した。
透析が終わる頃には、こさめの体はぐったりと重くなっていた。
腕から針を抜くときの鋭い痛みも、もう慣れたはずなのに、今日はやけに沁みた。
包帯を巻かれ、車椅子で病室に戻る途中、窓の外に目をやる。
夏の名残を抱えた空が、少しずつ秋色に変わり始めている。
そこに広がる青空は、どこまでも遠くて、今の自分には触れられない。
病室に戻ると、なつが窓辺の椅子に座っていた。
なつ
なつ
こさめ
なつ
軽口を叩くなつの声には、かすかな掠れが混じっている。
なつは肺がんだ。
笑っている時でも、息が途切れ途切れになることがある。
そんななつが、自分のことより他人の体調を気にするのだから、不思議なやつだとこさめは思う。
ベッドに横になると、廊下から足音が聞こえてきた。
らんが点滴スタンドを引きずりながら戻ってくる。
らん
らんの声は低く、いらだちを隠そうともしない。
らんは心臓が弱い。
歩くだけでも負担になるのに、本人はそれを受け入れられないでいる。
なつ
なつが言う。
らん
そのやり取りを聞きながら、こさめは目を閉じた。
三人とも、似たような感情を抱えている。
体に縛られ、自由を奪われ、それでも日々を過ごすしかないという諦めを。
夕食後、すちが病室にやってきた。
すち
こさめ
すち
こさめ
すちは一瞬だけ目を細めたが、それ以上追及しなかった。
代わりに、小さなメモ用紙を差し出す。
すち
すち
こさめ
すち
すち
そう言って去っていく背中を、こさめはしばらく見送った。
あの穏やかさが時々鬱陶しいのに、妙に心に残るのはなぜだろう。
夜。
病棟は消灯し、窓の外には街灯の淡い光が差し込む。
なつが静かに眠り、らんはイヤホンで音楽を聴いている。
こさめは眠れず、ベッドから身を起こした。
廊下を抜け、中庭に出る。
夜風が頬を撫で、鼻腔をくすぐる草の匂いが広がる。
ここからは街の灯りも星も見える。
その景色は、透析室の無機質な白とは正反対だ。
ふと、昼間のすちの言葉を思い出す。
──『外の空気は悪くない』
ベンチに腰かけ、ゆっくり呼吸する。
その瞬間、胸の奥で何かが解けるような感覚があった。
苦しみは消えない。
透析も明日も変わらない。
それでも、ほんの一瞬、ここでは自由になれる気がする。
背後で足音がした。
すち
振り返ると、すちが立っていた。
こさめ
すち
すち
二人はしばらく無言で夜空を見上げていた。
やがて、すちが低く言う。
すち
こさめ
すち
その言葉は、不思議と胸に沁みた。
病室に戻る頃には、こさめの心は少しだけ軽くなっていた。
苦しみは続く。
それでも、耐える力は、自分の中にまだ残っている──そう思えた。
夜の静寂の中、こさめは深く息をつき、目を閉じた。
遠くで、誰かの咳が響いていた。
1・了
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𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝200
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コメント
12件
面白かった!!!!!!!! なんかもうグハッて感じ(?)