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#溺愛
桜咲かな
77
#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
109
#狂愛
桜咲かな
127
楓
そう思った時、 不思議なくらい心は静かだった。
怖くないわけじゃない。
でも━━━
生きていく方が、ずっと怖かった。
夜の風が吹く。
私は学校の屋上に立っていた。
フェンスの向こう側。
あと一歩で終わる場所。
下を見る。
街の光が遠い。
人が小さく見える。
楓
どこか他人事みたいに思った。
体育のペアも、 いつの間にか決まっていて、
私は余った。
先生は困った顔をして、 適当に誰かと組ませた。
その子は露骨に嫌そうだった。
楓
って言ったら、
同じクラスの子
って返された。
でもその顔は全然「別に」じゃなかった。
部屋に入って、 ベッドに座って、
気づいたら涙が出ていた。
理由なんて、 もう分からなかった。
ただ苦しかった。
気づいたら家を出ていた。
足が勝手に動いていた。
夜の学校は静かだった。
門は閉まっていたけど、 横の通用口は開いていた。
怒られるとか、 どうでもよかった。
階段を上る。
一段一段。
足音が響く。
心臓の音がうるさい。
屋上のドアを開ける。
今日も同じだった。
教室に入った瞬間の空気。
クラスの人達
一瞬だけ静かになって、すぐに戻る笑い声。
誰も私を見ない。
楓
机の上にはプリント。
名前だけ書かれていて、 中身は空白だった。
回してもらえなかったんだと分かった。
楓
でも何も言えなかった。
言ったら面倒くさそうな顔をされるから。
家でも同じ。
お母さん
母親の声。
お母さん
黙っていたら、
お母さん
父親はテレビを見ながら、
お父さん
それだけ。
何をどうちゃんとすればいいのか、 分からなかった。
風。
夜の匂い。
街の光。
━━━綺麗だった。
楓
そう思った。
フェンスに手をかける。
金属が冷たい。
足をかける。
思っていたより簡単だった。
自分でも驚くくらい体が軽かった。
フェンスの向こう側に立つ。
下を見る。
頭が少しクラっとした。
高い。
当たり前だけど、すごく高い。
怖い。
でも━━
それでいいと思った。
楓
小さく呟く。
風に消える声。
誰も聞いてない。
誰も来ない。
当然だ。
私なんて━━━━
紫月
後ろから声がした。
心臓が跳ねた。
振り向く。
男の子が立っていた。
同じ学校の制服。
見覚えは━━━ないはずなのに。
どこかで見た気がした。
楓
そう言って前を向こうとした瞬間、腕を掴まれた。
温かい手だった。
紫月
低い声。
怒ってるわけじゃない。
でも必死なのが伝わってくる。
楓
紫月
当たり前のことを言われて、 なぜか少し笑いそうになった。
少し沈黙が流れる。
風の音だけ。
そのあと、彼が言った。
紫月
楓
紫月
心臓が少し跳ねた。
私も同じことを思っていたから。
楓
名前を言う。
その瞬間、彼の表情が変わった。
紫月
小さく声を漏らす。
紫月
頭が真っ白になる。
楓
紫月
記憶が一気に蘇る。
カーテン。
お菓子作り。
写真に唯一2人で写っていた男の子。
楓
思わず呟く。
紫月
彼は少し笑った。
紫月
そして少ししてから。
紫月
呼吸が止まりそうになる。
最寄り駅。
改札前。
長く目が合ったあの日。
楓
紫月
沈黙。
でもさっきまでとは違う空気。
知らない人じゃない。
ずっと前から、知ってる人。
その瞬間━━
涙が溢れた。
楓
声が震える。
楓
彼は少し驚いて。
でも優しく言った。
紫月
名前を呼ばれる。
胸が痛くなる。
もう呼ばれなくていいと思ってたのに。
紫月
楓
紫月
楓
叫んだ瞬間、彼に強く抱き寄せられた。
紫月
耳元で囁かれる。
紫月
その言葉で、何かが崩れた。
でも私は言った。
楓
声が震える。
楓
その瞬間だった。
少し間があって━━━
紫月
呼吸が止まりそうになった。
紫月
胸の奥が一気に崩れる。
忘れられてると思ってた。
誰にも覚えられてないと思ってた。
楓
声が震える。
楓
彼は少し笑った。
紫月
その瞬間━━━
完全に壊れた。
私は泣き崩れた。
立っていられなかった。
彼が支える。
紫月
静かな声。
気づいた時には、
フェンスの向こう側じゃなくて、
コンクリートの上に座っていた。
足に力が入らない。
立てなかった。
私はそのまま泣き続けた。
彼の制服を、
ぐちゃぐちゃに濡らしながら。