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楓
そう思った時、 不思議なくらい心は静かだった。
怖くないわけじゃない。
でも━━━
生きていく方が、ずっと怖かった。
夜の風が吹く。
私は学校の屋上に立っていた。
フェンスの向こう側。
あと一歩で終わる場所。
下を見る。
街の光が遠い。
人が小さく見える。
楓
どこか他人事みたいに思った。
今日も同じだった。
教室に入った瞬間の空気。
クラスの人達
一瞬だけ静かになって、すぐに戻る笑い声。
誰も私を見ない。
楓
机の上にはプリント。
名前だけ書かれていて、 中身は空白だった。
回してもらえなかったんだと分かった。
楓
でも何も言えなかった。
言ったら面倒くさそうな顔をされるから。
体育のペアも、 いつの間にか決まっていて、
私は余った。
先生は困った顔をして、 適当に誰かと組ませた。
その子は露骨に嫌そうだった。
楓
って言ったら、
同じクラスの子
って返された。
でもその顔は全然「別に」じゃなかった。
家でも同じ。
お母さん
母親の声。
お母さん
黙っていたら、
お母さん
父親はテレビを見ながら、
お父さん
それだけ。
何をどうちゃんとすればいいのか、 分からなかった。
部屋に入って、 ベッドに座って、
気づいたら涙が出ていた。
理由なんて、 もう分からなかった。
ただ苦しかった。
気づいたら家を出ていた。
足が勝手に動いていた。
夜の学校は静かだった。
門は閉まっていたけど、 横の通用口は開いていた。
怒られるとか、 どうでもよかった。
階段を上る。
一段一段。
足音が響く。
心臓の音がうるさい。
屋上のドアを開ける。
風。
夜の匂い。
街の光。
━━━綺麗だった。
楓
そう思った。
フェンスに手をかける。
金属が冷たい。
足をかける。
思っていたより簡単だった。
自分でも驚くくらい体が軽かった。
フェンスの向こう側に立つ。
下を見る。
頭が少しクラっとした。
高い。
当たり前だけど、すごく高い。
怖い。
でも━━
それでいいと思った。
楓
小さく呟く。
風に消える声。
誰も聞いてない。
誰も来ない。
当然だ。
私なんて━━━━
紫月
後ろから声がした。
心臓が跳ねた。
振り向く。
男の子が立っていた。
同じ学校の制服。
見覚えは━━━ないはずなのに。
どこかで見た気がした。
楓
そう言って前を向こうとした瞬間、腕を掴まれた。
温かい手だった。
紫月
低い声。
怒ってるわけじゃない。
でも必死なのが伝わってくる。
楓
紫月
当たり前のことを言われて、 なぜか少し笑いそうになった。
少し沈黙が流れる。
風の音だけ。
そのあと、彼が言った。
紫月
楓
紫月
心臓が少し跳ねた。
私も同じことを思っていたから。
楓
名前を言う。
その瞬間、彼の表情が変わった。
紫月
小さく声を漏らす。
紫月
頭が真っ白になる。
楓
紫月
記憶が一気に蘇る。
カーテン。
お菓子作り。
写真に唯一2人で写っていた男の子。
楓
思わず呟く。
紫月
彼は少し笑った。
紫月
そして少ししてから。
紫月
呼吸が止まりそうになる。
最寄り駅。
改札前。
長く目が合ったあの日。
楓
紫月
沈黙。
でもさっきまでとは違う空気。
知らない人じゃない。
ずっと前から、知ってる人。
その瞬間━━
涙が溢れた。
楓
声が震える。
楓
彼は少し驚いて。
でも優しく言った。
紫月
名前を呼ばれる。
胸が痛くなる。
もう呼ばれなくていいと思ってたのに。
紫月
楓
紫月
楓
叫んだ瞬間、彼に強く抱き寄せられた。
紫月
耳元で囁かれる。
紫月
その言葉で、何かが崩れた。
でも私は言った。
楓
声が震える。
楓
その瞬間だった。
少し間があって━━━
紫月
呼吸が止まりそうになった。
紫月
胸の奥が一気に崩れる。
忘れられてると思ってた。
誰にも覚えられてないと思ってた。
楓
声が震える。
楓
彼は少し笑った。
紫月
その瞬間━━━
完全に壊れた。
私は泣き崩れた。
立っていられなかった。
彼が支える。
紫月
静かな声。
気づいた時には、
フェンスの向こう側じゃなくて、
コンクリートの上に座っていた。
足に力が入らない。
立てなかった。
私はそのまま泣き続けた。
彼の制服を、
ぐちゃぐちゃに濡らしながら。