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愛夜子
愛夜子
ボロボロに破れたカーキ色のノースリーブワンピース、まっ白な壁の前で
愛夜子
としかその女性は言わない。
12月だ。でもノースリーブだ。
先日保護された時の様子はこうだ。
散歩中の女性
早朝、河川敷で犬の散歩をしていた初老の女性は、若い女性が項垂れ、体育座りしているのを発見する。
散歩中の女性
ワンワン! と激しく犬が吠える。
ガリガリに痩せ細った女性は
愛夜子
とやら、言葉にならない語が多い。問いかけに無反応だ。
初老の女性はすぐに救急車を呼んだ。
大きな川が爽やかだ。残酷な程に晴れ渡った空。小鳥の愛らしい声が聞こえる。
すぐに救急車がやって来て運ばれて行った、言語の発するのが難しそうな女性。病院に即刻警察が駆け付けた。
警察官に向かって
愛夜子
警察官
愛夜子
ほとんど意思の疎通が出来ない。
***
――――ドクター、看護師らがバタバタと動いている。
看護師
ドクターが警察官に向かって言う。
ドクター
警察官
と警察官2名のうち1名が残った。
1時間弱で女性がドクターに連れられ、検査室から廊下へ出て来た。ガリガリの肩が寒々しく痛々しい女性。
警察官
ドクター
警察官
警察官と医師のやり取りを不思議そうに見つめる彼女の瞳はガラス玉のようだ。長い黒髪は乱れ、所々もつれている。看護師が駈けて来て、病院着を彼女の肩に羽織らせた。
彼女はまじまじとその上っ張りを面白がるように見ている。
そうかと思うといきなり
愛夜子
と興奮し始めた。
看護師が伝わらない言葉でなだめながら背中をさする。
看護師
少し女性は落ち着き、看護師に連れられ病室へ入って行った。
――――一方、警察署では、半年前からある男性により捜索願が出されていた『湖杉愛夜子(こすぎあやこ)さん40才ではないか?』ということになり、島根の母親へ東京の警察へ来てもらうよう電話連絡がされた。
様子を聴かされ、眼前がまっ暗になる母・麻矢子(まやこ)、60才。
倒れぬよう、壁で体を支えながら
麻矢子
麻矢子
泣きながら身支度をする麻矢子。
出雲縁結び空港までの電車内、サングラスをかけ涙を隠している。 ずっとハンカチでサングラスの下部から下まぶたを押さえる。嗚咽しそうな口も時々押さえる。
母・麻矢子は愛夜子の良き友でもあり、愛夜子の恋愛の相談によく乗っていた。
麻矢子
***
愛夜子
麻矢子
愛夜子
麻矢子
愛夜子
麻矢子
愛夜子
***
――――陽光のもと、一面の花畑の中で寝そべり愛し合う愛夜子と里志。
愛夜子
里志
里志が愛夜子の髪の毛を撫でる度に音符が髪からキラキラと零れ出す。天界を想わせる花園の恋人。一番刺激的な言葉を選び、太陽よりも熱い口づけをプレゼントする。
お誕生日なんか欲しくなかったあたしに愛を教えてくれた人。それが里志。死ななくても良いんだって分からしめてくれたダーリン
***
――――5年前。
ここは煌びやかな花街。
一人のマッチョな男性が後輩らしき男性の手を引っぱっている。マッチョマンは40代だろうか。後輩君は30代であろう。
里志
塚本
――――万華鏡の中身、キラキラキラ―。
手を離さないで連れて行く先輩である塚本。里志はこんなチカチカしたネオン瞬く場所は恥ずかしい。自分とは別世界な空間と感じる。
弥野里志(やのさとし)38才。
『ルーリラ』と紫とピンクで配色されたネオンサインのすぐそばに立派な木製の扉が待ち構えている。
塚本
ニヤニヤと生ぬるい先輩風を吹かせる塚本。
未知へのドアーが開かれた。
ルーリラ店長
塚本
ルーリラ店長
塚本
ケラケラ笑う塚本。固まっている里志。
ルーリラ店長
里志
つばを飲み込む里志。でもなんだか思っていたよりも受け付けは明るい。照明も雰囲気も。
ルーリラのスタッフ
スタッフに案内され待合室へ通された。
あ、やだな~
自分たち以外の知らない客とも一緒なのが、里志の気恥ずかしさを加速させた。
漫画がずらりと並んだ棚があったり、爪切りやマウスウォッシュなども置かれているのが生々しい。
初めてと言えども、性体験が未体験なわけではない里志。それらの物に生々しさを感じてしまう。
は~、望子(もちこ)にバレたら一巻の終わりだよ
田中望子(たなかもちこ)37才。里志が7年交際している恋人だ。 家電ショップでバリバリのキャリアを積んでいる販売スタッフだ。 里志と望子はライトな友人のような、家族のような雰囲気。
里志はほぼずっと俯きじっと待っていた。先に塚本がスタッフに呼ばれ待合室を跡にした。
望子、ごめん!
里志
心の中で言う里志。
暫くすると他の見知らぬ客が呼ばれ、その次に里志が呼ばれた。
廊下へ出た途端、息を飲んだ。
艶やかな黒髪ロングのグラマーな女性が立っている。美麗な嬢なのだが、とても……とても親しみやすさを感じさせる。
彼女は一礼し
愛夜子
と言い、至極自然に里志の左腕に自分の両腕を絡めて来た。
愛夜子
声も女性、と言うよりもまるで女の子だ。愛らしい人だ。
里志
じっとりとおでこが汗ばむ里志。
胸の音をこの恋海さんに聴かれてやしないかと、さらにドキドキと心拍数が上がる。
恋海は、すぐにお客のときめきを感じ取ると、なんだか自分も恥ずかしい心地になった。
あたし……仕事でこんな気持ちになったこと、ない
二人は部屋に入った。
まずはテーブルの前のソファーに二人で腰かけた。 ピタッと寄り添うようにして離れない恋海。
透けるほどまっ白な恋海の素肌、たわわな果実のような胸の谷間が里志にはまぶしい。
里志
愛夜子
里志がタバコケースから1本取り出すと、ナチュラルにライターで火を灯す恋海。
里志
すると早々に名刺を渡す恋海。 いつもはお客様のお見送り直前に渡している名刺。 でも……
あたし、この方には今渡したいわ、名刺。あたしのこと、知って欲しい。なんだろ……凄く甘えたい
愛夜子
恋海はタバコを吸う里志の目を覗き込む。 ネコのような切れ長で大きな瞳に里志を閉じ込める。
里志
ドギマギしながら言う里志。
*
――――今、愛夜子に突如として脳裏に現れた映像。
曇った空の元、砂浜に手を繋ぎ座り水平線をじっと見つめている愛夜子と里志。 波音だけが聴こえる。言葉は無い。 切ない表情でうっとりとしている二人。
愛夜子
里志
愛夜子
そう言い、恋海は里志の左肩にちょこんと頭を載せた。
里志
と里志は柄にもなく口にした。
自分でも何故そんな言葉が口をついたのか分からない。
タバコを1本吸い終わった里志は少し落ち着いている。 それはニコチンのお陰と言うよりも恋海から滲み出る人柄の良さ・温もりのせいだろう。
愛夜子
立ち上がり両手を里志へと伸ばし、少女のように笑う恋海。
里志
しあわせ……里志さん、素敵な方だわ
恋海がそんな風にしどけなくくっついて来る前から、すでに里志はエキサイトしていた。
愛夜子
ゆっくりと立ち上がり、里志の目を見つめる赤いさくらんぼうのような唇の恋海。
里志はその果物を味わった。 暫くキスが止まらない。
恋海は頬を紅らめた。 自分自身で嬢らしからぬ感覚だと少し戸惑った。
里志
愛夜子
恋海がしなやかな波のように問う。
里志
シャワーが心地よい。
里志は、こういうお店に行くことを塚本から前々から言われていたので、着替えを持って出勤した。 塗装の仕事の帰りなのだ。 汗が綺麗さっぱり流れ落ち爽快だ。そこへ向けて美女と素敵なひと時。
里志
シャボンにときめきの色。夢色の感触。肉感的な胸騒ぎ。
愛夜子
綺麗な黒髪はクリップでキュッと止められている。濡れたおくれ毛がチャーミングな恋海。
何処かからパッヘルベルのカノンが聴こえる。
愛夜子(恋海)は、心の奥底から流れ出るメロディーに耳を傾ける。
二人の躰はそのうち溶け合い、一つの光となり、決して離れられなくなる予感をもたらせた。