作者
午後の光がカーテン越しに滲む部屋で、イギリスはティーカップを両手で包み込んでいた。紅茶の香りは好きだが、その温もりが消えるのが怖くて、なかなか口をつけられない。シルクハットは椅子の背に掛け、モノクル越しに床を見つめている。
「また考え事か?」
床に座り込んだアメリカが、ポテトをつまみながら声をかけた。周囲には紙袋や空き箱が散乱している。
「……少々、過去を」
「無理に思い出すなって言っただろ」
ぶっきらぼうだが、その声音は柔らかい。
イギリスは小さく頷いた。昔の家の記憶は、今でも薬の匂いと一緒に胸を締めつける。それでも、この家に来てから、夜を越えられる日が増えた。
「アメリカ」
「ん?」
「あなたは、どうしてそんなに強いのですか」
「強くねえよ。ただ腹減ったら食うし、嫌なやつは嫌いなだけだぜ」
その単純さが、イギリスには眩しかった。
「……私は、運動も得意ではなく、友人も少ない。正直、誇れるものがありません」
「紅茶淹れるのは上手いし、パンケーキ好きだろ。それで十分だな」
「十分、ですか」
「十分だ」
アメリカは立ち上がり、イギリスの前にコーラを一本置いた。
「無理に変わらなくていい。ここにいりゃ、それでいいんだぜ」
イギリスは少し迷ってから、カップに口をつけた。紅茶は、いつもより甘く感じられた。
