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町夜は照明が落ちた板張りの廊下を、足音を忍ばせて進み、仏間へと向かった。
月明かりがうっすらと差し込む薄暗い室内。 町夜は仏壇の前に正座し、マッチを擦って線香に火を灯した。
立ち上る細い煙と、澄んだおりんの音の前で、静かに手を合わせた。
祈りを終えて顔を上げた町夜の視線は、仏壇のすぐ傍ら、部屋の隅に鎮座する黒々とした年代物の金庫へと吸い寄せられた。
昼間に見た時よりも遥かに重厚に見え、異様な圧迫感を放っている。
町夜
町夜が惹きつけられるようにジッとその金庫を見入っていた、その刹那だった。
祖母
背後から祖母の張り詰めた怒声が突き刺さった。
町夜が弾かれたように振り返ると、寝間着姿の祖母が血相を変えて立っていた。
町夜
町夜
町夜は冗談めかして祖母を宥める言葉を口にしつつ、指先で金庫のダイヤルに触れ、軽やかにグルグルと回した。
無論、金庫の重厚な鉄扉は微動だにしないが、祖母は激しく取り乱した。
祖母
祖母は町夜のたくましい腕に縋り付いて金庫から引き剥がそうとする。
盗難を警戒しているのではない。 その眼差しに宿っているのは、触れてはならない絶対の禁忌に触れてしまったことへの、純粋な恐怖と絶望だった。
祖母
祖母の尋常ならざる取り乱しように、町夜もこれ以上頑なに居座ることはできなかった。
仏間から出て自室へ引き下がろうと廊下を歩いていると、背後で、仏間の引き戸がピシャリッと乱暴に閉ざされる音がした。
和室に戻った町夜は、布団へと潜り込んだ。
祖母の異様な剣幕への疑問を抱えながら、移動の疲労に押し流されるようにして町夜は深い眠りへと落ちていった。
また、あの夢だ。
無限に広がる暗闇の中、ぬらりと浮かび上がる異様な巨歯の列。
ゴリゴリッ、ギリギリッ……。
骨と肉を擂り潰す執拗な咀嚼音が鼓膜を劈く。
左右に歪み軋む歯列の裂け目に、ふいに白いものが浮かび上がった。
町夜は息を呑んだ。
あの子だ。 あの写真の中で、幼い町夜と手をつなぎ満面の笑みを浮かべていた「友人」だった。
幼い友人は光を失った虚ろな目を見開いたまま、ピクリとも動かない。
巨大な歯列がギチギチと音を立てて友人の小さな四肢を、胴体を、頭部を、容赦なく擂り潰す。
生々しい破壊音と圧搾の感触が、町夜の脳内に直接反響する。
町夜
町夜は布団を撥ね除けるようにして跳ね起きた。
全身が冷たい寝汗でぐっしょりと濡れ、荒い呼吸と激しい動悸が止まらない。
あの生々しい惨劇の光景は、単なる悪夢として片付けるにはあまりにも鮮烈で、町夜の精神を激しく揺さぶった。
🎲 茂武 町夜【SAN値チェック】➔ 失敗( -1 )
幼い友人の身体が、白い巨大な歯列によってボリボリと音を立てて噛み砕かれ、奥へと呑み込まれていく光景――
そのおぞましさは、町夜の鍛え上げた肉体をもってしても振り払うことはできなかった。
町夜は額の汗を拭いながら重い息を吐き出した。
町夜が居間へと向かうと、食卓には町夜ひとり分の朝食が用意されていた。
その傍らに、祖母の筆跡で「外に出ています」と記された置き手紙が添えられている。 畑仕事か何かで早朝から出かけているのだろう。
町夜は朝食を平らげると、あの謎めいた友人が写る写真をポケットに収め、祖母の家を出た。
澄んだ朝の光と山あいの冷涼な空気が肌を撫でる。 四方を囲む深い緑、青々とした田畑。
子どもの頃と変わらない、どこまでも平穏でのどかな田舎の風景が広がっていた。
あてもなく村の小道を歩いていると、もんぺを着た見覚えのある近所のおばちゃんと出くわした。
おばちゃんは町夜の立派な体躯を見上げ、驚きつつも親しげな笑顔を浮かべて声をかけてくる。
「あらあ、随分と大きくなって逞しくなったわねえ! 町夜ちゃんかい? おばあちゃんちに帰ってきたの?」
町夜
町夜
町夜は何気ない挨拶の所作の中にさりげなく胸を張り、肩から上腕にかけての均整の取れたカットを際立たせた。
おばちゃんは目を丸くして歓声を上げる。
「まああ! なんて立派な筋肉! まるでテレビに出るプロレスラーかお相撲さんみたいね。子どもの頃はあんなに小さかったのに、都会でしっかり鍛えて元気にやってるのね」
おばちゃんは破顔して感心しきりの様子で、町夜の逞しい腕をパンパンと軽く叩いた。
のどかな朝の道端に、和やかで打ち解けた空気が広がる。
町夜
町夜
町夜は筋肉を誇示しながら、ポケットから写真を取り出して問いかけた。
おばちゃんが写真を目にした次の瞬間、その顔から笑みがさっぱりと消え去った。
先ほどまでの和やかな空気は一瞬にして消え去り、おばちゃんは町夜から一歩後ずさった。
「何も知らないね。用事があるから、もう行くよ」
おばちゃんは町夜の顔を二度と見ようとせず、逃げるようにそそくさと足早に立ち去ってしまった。
祖母と同じく、この村の人間にとってこの写真の存在は「タブー」であることが浮き彫りとなった。
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めあ☔️
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19
あさくら
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