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倉庫の外で,雨が更に強くなる。 照明は,もう安定しない。 薄暗い中で, 二人の距離だけがはっきり分かる。
康平は, まだ蓮音の手首に触れている。
離すと言った。 止めるとも言った。 それなのに。
康平
名前を呼んだ瞬間, 自分で分かるほど,声が近かった。
蓮音は,目を閉じたまま,答える。
蓮音
康平
言葉を探す。
康平
蓮音の眉が,わずかに動く。
康平
一歩,近づく。 もう,額が触れそうだ。
康平
喉が鳴る。
康平
蓮音の呼吸が,浅くなる。
蓮音
康平
否定しない。
康平
それでも。
康平
蓮音は,目を開けた。
青い瞳が,まっすぐ康平を見る。 逃げ場のない視線。
康平
一瞬,迷ってから。
康平
蓮音の表情が,凍る。
康平
康平
康平
蓮音
沈黙。 雨音が,やけに大きい。
蓮音
声が低い。
康平
一歩,踏み込む。
康平
距離が,ゼロになる。 息が,ぶつかる。
康平
その言葉が落ちた瞬間。
蓮音の手が, 康平のシャツを掴んだ。 強くない。 でも,離す気もない。
蓮音
震える声。
蓮音
康平
蓮音
視線が揺れる。
蓮音
康平は,否定しない。
その代わり。
額が,触れた。 ほんの一瞬。
次に,唇が,触れる。
深くない。 確かめるだけの,短いキス。
それでも,離れた瞬間, 二人とも息を乱していた。
康平
反射で出た言葉。 でも,もう遅い。
蓮音
そう言いながら,蓮音は, まだシャツを掴んだままだ。
蓮音
一度,息を吸う。
蓮音
言葉が,途切れる。
蓮音
康平の胸が,締めつけられる。
康平
ゆっくり,答える。
康平
それは,宣言だった。
蓮音の指が,少しだけ緩む。
蓮音
視線を逸らして,続ける。
蓮音
康平は,迷わなかった。
康平
短く,はっきり。
蓮音の肩が,震える。
蓮音
小さく笑う。
蓮音
二人は,もう一度,近づく。 今度は,躊躇しない。
雨音に紛れて, 逃げ場のない倉庫で, 二人は同じ場所を見ていた。
──戻れない場所を。