タクシーの運転手を仕事にしていると
いくつか、嫌な経験をする。
深夜に乗せた酔っぱらいの客
カップルの客
酔っぱらいの客は全然いいのだが
カップルの客は厄介だ
乗せてみると浮気してるやしてないだの痴話喧嘩を聞かされる
そして強盗もいる
俺はまだ遭遇していないのだが同僚は遭遇してしまったみたいだ。
しかし、なによりも恐怖を感じる客は
この中にはない
俺は背中に冷たいものを感じながら
無意識のうちにハンドルをかたく握りしめた。
おそるおそるルームミラーに目をやると青白い顔の男がうつむきかげんで座っている
告げられた行き先は出来れば避けたい町だ
よりによって最悪な客を拾ってしまった
病院に近いあの交差点でタクシーを停めてドアを開けた瞬間まさか、とは思った。
そのときに何か理由をつけて走り去ってしまわなかったことを俺は凄く後悔した
そのとき、男はふっと顔を上げた
恋論
桃山 聡美
俺が返した声は、情けないほど裏返っていた。
誤魔化すように咳払いをして、必死に平静を装いながら
桃山 聡美
と応じる。
ルームミラーに映りこんだ男が、口元だけ少し笑った。
恋論
図星をつかれた俺は視線を泳がせた
恋論
桃山 聡美
恋論
桃山 聡美
何が大丈夫なのか俺でもよく分からない
恋論
桃山 聡美
額に嫌な汗を浮かべながら俺は反射で言葉を返した
タクシーの運転手を仕事にしていてもっとも恐怖を感じるのは
酔っぱらいを乗せることもカップルを乗せることも強盗を乗せることでも、ましてや、人間でもないものを乗せてしまうことでも無い
11年前に別れた妻を、たまたま載せてしまうことである
恋論
桃山 聡美
恋論
桃山 聡美
妻と別れた理由は、俺が作った借金だ
10年以上前、俺は勤めていた会社を辞めて起業したのだが失敗して多額の借金を抱えたのだ
それは結構な額で、1、2年で完済できる額ではなかった
このままでは妻にも子供にも迷惑をかけてしまうと思った俺は意を決して離婚を切り出した
桃山 聡美
恋論
桃山 聡美
恋論
俺はまた家族としてみんなと暮らしたかったが多額の借金はまた完済してない。
そう諸々考えていると恋論が
恋論
俺の思考を遮るように声を出した
ハッと我に返った俺は辺りを見渡した
すると目的地は目と鼻の先まで来ていたことに気が付いた
ハンドルに寄りかかるように座っていた俺の背中に、かつて妻だった恋論が、静かに語りかけた
恋論
桃山 聡美
何年も口にしていなかった妻の名前を無意識に呼びながら、俺は後部座席を振り返ったがそこに恋論の姿は居なかった
桃山 聡美
ドアを開けて外を見渡しても恋論の姿はなかった
桃山 聡美
俺は明かりのついた家を見つめていると玄関の方が騒がしくなった
桃山 聡美
そう思ってるうちに玄関の扉が大きく外側に開いた
そこから2人の影が出てくる
目が合った瞬間分かった。
その2人も時間が止まったかのように俺を見つめる
桃山 聡美
梨衣
桃山 聡美
必死に説明していると梨衣が泣き崩れた
桃山 聡美
そう問いかけると紫耀が口を開いた
紫耀
桃山 聡美
紫耀
桃山 聡美
俺は妻と別れたが妻の最後を見送る権利はあるはずだ
そして、恋論
俺は紫耀と梨衣を幸せにするよ、絶対に
疲れた( ˇωˇ )
コメント
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ブクマ失礼します!