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屋上から教室に戻ると、窓際で緑が外を眺めていた。
手をポケットに入れて、ぼんやりとした横顔。
その姿を見ただけで、胸がちくりと痛んだ。
それでも私は、もう目をそらさなかった。
少し離れた位置から、その後ろ姿をしっかりと見つめた。
放課後。いつもの帰り道。
だけど、今日は一緒じゃなかった。
いつからだろう。
"当たり前"が、こんなに儚いものだったって気づいたのは。
スマホを開いても、緑からのメッセージはない。
でも、それでいいと思えた。
無理に話さなくても、無理に笑わなくても。
緑の隣にいるのが私じゃなくても。
"好き"って気持ちは、誰かに伝えたからって、報われるんわけじゃない。
でも、"好き"だったって気持ちは、いつか確かに、私の中で過去形に変わっていく。
少しずつ。 少しずつ。
きっとそれが、失恋の癒え方なんだと思う。
ふと、前を歩く二人の姿を見かけた。
緑と、橙。
ふたりとも私に気づいていない。
その自然な距離が、すべてを物語っていた。
立ち止まって、遠くから見つめる。
もう走って追いかけたりはしない。
もう名前も呼ばない。
私は静かに、目を伏せて歩き出した。
好きだった。
それだけで、十分だと思える日が、きっと来る。
それまでは少しずつ、自分を許していこうと思った。
傷ついた自分も、涙を流した夜も、全部私の"好きだった"の証だから。