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可愛シエル
授業が始まるとシエルは斜め前に座る蒼空の猫背気味な後ろ姿を眺める。
黒く艶やかな髪はセットもされておらず 本来の癖っ毛がそのまま主張され ふんわりとしていた。
立ち上がったときの身長は シエルよりはずっと高く感じたが 男子の中ではそんなに高くない。
特別太ってもいなければ痩せてもいない。
これと言って思うこともない 普通の男子生徒だった。
あんな態度を取られてもなお、 蒼空はシエルにとって特筆することの 無い男子生徒のままだった。
シエルは好意を持たれることに 慣れてしまっていた。
そして、 それをありがたいとは どうしても思えないでいた。
可愛シエル
可愛シエル
シエルが思い浮かべるのは 声をかけてきた方の男子、最上だ。
可愛シエル
可愛シエル
シエルにも友達と呼べるものが 存在していたことがある。
小学生の頃だ。
友情はあっという間に破綻した。
原因はクラスで一番人気の サッカーが上手な男の子。
シエルはもう名前も思い出せないその人気者がシエルのことを好きだと言ったのだ。
その結果、 シエルはクラスの女子総出で いじめられることになった。
顔が可愛いから 汚くなれば嫌われると思ったなんて 絵具を詰めた水鉄砲で 大勢に襲われたこともある。
散々追いかけ回されて 泣きながら職員室に駆け込んだ。
絵具で全身どろどろに色付いたシエルを見た教師は絶句していた。
事情を話したら保健室へと連れていかれた。
保健室で当時担任だった教師に 濡らしたタオルで顔や腕など 服から出ているところを拭かれた。
拭き終わると泣きじゃくって されるがままになっているシエルに 「そのままじゃ帰れないから」 と鼻息荒く服を脱がせようとした。
まだ10歳と幼かったシエルは 担任の先生に不信感も抱くこともなく 素直にばんざいと腕をあげた。
偶然そのタイミングで戻ってきた 養護教諭に間一髪のところで助けられた。
後で知った話だが 保健室にはシャワーがあり、 シエルの体を拭う必要はなかったらしい。
思い出すだけでゾッとする。
それよりも酷い事件というのは なかなか無かったが、 似たようなことは学年が上がっても、 中学に上がっても、何度もあった。
シエルは現実で友達を作るのが怖くなった。
そしてネットゲームにハマるも 女という記号だけで群がってくる 男性ユーザーに悩まされた。
やっとできた友達は、 同い年の女の子はずが 年上のネカマだった。
可愛シエル
可愛シエル
可愛シエル
可愛シエル
可愛シエル
可愛シエル
シエルはどうしようもなく 込み上げる想いを吐き出すように ため息をこぼすと頬杖をついて 窓の外を眺めた。