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たぶん、あれが──はじまりだった。 担任がうっかり落としたプリントの束が 床にばさばさっと落ちて。
先生
先生も 頭をかきながらかがもうとしたけど その前に ──ひとり、立ち上がった子がいた。
秋保 楓花
スカートのすそを押さえながら 静かにしゃがんで、 床に散ったプリントを一枚ずつ 丁寧に拾い始めた。
秋保 楓花
先生
そう言って立ち上がったその子は、 何気ない仕草で髪を耳にかけて 微笑んだ。 俺、そのとき、名前も知らないのに 目が離せなかった。
及川 徹
静かで、やわらかくて でもちゃんと自分を持ってる子。 みんなが気づかないものを 黙って拾える子。 たぶん俺、あの瞬間に もう惹かれてたんだろうな。 まっすぐな視線も、 誰にも気づかれない優しさも ──全部、俺の胸に刺さった。
まだ始まったばかりの、高校生活。 その最初の一ページ目に、 彼女の姿が、ちゃんと焼きついてる。
最初のホームルームで 委員会を決める時間がきた。 ……まあ、だいたい想像つくよな。 みんな、運動系の委員か、行事に絡むやつを狙ってて。 「図書委員」の欄は、ずっと空欄のまま、時間が過ぎていった。
先生
教室には沈黙だけが落ちてた。 そのときだった。
秋保 楓花
前の列のほうから、声がした。 はっきりしてるけど、優しい声。 俺は思わずその方向を見た。 手を挙げていたのは、 あのプリントを拾った女の子 ──秋保 楓花だった。
驚いたのは、 彼女がちょっとも 戸惑ってなかったこと。 誰が見てるとか、どう思われるとか そんなの関係ないって顔だった。 クラスの空気が、少しざわついた。 けど楓花は、まっすぐ前を見たままだった。
先生
部活の途中で、 タオルを忘れたことに気づいて 教室に戻った。
放課後の廊下は、もう誰もいない。 窓の外の光も、昼間とは違ってて── 少しだけ、世界が静かに見えた。 教室のドアを開けたとき、 思わず、足が止まった。
ひとり、残ってる子がいた。 席に座ったまま、本を読んでいた。
秋保 楓花
俺が入ってきたのに気づいて 少しだけ驚いたように目を見開いて でもすぐ笑った。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
そう言って、少し照れたように目を伏せた。 教室に差し込む夕陽が 彼女の髪を少しだけ赤く染めてた。
及川 徹
秋保 楓花
わかるような、わからないような。 でもその声が、なんだか心地よくて、 俺は部活に戻るのを忘れて そのまま立ち尽くしてた。
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
彼女は少し驚いた顔をして でもすぐ、笑った。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
彼女は小さく頷いて 前を向いて歩き出した。 俺もその隣に自然と並んだ。 夕陽に照らされる道を ふたりで並んで歩くのは なんだか、すごく不思議な感覚だった。
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
そう言ったとき、彼女が一瞬だけこっちを見て、 ほんの少し照れたように笑ったのが たまらなかった。
風が吹いて、制服のスカートのすそが揺れる。 日が傾いて、影が長く伸びる。
ほんの少しだけ 彼女の足音に自分の足音を合わせた。
気づいたら、毎日のように一緒に帰ってた。 「たまたま一緒に帰っただけ」── そのはずが、 いつの間にか「今日も一緒に帰る前提」になってた。
どっちが言い出すわけでもなく、 気づくと横にいて 同じ坂道を歩いてた。
学校の正門を出たところの信号。 あそこを一緒に渡る頃には 今日あったことを ぽつりぽつりと話し始める。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
そんな他愛もない会話が 妙に楽しかった。 彼女はよく笑った。 大きな声じゃないけど、目を細めて 静かに笑う。 その笑い方が、好きだった。
歩く速さは、俺の方がちょっとだけ速くて。 気づけば歩幅を合わせていた。
風が吹くと、彼女の髪がふわっと舞って、 俺の制服の袖にかすかに触れた。 そのたびに、 心臓が、少しだけうるさく鳴った。
彼女は、いつも当たり前みたいにそこにいて、 俺の隣を歩いてくれた。
帰り道の季節は、 春から少しだけ初夏の匂いをまとい始めた。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡20
コメント
1件
いいねありがとうございます😭💖