夜間窓口は、夫の嘘だけ受理しない
結婚十二年目の藤代美沙は、夫・航平のスーツからホテルのレシートを見つける。問い詰めても、航平は「接待だ」「疑いすぎだ」と美沙を責め、逆に彼女が謝る形で話は終わってしまう。限界を感じた美沙は、離婚届を持って深夜の市役所へ向かう。
閉まっているはずの市役所の地下には、午前0時だけ開く「夜間受理窓口」があった。受付係・宮乃は、美沙の離婚届を受け取りながらも、こう告げる。
「こちらの離婚届は、まだ受理できません。ご主人の嘘が、未提出です」
翌朝、美沙のもとに届いたのは、夫の“残業”が嘘だったことを示す差戻通知だった。そこから美沙の前に、航平の嘘が一枚ずつ書類として返送されていく。不倫相手の存在、義母の黙認、共有口座から消えた金、そして美沙名義で進められていた借入申請。
美沙は友人・千尋の助けを借りながら、現実の証拠を集めていく。さらに、不倫相手の瀬名里緒もまた航平に「妻とは離婚協議中」と騙されていたことが分かる。美沙は里緒の証言から、航平が過去にも同じ手口で女性を追い詰めていたことを知る。
一方で航平は、美沙を「精神的に不安定な妻」として周囲に根回しし始める。美沙は追い詰められるが、夜間窓口で返送された「我慢届」によって、自分が長い間、怒りも不安も痛みも“妻だから”と飲み込んできたことに気づく。
最後の夜、美沙は離婚届と「我慢届取り下げ申請書」を持って、再び夜間受理窓口を訪れる。宮乃に促され、美沙は自分の手で赤い受理印を押す。航平の嘘、義母の支配、不正な申請、美沙を貶めるための申告は、すべて正しい宛先へ返送されていく。
朝になり、美沙の手元には一枚の通知が残る。
「あなたの人生の返還申請は、受理されました」
夫に必要とされるために自分を消してきた美沙は、ようやく自分の名前で生きていく決意をする。