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主人公名、恋珀(コハク)
山道は薄い霧に覆われていた
木々の間から漏れる光は淡く、足元の道はどこへ続くのかわからない
恋珀は小さな吐息を漏らしながら足早に進もうとするが、胸の奥に不安が膨らんでいく
その時――霧の奥から音もなく影が現れた
長い黒髪、淡い水色の瞳。
霞柱・時透無一郎だった
「... ...こんなところで何してるの?」
その声は、淡々としていながらもどこか冷たい
恋珀が言葉に詰まっていると、無一郎は視線を外さずに一歩、また一歩と近づいてくる。
「山の中は危ないよ。... ...迷ったら、もう出られないかもしれない」
囁きのような声。 だが、その言葉には妙な圧があり、背筋が栗立つ
気付けば、無一郎の手が恋珀の手首を掴んでいた
振り払おうとしたが、その力は細い見た目に似合わず鋼のように強い
「... ...僕が連れて行く。安全なところに」 そう言って、振り返らず歩き出す。
辿り着いた先は、深い霧に包まれた古い屋敷 ――霞柱邸。 無一郎は靴音もほとんど立てずに奥へと進み、恋珀を静かな部屋へ通す。
「ここなら、外よりずっと安全だよ。... ...山を下りる道は、もう分からないでしょ?」 無表情でそう告げると、部屋の障子を閉め、しばらくすると外側から鍵のかかる音がした。
それからの日々、無一郎は色々な理由をつけて外へ出ることを許さなかった。 「山の霧が濃すぎる」 「最近、鬼の出現が多い」 「君は足を怪我している」
理由は日ごとに変わったが、結論はいつも同じ――
外出禁止。
時折、部屋の戸が静かに開き、無一郎が食事や湯を持ってくる。 その度に彼の瞳は、淡く揺らぐ霞のように、何を考えているのか分からない。
しかし確実に、恋珀を逃さない意志だけは感じられた。
夜、眠りにつこうとすると、廊下のどこかでわずかな足音がする。 まるで見張られているような、 いや――確実に見張られている。
やがて恋珀の心は、霧に覆われた山道と同じく出口を失っていった。
♡50↝next.
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