君になりたくて

ピーーーーッ！

試合開始の笛が鳴る。

明里はボールを持つ千紘のことを見つめていた。

バァンッという豪快な音の後、スパイクは凌の方へ飛んでいく。

明里は文化祭の放課後のことを思い出していた。

ドッ……

凌のレシーブは綺麗に上に上がった。

　取って取られ、

取って取られを繰り返し＿＿

セット数は2対2

ファイナルセットになった。

明里はドリンクやタオルを配っていた。

不機嫌な様子でドリンクを飲む一颯の姿を明里はじっと見つめていた。

一颯は明里の頭を優しく撫でた。

7対5

7対7

9対8

10対9

10対10

10対11

その時、バァンッと陸のスパイクは床に叩きつけられた。

10対12

ドキンッドキンッと有り得ないほどに心臓ははね続ける。

その時、日坂がタイムアウトを使った。

選手たちは明里の元へやってくる。

明里はドリンクやタオルやらを渡した。

選手たちはハッとした様子で明里の方を向く。

マネの私は選手たちと同じく点を取ることはできない。

選手たちを支えるだけ。

それだけがマネの仕事だ

今のみんなの重い空気も、

でしゃばりだけど、私の些細な一言で何か変わるんじゃないかな

凌くん、

私が昔のような「便利な首席様」のままだったら

絶対こんなことは言えなかったんだよ

自分に自信がついたような気がするの

私、凌くんみたいになれたかな

私の気持ち、みんなに…凌くんに伝わってるかな

明里の目からは涙が流れていた。

凌は明里の涙を指で拭った。

明里が顔を上げると、みんな顔の緊張が溶けて微笑んでいた。

その時、ぶわっと明里の目から涙が溢れ出た。

バアンッ！

一颯の綺麗なトスからの陽真のクイック。

11対12

12対12

その時、克樹がトンッと静かにツーアタックをした。

12対13

明里は記録をしているボードをぎゅっと握っていた。

陸のスパイクは凌のブロックで止められた。

13対13

その時、向かい側から雛が大きく叫んだ。

その時、バァンッと一颯のサーブが月葉のコートに突き刺さるように落ちた。

14対13

ピッと笛がなる。

一颯のサーブは先程より勢いを増し、相手コートに飛んでいく。

陸がレシーブをする。

克樹のトスからの千紘のスパイク。

修也がそれをあげる。

明里は手に汗握ってその光景を眺めていた。

一颯のトスはふわっとあがる。

助走して、凌はその場に飛んだ。

バァンッとスパイクを打つ。

陸はボールに手を伸ばした。

しかし、

そのボールを腕に当たることもなく、月葉のコートに落ちたのだった。

15対13