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ノグチ カノン
街が賑わう日曜日。
閉店30分前の20時30分、
店のドアが開いた。
高鳴る胸を表すように
いつもより高く聞こえたベルの音。
ノグチ カノン
クロオ テツロウ
ノグチ カノン
ノグチ カノン
同じメニューで同じ値段、同じ台詞。
ノグチ カノン
毎週金曜日、この瞬間がとても好きだったりする。
この時間帯は客数が少ないので、
接客も商品を作るのも私だ。
いつも気持ちを込めて作ってるけど
彼の注文はそんなの比にならないくらい
心を込めて作ってしまうのはどうしてなのか、
自分でも分かってはいるけれど見えないふりをして
かれこれ数ヶ月が経っている。
彼の名前も何も、知らないまま。
別に運命的な何かがあった訳ではない。
喋り方、声のトーン、高い背に似合う黒いスーツ、いつもちょっとだけ疲れた顔、
注文の時と商品を渡すときに合わせてくれる目、
…シンプルにタイプなのだ。
ノグチ カノン
クロオ テツロウ
コーヒーを受け取った彼が、何かに気づいたように声を出した。
ノグチ カノン
クロオ テツロウ
そう言いながら、カップに私が書いたイラストを見せてくる。
ノグチ カノン
ノグチ カノン
絵心ない私が唯一かける動物で、
特に深い意味があった訳ではない。
いつもは“お疲れ様です、”や
“いつもありがとうございます”
などありきたりなことばかり書いていたので
たまにはと思って書いてみたのだ。
クロオ テツロウ
クロオ テツロウ
そう言ってこちらを見て軽く笑っていつもの席に向かう彼に、
比喩じゃなくてほんとうに心臓が止まった気がした。
ノグチ カノン
ノグチ カノン
オキャクサン
ノグチ カノン
顔に熱のこもったまま、次の注文へ向かった。
ノグチ カノン
破壊力絶大な彼の笑顔を見てかれこれ1週間。
正直この1週間は彼のことで頭いっぱいだった。
寝る前とか、ふとした瞬間にあの笑顔が浮かんできて
悶えてベッドでじたばたするを繰り返していた。
ノグチ カノン
自分の感情から目を背けることができなくなってしまった。
今日きたら、勇気を出してちゃんと声をかけてみよう、
そう決意して仕事に取り掛かった。
そんな日に限って、
彼はここにくるようになって初めて、お店に来なかった。