あまり嗅ぐことのない、紙の香り。
入った先は、静寂に包まれる図書館だった。
ぺらっ……
紙が擦れる音。
その音は、奥に人がいることを暗示していた。
奏
誰か、いる……
秀
ここで待ってろ。俺が行く
慎重に奥に歩みを進める秀。
秀
秀
この奥、だな……
秀
秀
ふう……
秀
秀
そこにいるのは誰だ!!
???
うるさいんじゃない?
秀
お前……!?
聞き覚えのある声に、無意識に駆け寄る。
奏
茜!!
茜
お二人さんも……いたんですね
奏
茜が無事でよかったよ
秀
茜、お前ここで何してんだ?
茜
ここの本……歴史とかを多く扱ってて、ここのことを少しだけ……知れました
奏
じゃあ、茜。ここって……「海底」なの?
茜
茜
……恐らく
茜
簡単に言えば、「海底探査船」みたいなものですかね
奏
そういう意味で、海底……なのね
秀
よくこんな大量な本から見つけたな
茜
ここ、丁寧にジャンル分けしてあって、凄く調べやすかったんです
奏
じゃあ、なんか気になったこととかない?色々読んでさ
茜
そう、ですね……
茜
公言している本はないんですが……ここ、本気の異世界よりは……
茜
近未来の日本……という感じがするんです
奏
ここが日本……?
茜
はい。
茜
ここの本……日本の名所とか歴史とかの本が多いんです
茜
それに、一番の根拠はミリタリージャンルです
秀
ミリタリー?
奏
軍隊とか……の?
茜
はい。軍隊なんですが、呼び方が「自衛隊」なんです
奏
なるほど
茜
茜
あ、話変わっちゃうんですけどお二人様は行く場所あります?
秀
え?行く場所……?
奏
いや、特にないけど……
茜
それじゃあ……ちょっと付き合ってくれますか?行きたい場所があって……
奏
構わないよ。行こう
茜
ありがとうございます!
茜は優しい笑みを浮かべ、すぐさま持っていた本を唯一の隙間に嵌め込んだ。
茜
それでは行きましょう
そして、図書館には一つの欠けも存在しない本棚だけが残った。
茜
茜
ここです
振り返った茜の背後には、錆びついた扉があった。
奏
ここ?
秀
なんだここ。急に古くなったな
茜
さっき読んだ本に地図があって……この場所に「時空の間」って記されていたんです
奏
時空の間?
茜
そして、もう一つの本に「時を戻す水晶を祀っている」とあったんです
秀
時を戻す!?なんだそれ!?
茜
そ、そこまでは……分からないですけど……
茜
私も気になって……
奏
取り敢えず入ってみようよ
秀
そうだな
茜
というか、こんなに錆びついていて…開くんですか?
奏
どうだろうね…?秀、開けてみて
秀
おう
秀
へ?俺?
奏
女子にこんな力仕事に汚れることさせるのか?訴えるぞ
奏
男なら率先してやれ
秀
それはそれで訴えれるぞ?
秀
はあ、わかったよ
ドアノブに手をかけ、秀は出せる力を精一杯出した。
が、そこまでの力は必要としていなかったらしく、ギャグみたく秀は頭から突っ込んでいった。
茜
しゅ、秀さん!?大丈夫ですかっ!!
奏
ちょ、秀!?
秀
秀
俺……首…吹っ飛んで、ない?
奏
いや、人類の形はしてる
秀
マジいてぇ
茜
死んでなかったんですね!!……よかったぁ
秀
え、茜も、言い方……酷くない?
奏
さっさと起きろ
秀
はあ……いってぇ……
奏
開けてくれてありがと
秀
んー
茜
お、お二人様……
奏
茜…?
固まった茜の視線の先は扉の奥。
時空の間の中。
釣られるように、二人は中を覗く。
奏
……
秀
……
二人も、固まるしかなかった。
視線を先には、時空の間から発せられる光を遮る人型があった。
???
こんにちは。待ってたよ