テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
すまない先生
真夜中の11時を過ぎた頃、僕はベッドの上でもがいていた
中々眠れなくてゴロゴロしていたら、突然昔の記憶が呼び起こされたからだ
【父さん……母さん……ヤマタノオロチ……】
すまない先生
誰にも伝えることが出来ないこの「痛み」に、もがき続けていた
すまない先生
すまない先生
脳の内側を刃物で引っ掻かれるような痛みが治まると、ジットリとした汗をかいていた
汗を布団で拭きながら、僕は右の壁に視界を広げる
壁掛け式の大きなカレンダーは、今日の一マスに「夏休み初日」と、明日の一マスに新しい字で「皆で遊びに行く!」と書いてある。
「皆」とは……あの七人以外の候補が浮かばない。
…というか予定あるなら早く寝なくちゃ行けないじゃん…
このままオールしてもいいけど寝てない状態で遊ぶのもいけないし…。
生徒達に「夜更かしはいけないよ」とか言えないしな……
ぶるっ。
すまない先生
急に来た寒気に鳥肌が立つ
エアコンの効きすぎか?と思ったけど平常だった
それに…この「寒さ」は───「恐怖」から来たんじゃないかと思った
でも、ちょっと違う気もする。
一瞬で寒さはなくなったから、僕は不思議に思った
すまない先生
すまない先生
僕は適当に立てかけてあるファミリー用の花火を視界の中に入れる
その瞬間、電光が突き抜けた
すまない先生
なんで今!?と自分で突っ込みを入れそうだった
けど、ものすごいいい案だ!と、勝手ながら感じた
真夜中だし、生徒達は寝ていると思うけど…いざとなったら一人で花火を楽しむよ
数ある中から一つのグループラインを開く
「3年B組 クラスライン」 僕は一通のメッセージをラインに託した
すまない先生
すまない先生
ガサゴソと部屋をあさって物を発掘する
一年前から使っていないから、上に物が積み重なってほぼ「発掘」だった
すまない先生
パジャマから服に変え、花火グッツを手に持つ
僕は靴を履きながら、ふと思った
すまない先生
すまない先生
僕は疑問に思ったが、こんな思い付き、考えても意味ないと思って、その事は捨ててしまった
____彼は、その感情に…気付かなかった。
───「懐かしい」……という事に。
パチ……パチパチ!!
『父さん!母さん!すっごく楽しい!!綺麗ー!!』
『もう、すっかりはしゃいじゃってるわね』
『まぁ”____”にとっては初めてだし、はしゃぐのも当然じゃないか?』
『ふふっ、そうね。……ねぇ、”____”、』
『ん?何母さん!』
『一緒にこれやらない?』
その手には小さな赤い紐のようなものがあった
『あぁ、線香花火か』
『線香花火?何?それ……』
『やってみたいか?』
『やりたいやりたい!!!』
『そうと決まれば、やりましょうか』
三つ分の花火を、ロウソクの火に花火を近付けた
シュボッ!!
『うわっ!すごい!パチパチしてる!!』
『動かすと落ちちゃうわよ』
『はーい!』
『──────?』
『───!!───〜!』
すまない先生
すまない先生
すまない先生
すまない先生
そうそう、とある事を思い出す
すまない先生
すまない先生
僕はクラスラインを開いて、驚きで目を白黒させた
送ってからまだ10分程しか経っていないのに、もう5件の通知が。
早過ぎないかと、僕は嬉しく笑った
バナナ 『分かりました。向かいます』
銀さん 『俺は起きているので行きます!!』
レッド 『了解です、暇なんで行きますね』
ブルー 『分かりました!!学校ですね、行きます!』
マネー 『今日は珍しく起きているので、向かいます』
全てのラインに目を通した時、一気に二つのメッセージが届いた
残りの二人からだった
ブラック 『こんな時に連絡なんて珍しいですね。私は行かせて頂きます』
赤ちゃん 『すまない先生!!なんか楽しそうじゃないですか!って事で俺は行きます!』
すまない先生
すまない先生
すまない先生
僕は靴を整えて立ち上がると、ガチャリ、と玄関のドアを開けた
外は真っ暗な夜の空が、待ち構えていたようにあった
ドアに花火グッツをぶつけて衝撃音を鳴らしながら、いえから外へ繋がる境目を飛び越えた
タッタッタッ……
深夜に響く足音には、聞き覚えがある
───僕ら、3年B組の生徒は、すまないスクールの校庭に集まっていた
当然、あのメッセージは3年B組の生徒に送られるものだったから、見ていてもおかしくないのだが……。
この時間帯を考慮して、来る確率は低いと思っていたが…。
まさかの全員来た。
しかも誰も寝起き感がない。
ミスターバナナ
僕はサングラスの奥で推理するようにクラスメイトを見た
ミスターバナナ
喉の奥が嫌な音を轟かせた時、赤ちゃんが口を開いた
ミスター赤ちゃん
ミスター赤ちゃん
ミスター銀さん
ミスター赤ちゃん
ミスター赤ちゃん
ミスターバナナ
ミスターブラック
ミスター銀さん
ミスター銀さん
「三人」と言った方を銀さんは見つめている
…普通に考えて、こんな偶然は考えられないからな。
やがて、銀さんはホッ、とした感じの笑顔になった
その顔には、小さい雫が伝っていた
ミスター銀さん
ミスター銀さん
ミスターブルー
ブルーは大変言いにくそうに、銀さんに言った
ミスターブルー
ミスターブルー
ミスター銀さん
銀さんは完全に意味がわからないと目を見開く
更に追い打ちをかけるように、彼にはレアな、深夜に合う静かな口調でマネーが言う。
ミスターマネー
ミスター銀さん
銀さんは恐怖を感じて、それっきり固まった
無理もない、こんなの都市伝説としか思えない。
少しでも空気を変えようと、僕は口を開いた
ミスターバナナ
ミスターバナナ
ミスターブラック
ミスターブラック
ミスターマネー
ミスターバナナ
僕は拳銃を構えると、情けをかける事なく撃った
ダアン!!
ミスターマネー
ミスター銀さん
ミスターバナナ
ミスターレッド
「おーい、皆ー!!」
よく通る大人の声。
その方を見ると、両手に荷物を抱えて走ってくる…すまない先生。
すまない先生
すまない先生
ミスターブルー
すまない先生
すまない先生
ミスターブルー
僕も完全な私服だし、見回しても見覚えの無い服ばかりだった
あまり固定の服以外で会うことなかったしな……
ミスター赤ちゃん
ミスター赤ちゃん
すまない先生
すまない先生は声のトーンを上げると、荷物を自分の後ろへ隠す
…いや、さっき普通に見えていたが……と思ったが、ほぼバケツにぶち込まれていた為、何をやりたいのか分からなかった
全員の注目がすまない先生に注がれた時____
「ふっふっふ…」と笑い声を漏らしながら両手を前へ突き出した
『花火ファミリーパック 80本セット』
花火!?!?
驚きで全員が素っ頓狂な声を上げてしまった
先生は満面の笑顔で言う。
すまない先生
すまない先生
ミスターブラック
何故先生が起きていたのかは問わず、賛成意見を述べるブラック
続いて他のメンバーも賛成した
ミスターブルー
ミスター赤ちゃん
ミスター赤ちゃん
ミスターブラック
ミスター赤ちゃん
ミスターレッド
レッドは先生と赤ちゃんを見ながら二ッ、と笑った
ミスターレッド
レッドはすまない先生に目配せをした
気付いた彼は、大きく手を挙げた
すまない先生
刹那、全員の拳が上がったのだった
ロウソクに火を付け、手持ち花火の先に火を近付ける
火が移ると……
シュボッ!!
花火が弾け、火の粉が噴き出す。
鮮やかに色を変える花火、パチパチと弾ける花火……種類は様々だ。
最初は少し大人しく…と思っていたが、テンションが上がっていくにつれそれ所ではなくなった。
ミスター銀さん
ミスターバナナ
ミスターブラック
ミスターブラック
ススキ花火とは、花火の部分が長く、着火するとススキの穂のように火花が前方に吹き出す花火のことだ。
僕ら三人は、すまない先生が持ってきてくれたロウソクの前へ並ぶ
前のメンバーが着火し終えると、僕もしゃがみ、花火を着火する
…ロウソクの先端に当てると良さそうだな
シュボッ!!
ミスターバナナ
急ぎでロウソクの元を離れ、三人並べる広さがある所へ進んだ
すぐに、僕の近くに銀さん、ブラックがやって来た。
ミスターブラック
ミスター銀さん
ミスターバナナ
僕が呟くと、二人はコクリと頷いた
一番右端にいた銀さんがふと左側を覗くと、「えっ、」と小さく声を漏らした
銀さんに話しかける前に、首が意思をガン無視して左に動いた
見た景色は───
皆が一列に、花火を持って楽しんでいた
誰も新しい花火を取りに行こうとしていない、完璧な一列
目をこらせば分かる、彼らの「幸せ」がいっぺんに見られた
前方の方にいるすまない先生はカラフルススキ花火を、赤ちゃんは手持ち花火スパークルを持ち、
赤ちゃんが持つ花火の火花が、パチンと足元に落ちた
跳ねる赤ちゃんに、すまない先生は大きな笑い声を響かせた
手持ちスパークルとは、火花がパチパチと燃えるように弾ける花火の事だ。
中央にいるマネー、レッド、ブルーは同じ手持ちスパークルを持ち、バチッと弾ける花火を楽しんでいるようだった
今も絶えることなく、赤、青、黄色の輝きを散らしている
その光に照らされ、三人の笑みが露となっていた
そして後列の僕ら。
僕とブラック、銀さんは共に長めなススキ花火を見つめ、銀さんは彼らしい暖かい笑み、
僕とブラックはどちらかと言うと控えめな微笑みを浮かべている
……花火、中々楽しいもんだな。
───ようやく、気付けた───
ミスターバナナ
僕のどこかに刺さり、抜けなかった棘が、どんどん溶けて消える
その棘の名は……「寂しさ」
まず、全員過去を思い出したと仮定する。昔を見て寂しくなったか……
いや。
元々…全員寂しさは抱えていたんだ
それが、「昔を思い出す」という形となって漏れてしまったんじゃないか?
この「棘」がもし”寂しさ”だとしたら……。
その時、一層花火の光が増した
自然現象とは思えないが、一人、また一人とも光が増していった
気付けば、打ち上げ花火かと思う程、神々しい輝きが目の前にあった
バチバチと雷のように大輪の花を咲かせ、噴射するかのように吹き出す花火。
七色に移り変わる、火花の色。
____そのせいか、ほんの少し輝いた後、すぐに燃え尽きてしまった
ほぼ同じ時に終わった花火は、ずっと心の中で再度弾けていた。
何事も無かったように、また普通に花火を楽しんだ
……何事も無かったように振る舞った、だけかも知れない。
ロウソクの火が灯火になる頃には、花火は残り八本になっていた
すまない先生
ミスターブラック
ミスター赤ちゃん
ミスターバナナ
ミスターマネー
ミスターレッド
ミスター銀さん
ミスターレッド
ミスターブルー
ミスターブルー
すまない先生
すまない先生
その途端、先生以外の顔が引きつった
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターブルー
ミスターマネー
ミスター銀さん
ミスター赤ちゃん
ミスターブラック
ミスターバナナ
すまない先生
すまない先生が春風みたいな声で笑う。
先生は指先で線香花火をつまみながら、顔の横に持ってきた
すまない先生
すまない先生
すまない先生
先生はロウソクを持ってくると、その正面に来るようにしゃがむ。
その隣に赤ちゃん…ブラックてんかと、次々に並ぶ
その形は、ロウソクを囲んで円になっていた
ミスターバナナ
ミスター赤ちゃん
すまない先生
パチリパチリと、八本の線香花火がほのかに弾けた
寂しさは……埋めようとしても埋まらない
「埋める」じゃなくて、付き合うんだ
無理な感情は、一人の力じゃ難しい。
____けど、線香花火のように、小さくて尊い、大切な自分の一部
この小説を見終えた時には───
ほんの少しでも暖かい夢を見られますように。
──────また、一部が動き出したら………いつでも来て下さいね。
───貴方にも手持ちの打ち上げ花火と、囲んだ線香花火がありますか?───
【眠れぬ夜に、灯火見つけて】
〜完〜
コメント
6件
ワハァ!もう神!本当神!私も急いで仕上げなければ… そういえばサムネが最後のイラストになってたよね!読む前に私はサムネ見たんだけど、線香花火みたいだなぁって思ってたら最後でなるほどっってなったよ!「線香花火」を『灯火』にするとか天才か!?あのときは…本当に驚いた!すげぇ!優勝候補だなぁ🌟夏にちなんだ作品最高!
わぁぁあ!!めっちゃ最高! 語彙力失ったよ!リーブの語彙力には追いつけないね( ˶'꒳'˵ ) 夏にちなんだ作品だね(* 'ᵕ' )☆ 見てたら花火やりたくなったなぁ [埋める]じゃなくて、付き合うんだ の所!!!もう名言生み出しちゃってるよ!天才だね☆ こういう小説好きかもしれない(笑)ほかの小説も楽しみに待ってまぁす!
ミクルさんの小説コンテスト作品です。 最後の方に出てきたイラストはイラストのコンテストに出す気はありませんが、ミクルさんが審査したければ、ご自由にお願いいたします。 読んでくださった皆様に、感謝申し上げます。