美 咲
次の日の放課後、美咲が私の机に駆け寄ってきた。
千 佳
荷物をまとめて、教室を出る。
廊下を歩きながら、美咲がじっと私の顔を見てくる。
千 佳
美 咲
千 佳
美 咲
美 咲
図星を突かれて、私は視線を逸らした。
千 佳
美 咲
美 咲
美咲は立ち止まって、私の肩を掴んだ。
美 咲
美 咲
その真剣な眼差しに、私は負けた。
千 佳
美 咲
深呼吸して、言葉を探す。
千 佳
千 佳
美 咲
美咲の目が丸くなった。
美 咲
美 咲
千 佳
慌てて周りを見回す。
幸い、廊下には誰もいなかった。
美 咲
美 咲
美 咲
美咲は私の腕を掴んで、階段の踊り場に引っ張って行った。
美 咲
美 咲
千 佳
千 佳
千 佳
言葉にすると、また胸がドキドキする。
美 咲
千 佳
認めた途端、また顔が赤くなる。
美 咲
千 佳
美 咲
美咲はニヤニヤしながらしながら、優しい目で私を見た。
美 咲
もしかして初恋ちゃう?
『 初恋 』
その言葉が、胸に響いた。
そうか。
これが、「 恋 」なんや。
千 佳
美 咲
美 咲
美咲が嬉しそうに笑う。
美 咲
美 咲
何も知らんのやろ?
千 佳
千 佳
美 咲
千 佳
分からへん
美 咲
千 佳
美 咲
気になる人できたんやで?
美 咲
もったいないやん
美咲の言葉に、胸がドキドキする。
千 佳
美 咲
乗ってみたら?
美 咲
千 佳
美 咲
美咲の前向きな言葉に、少しだけ勇気が湧いてきた。
それから三日。
私は毎日、あの時と同じ時間の電車に乗った。
でも、あの人の姿はなかった。
やっぱり、そんな都合よく会えるわけないよね。
諦めかけていた金曜日。
美 咲
美 咲
美咲が息をつく切らしながら私のところに走ってきた。
千 佳
美 咲
高校生とすれ違ってんけど
千 佳
美 咲
特徴の人がおったん!
心臓が飛び跳ねた。
千 佳
美 咲
美 咲
少し猫背で...
千 佳
美 咲
美咲が私の手を握った。
美 咲
やって!2年生!
千 佳
同じ学校。
あの人が、同じ学校にいる。
信じられへんくて、心臓がバクバクする。
美 咲
美 咲
言うんやって
「 角名倫太郎 」
その名前を心の中で何度も繰り返す。
美 咲
美 咲
評判らしい
『 バレー部 』
『 真面目で優しい 』
もっと知りたい。
もっとあの人のことを知ってみたい。
美 咲
調べてみたら?
千 佳
美 咲
名前分かったんやから
美 咲
しれへんで
千 佳
美 咲
美咲に背中を押されて、私はスマホを取り出した。
震える手で、検索バーに名前を入れる。
{ 角名倫太郎 }
検索ボタンを押すと、いくつかアカウントが出てきた。
美 咲
美咲が私の肩越しに画面を覗き込む。
プロフィール写真。
バレーボールを持った男子高校生。
あの人や。
美 咲
美 咲
千 佳
美 咲
美 咲
鍵垢ちゃうし
美 咲
変ちゃうで
千 佳
迷いながらも、フォローボタンに指を置く。
押す勇気が出えへん。
美 咲
美咲の声に後押しされて、ポチッとボタンを押した。
{ フォローリクエストを送信しました。 }
画面に表示された文字を見て、心臓が早鐘を打つ。
美 咲
美 咲
美 咲
これからどうすれば...
美 咲
待とうや!
[ その日の夜 ]
ベッドに横になって、スマホの画面を見つめる。
まだ承認されてへん。
当たり前やんな。
知らん後輩からのフォロリクなんて。
諦めかけたとき、通知が来た。
{ 角名倫太郎があなたの } { フォローリクエストを承認しました。 }
え。
承認された。
心臓が爆発しそうなくらいドキドキする。
角名先輩のアカウントを開く。
投稿を見る。
バレーの練習風景。
仲間との写真。
どの写真も、電車で見たあの人だった。
もっと見たい。
もっと知りたい。
でも、これ以上どうすれば...。
[ 翌日 ]
土曜日の昼過ぎ。
美咲から電話がかかってきた。
美 咲
千 佳
美 咲
されたんやろ? 』
美 咲
千 佳
美 咲
ええやん! 』
美 咲
いけば! 』
千 佳
美 咲
何も始まらんで? 』
美咲の言葉が胸に刺さる。
そうや。
何もせえへんかったら、何も変わらへん。
千 佳
美 咲
美 咲
電話を切って、DMの画面を開く。
何を書けばいいんやろ。
手が震える。
文字を打っては消して、また打っては消して。
結局シンプルな言葉を選んだ。
{ 初めまして。フォローありがとうございます。 森川千佳です。 }
送信ボタンを押す前に、何度も読み返す。
変ちゃうかな。
おかしくないかな。
深呼吸して、えいっと送信ボタンを押した。
既読がつくのが怖くて、すぐにアプリを閉じた。
それから一時間。
通知が来た。
角名先輩からの返信。
{ 初めまして。角名です。 こちらこそフォローありがとうございます。 }
返信が来た。
ほんまに返信が来た。
嬉しくて、胸がいっぱいになる。
でも、これからどう返せばいいんやろ。
千 佳
{ 1年生です。 バレー部の活動、いつも素敵やなって思ってます。 }
また既読がつくのを待つ時間。
心臓がドキドキする。
{ ありがとうございます。 }
{ 1年生なんですね。 学校で見かけたら声掛けてください。 }
『 声掛けてください。 』
その言葉が、何度も頭の中でリピートされる。
[ 月曜日 ]
私は2年生の教室がある階に用事を作って 何度も通った。
でも、角名先輩の姿を見つけられへんかった。
美 咲
昼休み、美咲が聞いてくる。
千 佳
美 咲
美 咲
すごいで!
千 佳
美 咲
千 佳
そのとき、廊下を歩いていた私たちの前を 誰かが通り過ぎた。
背が高くて、黒髪で、リュックを片方の肩にかけた 男子生徒。
誰かが呼ぶ声。
『 角名 』
振り返ると、角名先輩だった。
心臓が止まりそうになる。
美 咲
美咲が私の背中を押す。
千 佳
よろけた私は、角名先輩にぶつかりそうになった。
倫 太 郎
角名先輩が私の腕を掴んで、支えてくれた。
倫 太 郎
顔をあげると、角名先輩の顔があった。
近い。
すごく近い。
千 佳
千 佳
慌てて距離をとる。
顔が熱い。
倫 太 郎
角名先輩は優しく笑って、そのまま行こうとした。
千 佳
思わず声を掛けてた。
角名先輩が振り返る。
千 佳
倫 太 郎
角名先輩の顔が明るくなる。
倫 太 郎
千 佳
緊張で声が上がる。
倫 太 郎
そう言って、角名先輩は微笑んだ。
優しい笑顔。
胸がドキドキする。
千 佳
角名先輩が行ってしまったあと 私はその場に立ち尽くした。
美 咲
美 咲
美 咲
美咲が駆け寄ってくる。
でも私の頭の中は、角名先輩の笑顔でいっぱいやった。
また、話したい。
もっと、話したい。
✧ 次回予告 ✧
角名先輩と話せるようになった千佳。
少しずつ距離が縮まる2人。
でも、千佳の心には「 不安 」が芽生えて──。
第 3 話 「 距離 」
つづく







